55 スキル考察
「何でもその組み合わせを使おうとしなくても良いだろ……」
幾ら4倍速状態だからと言っても限度を知ってくれ。
「この方法を維持し続ける場合は勇者の怒りの効果時間との兼ね合いがあるはずだ。過去の勇者達の資料によると勇者の怒りの効果が切れるには条件があってな。戦闘であったなら敵を倒しきるまでだったりするんだがな……」
色々と検証したいって考えは分からなくも無い。
本来、勇者の怒りってスキルは仲間が死んだ時に発動する敵討ちをするためのスキルなんだろう。
そのスキルを誤魔化す事が出来るのが俺の死んだフリな訳だ。
「ただ、この方法は出来ないのではないかと私は推測している」
「その理由は?」
「勇者の怒り……怒った状態で眠るというのは中々難しいのではないか?」
寝ようと思えば寝られそうだけど感情が高ぶっている訳だから睡眠を取るというのは中々に難しそうだ。
ある意味、一種の高揚状態である訳だし……なるほど、睡眠時間を短縮する方法には使えそうに無い。
何より仲間が死んでいるのに眠いから寝るとか、どんな鬼畜野郎だって話になるしな。
ある意味、休息とは真逆に位置するスキルなのかもしれない。
「確かに」
「そもそも魔力回復目的の睡眠など不要であるから……素直に寝れば良いだけか。色々と考察と検証していきたいものだ」
「あんまり考えてると寝付けなくなるぞ」
なんでもこの組み合わせを利用できないかと考えられてもな。
「逆にリエル、君の死んだフリは睡眠に利用できないのか?」
「使い慣れてない状態だと寝ているとも異なる意識が遠い感じだったけど、今は幽体離脱状態で周囲を見ているからなー……体は休めているのか分からないけど、維持し続けると心が安まらないよ」
「ふむ……幽体離脱か……上手く偵察などに使えれば便利そうであるが」
「棺桶の上から動けないからなぁ」
ルナスのお陰で死んだフリに可能性が出来た訳だけど、俺自身には何の変化も強さも無いから……結局使いづらいスキルであるのは変わらない。
それとも死んだフリの修練が進むと幽体離脱状態で移動出来たりするんだろうか?
「早く迷宮に戻り……スキルを成長させて行きたいな。もしかしたら死んだフリが成長することですごい事が起こるかもしれんぞ」
「そうだと良いけど……」
なんて軽く話をしていると徐々に会話は減っていき、本格的に就寝へと入る。
「ぬまぁ……ぬまぁ……」
安らかな寝顔のクマールを見て心を癒やしつつ、俺もウトウトと……眠り始めたのだった。
そうして……俺達は危険な森の中で就寝をしたのだった。
就寝してから数時間が経過した頃、俺の把握範囲に魔物の気配を察知した。
パッと意識が急速に目覚める。
「……ルナス、お客さんが来る」
「そうか」
ゆっくりと起き上がって近づく魔物へと意識を向ける。




