71 オーガセージ
「ふははは! 遅い! 何もかも遅いぞ!」
降り注ぐ矢の雨の中をくぐりながらルナスはハイオーガ達を切り伏せた。
そして飛んで来る矢をすべて掴んで集めてオーガアーチャーに向けて手で投げ返す。
矢の速度があまりにも速くて、それは発光すらしており、スターン! という音と共に焦げた矢がオーガアーチャー達を串刺しにしていく。
「う……うう……」
で、そのオーガ達に捕らえられた人間の女性を盾にしたオーガ……オーガセージが現れた。
ゴブリンシャーマンとかは結構聞くけど、オーガのセージは珍しいな。
盾にされているのは、どうやら逃げ遅れて捕らえられた村人のようだ。
なんとも厄介な。
「ウガ!」
動くな! 動いたらどうなるか分かっているのか! とばかりにオーガアーチャー達の近くに回り込みオーガセージが剣で人質を脅す。
「た、助け……ヒィ……」
「この下衆が!」
さすがのルナスも人質を相手に動くわけにはいかない。
「ウヒヒ! ガー!」
そんな動けずにいるルナスにオーガセージが下品な笑いをゲラゲラと繰り返している。
その様子をブレイブオーガもただ黙って見ている状態だ。
あの笑い方がどことなくルセンを彷彿として不快だ。
……今なら死んだフリを解除してもルナスに迷惑は掛からなそうだな。
戦闘中に死んだフリが解除されるってのが一番ルナスとしては困る事だろう。
高速で移動していたのに突然通常速度になるとか、転びかねないし下手をすれば命に関わる。
「ウッガガー!」
さあ、やれ! とばかりにオーガセージが人質を盾にしてオーガ共に攻撃を命じる。
オーガアーチャーもルナスに向けて弓を向けて矢を放とうとしている。
俺は死んだフリを解除して、オーガセージ目掛けて素早く狙いを定めてクロスボウの引き金を引く。
ビュッと、オーガ達が意図しない方角からクロスボウの矢が素早く飛んで行き、オーガセージの人質に当てていた剣を持つ手に突き刺さった。
やっぱりオーガセージだからか防御力は大した事が無いようだ。
「キャ!」
「ガ――!?」
思わぬ矢が命中した事によりオーガセージは剣を取り落とした。
よし!
直後に俺は死んだフリを再度使用する。
ルナス、後は任せた。
「今だ!」
残像を纏ったルナスが全速力で人質の元に駆け寄り人質を抱き寄せつつ大きく飛んで距離を取って人質を解放した。
「早く逃げるんだ!」
「は、はい!」
「逃げるんだー!」
人質となっていた女性はルナスの動きに見惚れていたような顔をしていたけれど、すぐに我に返って砦へと走り出す。
「もっと早く逃げるんだー!」
いや、何回言うんだよ。
直前まで捕まってたんだぞ? 無茶言うなよ。
村に来た時から気になっていたんだが、この逃げるんだ叫びさ……多分、早く勇者の怒りを使いたいからさっさと行けって事だよな。
いや、戦闘が出来ない人がいると困るのは事実なんだけどさ。
妙に多用していたから耳に残っていたというか。




