08 勇者の交渉
この人、ぶっちゃけちゃったよ。
「しかしだ。これまで一緒にやってきたのだぞ? ちょっと仲間の実力に不満がある位で簡単に切り捨てるのは人としてどうなんだ? その分を補ってこそのパーティーというものだろう?」
「ああ、俺もそう思う」
互いが互いの不足している部分を補うのがパーティーってものだ。
その繰り返しがいつか自分にも返ってくると思っていた。
どうやらそれはルナスも同じだった様だ。
「だからこの感情は私の心の中に一生仕舞っておく方が良い……そう思っていたのに先程の事件が起こった」
つまり、なんだ?
ルナスはマシュアとルセンに対して不満があった。
けれど仲間だから、今まで一緒にやってきた仲だから、その気持ちを生涯隠すつもりだった、と。
しかし、俺を簡単に見捨てようとする姿を見て、怒りが……勇者の怒りが爆発した。
マシュアがルナスも同意してくれると思っていたのは、自分と同じような顔をしているからだと勘違いしていたって事か。
「彼等は私が最強でいる為の存在である君をゴミの様に捨てようとした。そんな事、看過できるものではない!」
これは……どう反応すればいいんだろうか?
要するにアレだよな?
「それに……ふふふ、彼等は邪魔ならばと簡単に仲間を切り捨てたのだ。ならば私もやっていいはずだ。そうだろう? 違うか?」
俺達の勇者様がマシュアとルセンの所為で野盗の親玉みたいな事を言い出した。
もしかしてルナスもマシュア達があんな事を言い出した所為で混乱していたりしないか?
まあ、殺す為にこんな所で追放を言い渡す様な下衆な奴だとは俺も思っていなかったけどさ。
というか、返事を求めないでくれ。
それに対する明確な答えを俺は持ち合わせていない。
「さて、私の秘密はすべて話した。その上で君と交渉したい」
「交渉?」
「無論、今後の話だ。そうだな、まずはこの手の話で最初にするであろう、お金の話だ。金銭分配は五分……いや、最低でも六割は君に渡すべきだと私は考えている」
「は? 六割も?」
パーティーで戦っているので冒険で得た金銭は当然分配する事になる。
この際、キナ臭い要素として誰がリーダーで、誰がどの役職で、誰がどう活躍して~~と言った具合に完全に半々と行かないのが世の常だ。
これまで俺はそういう分配で低めに設定されていた。
そりゃあ勇者やプリースト、賢者という、専門性の高い役職の人ばかりだったので、必然的に俺の取り分は少なくなる。
これに不平も不満も抱いた事はない。
彼等の能力や立場を考えれば公平な分配だった。
そして今はマシュアとルセンが居ない。
仮にこれまで通りの収入で六割だとしたら……想像も出来ない位のお金がもらえる事になる。
「当然だろう? 私が最強でいる為には君が必要だ。つまり私の強さの大部分は君に寄る所が大きい。なんせ君がいるだけで通常の私よりも四倍強くなるのだからね。そして現状、君の代わりが務まる者は居ない」
まあ確かに。
死んだフリなんてスキルを使っている人、見た事無いしな。
そして、極論すればプリーストや賢者は代用の利く人材だ。
マシュアやルセン以外にも同職業に就いている人は存在する。
こう……死んだフリがファーストスキルとか、本来は悪い意味で代わりが居ないって意味のはずなんだけどな。
「マシュアとルセンが抜けた影響が収入に響くと思うかもしれないが……君はがんばり屋だからね、今までは私達の為に本当に危機的状況になった時以外、死んだフリをしなかった。だが、これからは最初から四倍だ。今までよりも楽に戦えるだろう。その分で金銭的な部分は賄えると私は判断している」
言われて見ればそういう風に考える事も出来るな。
俺が条件さえ知っていれば最初から勇者の怒りの条件を満たす事が出来る。
むしろルナスの立場からすればもっと早く使ってくれとすら思っていたかもしれない。
だが、ルナスもその件で強要はしてこなかったし、事情を知る必要があるから秘密を教えてくれたんだろう。
しかし、六割かぁ……金の話になると人は変わると言うが、その金額の大きさに目が眩んでしまう。
う~ん、だって六割だぞ?
「何ならこれからは君がリーダーでもいい」