70 オーガ蹂躙
「ヌマー」
そんな撤退していく冒険者達とは別に俺は村の建物の影に身を隠しながら様子を伺う。
「ウグァアアアアアアア!」
行け! っとばかりにブレイブオーガは側近らしきハイオーガ4体をルナスにけしかける。
「レイブレード!」
ルナスは剣に魔法を宿して切り裂く勇者の剣技でハイオーガ達に向けて斬りかかった。
「ウガァ!?」
剣がドラゴン製の名剣であるからハイオーガ達の皮膚を容易く切り裂き、鮮血が飛び散る。
その攻防の合間を縫ってオーガアーチャーがルナスに向かって矢を放った。
「ふん!」
攻撃を受け流しながらルナスは巧みに飛んで来る矢を切り落としたりハイオーガを盾にしたりして矢の雨を掻い潜っていく。
多勢に無勢だけど、この程度は前哨戦でしかない。
昔だったらここで俺がハイオーガはともかく、他のオーガやオーガアーチャー辺りの注意を引きつけつつマシュアやルセンが援護で魔法を放って数を減らす戦法をするのだが……。
さて……他の冒険者達も砦に逃げて行ったな。
「よし、クマール。お前も注意するんだぞ?」
「ヌマ」
砦からもオーガ達からも見えない茂みに身を隠した俺はそっと死んだフリを発動させる。
ああ……こんな所で死んだフリをしている姿なんて見せたくない。
念のためにクロスボウはしっかりと手に持ってるぞ。
ちょっと棺桶が俺の身長よりも大きく出るのでその辺りも想定して死んだフリをしてっと……。
チラッとルナスが俺の潜伏している茂みに意識を向けているのがわかる。
顔は早くしてくれって感じだ。
あの攻撃の雨の中では当然か。
「よし来たぁああああ! 私は最強だー!」
俺の死んだフリによってルナスの勇者の怒りが発動し、残像を出しながら動き始める。
しかし、やはりそのハイテンションには慣れないな。
「では行くぞ! はぁああああああああ!」
先ほどの動きとは天と地ほどにも差がある高速移動でハイオーガ達へと接近して剣で切りつける。
「ウガァ!?」
スパン! っと元から切れ味の良い剣でハイオーガを切りつけて次のハイオーガに向かってルナスは移動した。
「ウガ!」
なんだ? こけおどしか! 驚かせやがって! くらええええ! っとハイオーガが大きな斧を振り上げてルナスに向かって一歩踏み出したその瞬間――ズルンと一刀の元に切られたハイオーガの体が裂ける。
「ウグアアアアアア――!?」
ブシューッと鮮血が周囲に飛び散った。
斬られた事が結果として表れるまで時間差があるなんて……なんとも恐ろしい現象だ。
真っ二つになったハイオーガは何が起こったのかわかっていない。
真っ二つになって尚わからないと言った顔付きでいて、自らの斬られた体を元に戻そうともう片方の体と重なろうとしてそのまましばらく動いていた。
ちょっと猟奇的にすら見える。




