59 学ぶ事
「切り替えが即座に出来るのは大事だぞ? 冒険者というのは体が資本みたいな物で、睡眠を削ればそれだけ体に響く。どこでも寝られるのは強みだ」
「そこはよく言われたなぁ。というか俺の強みってそこだったって感じだったし」
どれだけ興奮しててもすぐに寝付けるのは強みだ。
体を壊さないように睡眠を取るのは大事だ。
「思えば野営に一番馴れているのは君だったか」
「これでもレンジャーなんでね」
身軽でサバイバルへの適性は他の職業に比べて優れている認識はある。
俺自身の能力とは釣り合っていなかったとしても見習いとしての訓練は無駄じゃ無かった。
「ともかく、あんまり話し込んでいると寝る時間が減るから早めに寝よう」
「そうだな……では休むとしよう」
と、こうして俺達は気持ちを切り上げてぐっすりと眠る事が出来たのだった。
野営を終えた俺達の危険な森の旅は驚くほど順調に進んでいき、危険な森を抜けることが出来た。
初日の奇襲を容易く返り討ちにしたことが大きかったんだろう。
魔物との遭遇率も劇的に減ってあっさりと進めた。
「よし、大幅に近道が出来たな。これも君のお陰だな」
「レンジャー兼考古学者だからな。森で迷子になってたら問題あるさ」
この程度、レンジャーなら出来なきゃ話にならない。
「ヌマ!」
ここ数日でクマールも俺達がどんな人物なのかわかったのか大分馴れてきたように感じる。
基本的に甘えん坊でよく俺にじゃれてきて可愛げがある。
それに健気で旅の癒やしにもなってくれているな。
「ところで君は……死んだフリの新しい戦術をクマールから教わったように見えるのだが気の所為かね?」
「ああ、ちょっと前にな」
死んだフリ作戦にだけ頼り続けるというのもどうだという訳でタックルボアより弱いスローインナッツという大型のリスの魔物との戦闘中の事だ。
「――ヌマ!」
「!?」
死んだフリをしていたクマールが、俺とルナスに攻撃しているスローインナッツが背を向けた隙に死んだフリを解除して飛びかかったのを目撃した。
首根っこを噛みつかれたスローインナッツは驚きの表情を浮かべたままクマールに首をかみ砕かれて絶命したのだ。
死んだフリって相手に死んでいると思わせて戦闘中に狙われないようにするスキルだけど、普通はこう使うよな。
隙を見せたら解除して奇襲攻撃に転用出来るんだと思った。
クマールから教わる事もある。
これも同じスキルを使う者同士だからこその発見って事なんだろう。
だから死んだフリをする際は、即座に武器で攻撃できるようにクロスボウを手にしたままにする事にした。




