75 謙遜していない
「ヌマー」
クマールが周囲をキョロキョロと見渡しながら鳴いた。
すげえなーって感じだろうか。
「ルナスはすごかったな」
「ヌマ!」
こくりと頷くクマールは何処か俺達を誇らしげに見ている。
あんまり威張れる戦い方じゃないんだけどさ。
勇者の怒りって恐ろしい。
事実を知らず、マシュア達と別れる事が無かったらきっと俺達はここで相当苦戦していたはずだよな。
考えて見るときっとあのブレイブオーガを相手に砦の冒険者達と力を合わせて必死に戦っていたんだよな。
……いや、あのブレイブオーガが好敵手と見ずにドラークが来るまで加減されていたかも知れない。
まあ、俺が何処かで死んだフリを使う可能性は結構高いか。
そうなったらルナスは嬉々として力を振るい……結果は変わらなかっただろう。
どちらにしてもドラークが来る前に解決か。
「ははは! 私ではなく君の力でもあるのだぞ。遠慮は無用だ」
というわけで俺達は砦に戻ると、遠くで確認していた冒険者達がこっちに驚き半分、呆れ半分って様子で近づいてきてルナスへと声を掛けてきた。
「おいおい、砦で迎え撃つんじゃなかったのかよ」
「そのつもりであったが思ったより奴らが大した事がなくてな」
「は! これが宮仕えになった勇者様って事か。遠くでも分かるくらい凄腕じゃねえかよ」
「俺達だっていつかやってやるぜ!」
なんか冒険者達が身の程知らずの事を言っているような気がするけど、案外これってわからないものだ。
誰かが当たり前のようにやっているとすごく簡単そうに見える。
けれど実際にやると驚くほど難しいというのはレンジャーで把握のスキルを持つ俺からすると逆に痛いほど分かってしまう事だ。
ここに前から派遣されていた宮仕えパーティーは落ちこぼれパーティーでルナスはエリートって思われている可能性は高い。
「あのブレイブオーガは中々の強者だったぞ。あまり侮れる相手ではなかった事は理解してくれ」
「謙遜してやがるな! どっちにしてもこれでここも平和になるってもんだ!」
相対的にあのブレイブオーガの強さは低く見られてしまう。
それをルナスは正そうとするけれど冒険者や村の者達は理解してくれない。
非常に歯がゆいな……俺達は自身の強さの秘密を知るからこそ、相手の強さが驚くべき物なのだと分かってしまう。
「ほら! みんなで戦勝会だ! ぱーっと騒ぐぞー!」
「「おおー!」」
「うおー!」
っと冒険者達は盛り上がりを見せる。
「あの……さっきはありがとうございました!」
助けられた村人はルナスに向かって感謝の言葉を述べる。




