79 再度迷宮
「ヌマ!」
スキルを授かって今までの日々を思い出す……俺のスキル構成を知った際の周囲の目、態度……それは俺に取って既に馴れてしまった日常となってしまったけれど、確かに授かった時には悔しい想いを抱いた。
やがて周囲の評価を諦めてしまいながら、それでも何かを諦めきれずにルナス達と冒険を続けて居た。
努力だけではスキルを超える事は出来ない。それは無慈悲でもある要素だ。スキルを所持して努力することでやっと意味がある。
幸い、範囲が広くて器用貧乏だけど把握のスキルのお陰でレンジャーとしてやってこれた。
けれど……マシュア達が俺を謀殺しようとして、ルナスが俺をかけがえのない才能を持っていると死んだフリを評価してくれた。
もしかしたらあと少しでフォーススキルが花開くかも知れない。
……死んだフリをするだけで習得するのは間違っていると思うけれど、それでもそんな夢を見ても良いはずだ。
「そうだな。じゃあ迷宮にできる限り準備してから挑もうか」
「うむ!」
「ヌマ!」
城下町が見えた所で俺はもう馴れた口調でルナスの要望に応える為に準備をする事にしたのだった。
で、王宮の受付で今回の依頼を達成した事を報告すると、ルナスの評価は大きく向上し、国が育てた空飛ぶ生き物を使用する高速便、ワイバーン便の使用が許可されたそうだ。
辺境の地までの道中をもっと短縮出来るようになったと喜ぶべきなんだろうけど、これまでの道中を考えるとなんとも複雑な気持ちになるのだった。
「さてと……準備は良いかな? リエル、クマール」
俺達はミットロハール大迷宮に戻ってきた。
その入り口でルナスが告げる。
今回の依頼はルナスが大きく出て迷宮36階に生息するファイアージュエルドラゴンから得られる心臓……核石の入手だ。
それ以外に達成は困難で、出来なくても問題ないと評される40階以降の調査。
王宮内でも達成した者が非常に少ない高難易度の依頼を受注してルナスはやってきた。
まあ……勇者の怒り戦法ならおそらく無理なく進む事が出来るだろう。
「準備は万端、相当不測の事態にならない限りは問題ない」
ブレイブオーガの討伐報酬に合わせて、前々回の依頼で持ち帰ったエンシェントフリージングクイーンレオの素材を使って作った革鎧やグローブなどもあって装備は十分。
他に食料や香辛料、罠解除に必要な機材や念の為の高い聖水。
武具のメンテナンス用の機材。
大量の荷物を強化したリュックに入れて持ってきた。
後は34階以降の情報をまとめた資料も入手済みだ。
城の書庫で入念に調べたので間違いは……先駆者の冒険者達の話が嘘で無い限りは十分だろう。
ブレイブオーガ退治の旅の時よりも重装備だ。
これだけやっても準備が足りないって事は……まず無いけど、それでも不安は拭えるものじゃない。
「ヌマー」
クマールも任せろとばかりにリュックを背負っている。
ちょっとした小物とかを取り出しやすいように持ってもらっているぞ。
「では出発しようではないか」
ルナスの声と共に俺達は迷宮へと足を踏み出した。
「おや? 入っていきなり呪詛の罠がある」
「ふむ、この階層では珍しいな」
とりえあえず解除っと。
「さすがは迷宮。何が起こるかわからないな」
新米冒険者が掛かったら困るだろうし、これで良いだろう。
「では、今度こそ潜っていくぞー!」
「ヌマー」




