06 勇者の秘密
俺の記憶が正しければ、俺とルナスはパーティーの仲間という仲だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
もちろんこれまで一緒にやってきたのだから、ちゃんと交流していたし、話をする事が出来る。
いくら寡黙な女性と言えど、他人と話が出来ない程、ルナスは対話能力が無い訳じゃない。
そしてここが一番重要なんだが、俺とルナスに恋愛関係があった事実はない。
「それはどういう意味だ?」
「ああ、リエル、すまない……二人で迷宮を脱出するには話さなければならないな」
確かに二人……いや、事実上この場所で戦闘が可能なのはルナス一人だ。
四人でも苦戦する可能性のある迷宮内だ。
勇者と言えど一人では厳しい戦いになるだろう。
色々と話し合って脱出の方法を考えないといけないな。
「今まで怖くて隠していたのだが、本来の私は勇者として凡庸なんだ」
「凡庸?」
うん? どういう事だ。
俺はてっきりここから脱出する方法を二人で話し合うと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
というか、ルナスが凡庸? 嘘だろう。
ドラゴンを相手に他の味方の四倍以上の働きをしたって聞いたぞ。
正直に言えば、国の宮仕えになれたのは勇者であるルナスがいたからだ。
勇者に選ばれる人間は確かに少ないけれど、それでも一定数存在する。
だが、例え勇者であっても国に直接指名されて宮仕えにされる勇者とそのパーティーは本当に少ないんだ。
そんなルナスが勇者として凡庸だって? 謙虚にも程があるだろう。
いや、ルナスは隠していたと言った。
もしかして彼女の尋常ではない強さには何か秘密があるのかもしれない。
それを腹を割って、仲間である俺に話そうとしてくれているんだ。
ルナスは俺を見捨てなかった。
なら、俺も彼女がどんな秘密を抱えていても一緒に居よう。
「リエル、君のファーストスキルが死んだフリだった様に、私のファーストスキルもまた『勇者の怒り』という、正直に言えば勇者が持つスキルの中でも大問題なスキルだったんだ。だから隠して、誤魔化していた」
そうだったのか。
勇者とはいえルナスもルナスなりに苦労してきたって事だろう。
言われてみればルナスのファーストスキルが何であるのか聞いた事がない。
まあルナスは勇者として十分強かったので聞く必要が無かったとも言えるけど。
「確かに私は勇者に選ばれたが、他の勇者よりも明らかに弱い。見習いの頃は本当に惨めだったよ。このまま底辺をウロチョロしながら脇役勇者として生きるのだろう。そうでない場合、外道勇者と蔑まれる事になる。そう思っていた……リエル、君と出会うまではね!」
んん?
なんか雰囲気が変わった気がする。
一体ルナスの秘密ってなんなんだ?
気になる。気になるけど、なんか凄く嫌な予感がする。
「その勇者の怒りってどんなスキルなんだ?」