77 よし迷宮、やれ迷宮
「じゃあ行こうか」
「ヌマー」
クマールを抱えて俺達はそれとなく輪の中から外れて村から出た。
「もう出発してしまうのですか?」
村から出ようとした所で気づいた村人が声を掛けたがルナスが軽く手を上げてから頷いて答える。
「我々も色々と忙しい身でね。ここみたいに被害に遭っている者達を助けに行かねばならないのだ」
どの口が言うんだとは思うけど注意したって良いことはないので黙って置く。
ま、まあこういう言葉をスラスラと格好良く言えるのが勇者らしいのかもしれない。
「そうですか……どうか私達のように困っている方々を救ってください。本当に……ありがとうございました。勇者ルナスさんとその仲間の方」
やっぱり俺の事は印象薄いよなぁ。
名前なんてまず言われないし。
これもパーティーに所属する仲間の宿命。
勇者の代わりにリーダーとして話をすれば名前を覚えてもらえるんだけどな。
まあ勇者パーティーである以上、主役は勇者のルナスなんだ。
「うむ。では行くぞ!」
っとルナスは手を振る村人に手を振って、足早に村を後にしたのだった。
そして村が見えなくなってからルナスは言った。
「よし迷宮、やれ迷宮だ!」
どんだけ迷宮に行きたいんだろうか。
問題を解決した後、名誉も金も気にせず困っている人々の為に颯爽と旅立つ勇者って英雄譚とかで聞くけど、もしかして今のルナスみたいに実はしょうもない別の目的があって旅立ったとかなんだろうか。
過去でも今でもそこは変わらない……なんて事だったら嫌だなぁ。
出来ればルナスはそうだったってだけであってほしい。
「ヌマー」
ただ、これでドラークがやるはずだった仕事の尻拭いは終わったんだし、晴れてルナスのやりたかった迷宮への挑戦が出来るようになったのは間違い無い。
今は依頼を達成したって事で納得しよう。
帰りは来た道をそのまま帰るだけなので道中は特に何か問題が起こる事もなく、旅は順調だ。
ただ、目的地にそんな長い事居なかったので少々味気ない旅だったって所だなぁ。
近道に森を当然の事ながら使って行く……森の魔物達はルナスを覚えているのか全く近づいてくる様子はなく、行きでルナスが作った橋まで問題なく来る事が出来た。
むしろ行きより早い日程で来れてしまった。
ここでルナスは自らが架けた橋を見ながら呟いた。
「なんで私は橋など架けてしまったんだ……素直に飛び越えてしまえば帰りも勇者の怒りが堪能出来たというのに……」
言うんじゃないかと思っていた事をそのまま言ったルナスにため息しか出なかったのは印象的だった。
「ヌマヌマー」
クマールは旅に慣れてきたのか楽しげに俺達の前を歩いて進んで行く。
「まあ問題なく依頼を終えてここまで来れたのは良い事だよ」
「そうだな……では本題の迷宮に向けて準備をするぞ! リエル」
「わかってる」
「私はより深い階層に潜り、君が力をつけた際にかのフォーススキルが早く花開く事を願っているよ」




