64 観察記録
茂みに隠れながら把握で様子を確認……周囲には念のための防衛網らしき鳴子や罠が仕掛けられているけど、この程度の仕掛け、解除出来ない範囲じゃない。
で、山賊共の拠点に人の気配は無し。
問題はなさそうだな。
「よし、戻るぞ、クマール」
「ヌマ!」
俺達は偵察を終えてルナスの元に戻った。
「経過はどうだ?」
「拠点は発見した。あっちにある隠された山小屋だ。人の気配は無い。総勢でお出かけしてたみたいだな」
「ふむ。早速調査に行くとしよう」
こうして俺達は山賊共の山小屋を調査し、奴らが略奪していた品々を回収して次の目的地である街へと辿り付き、ギルドにて報告と回収した品々を提出したのだった。
山賊共がため込んでいた宝の類いは……普通の冒険者だと密かに拝借とかする奴もいるだろうけど俺達は宮仕えだからな。
拝借するほど卑しくない。
マシュアとルセンは昔、一部拝借してたけどそれくらいは大目に見てもらえるのが冒険者としての要領って奴だろうか。
まあ、報告した結果、ギルドからの調査もあって山賊退治の手続きは問題なく終わり報酬が支払われた。
「ヌマー」
ちなみにこの長い旅でクマールが歩くのに疲れた場合、俺が担いで進んでいる。
積載軽減はこういう時に便利だ。
「ちょっとした臨時収入となったな」
「ああ」
街に着いたので本日は街の宿での宿泊となった。
明日には目的地に向かって移動を再開することになるので物資の補給と採取物の買い取りをしてもらっておいた。
「ヌマー」
クマール用にボールのおもちゃを買ってあげたので宿の部屋でボールを投げて遊ばせる。
ぴょんと投げたボールを追いかけて取ってきては俺の元に運んで来るクマール。
無邪気でかわいらしい所があるぞ。
それからクマールの毛並みを櫛を通して抜け毛の処理をしてっと。
思ったより小綺麗だな。
タヌクマはきれい好きな性質があるのかも知れない。
実はクマールの観察記録を作っているんだ。
あまり見ない魔物だし、後で何か発見とかあるかもしれないしな。
後、単純に体調管理も含まれている。
「さてリエール! せっかくの宿で休めたのだ。夜はまだ始まったばかりだと思わないかね?」
「……」
ルナスが部屋のベッドでこれ見よがしに色っぽいポーズを取って誘惑をしようとしているのを無視してクマールの相手を続ける。
薄々気付いていたんだがクマールの名前……俺の名前を少し捩ってるな?
妙な感じで俺を呼ぶ時の発音がそっくりだったぞ。
「よーしよし、クマールは可愛いなー」
「ヌマー」
「リエルー無視をするのはどうなのだー?」
「ルナス、そういうのは別に良いから」
「いや、私は言った事は守る主義なのだ。金、名声、影のリーダーと来れば後は……な?」
な? と言われても……。
そんな義理で誘惑してますみたいな事を言われてもな。




