51 暴力だけではない事
俺がため息を吐こうとしたのをルナスは駄目だとばかりに手を前に出して頭を振って言い切った。
なんだ? 何をする気だ?
というか変に趣向を凝らなくてもいいんだけど。
「リエル、ちょっと休憩をする気持ちで死んだフリをしていてくれ。君も疲れただろう。荷物の多くは君が持って居るのだからね」
「別にそこまで疲れてないけど……」
積載軽減のスキル持ちを舐めないでもらいたい。
悲しいほどに戦闘に役に立たないスキルで荷物持ちとしか言い様がないスキルだけど専門であるのは変わらないんだ。
「良いから……な? 安易に飛ぶだけではない事、私の可能性を君に証明したいのだ!」
「なんだかよくわからないけど……」
近道をして時間を省きたいのではなかったのだろうか?
ともかく、ルナスが俺を影のリーダーとか言うけどやりたいようにやってもらうのが良いのか?
何をしたいのかちょっと疑問だが……。
「わかったよ。ただ時間を掛けるのは本末転倒だと思うんだけど……」
「安心してくれ。そこまで時間は掛けないさ」
半ば諦めの感情で俺は死んだフリを使って棺桶に収まる。
「ヌマ!」
負けられないとばかりにクマールが俺の横で死んだフリをした。
戦闘でも無いのに使うのってやっぱり何か間違ってる気がする。
「よし、ではリエル、クマールも少し休んでいてくれ……私のこの力が暴力だけではない事を見せてやる!」
などとルナスは意気込みながら残像を纏いながら何かし始めた。
まず周囲の木を剣で乱暴に一刀両断したかと思うと、倒れるよりも早く綺麗に形を揃えて板にして投げて行き、周囲に生えていた蔓を無造作に結んで向こう岸に目掛けて弾いて飛ばす。
「フハハハハ! フハハハハ! 時間がとてもゆっくりに感じる……ああ、時が見える!」
そしてその連結した板が向こう岸に着く前にこちら側の蔓を別に作った杭で縫い止めて向こう岸にも同様の杭を打ち込んで……あっという間に橋を作り上げた。
「素晴らしいぞ! この力!」
まあ、すごい速度だったけど、どれだけ早くても限界があるが……5分くらいで作り上げてしまった。
死んだフリを解除して注意したかったけどルナスがとても爽やかな笑みでやっていたのでやりたい事をやらせてあげようと黙って見ている事にした。
「ふう、完成だ! どうだリエル! クマール! 少々不格好だがこれで問題は解決だ!」
蔓と板で頑丈に編まれて作られた吊り橋がそこにできあがっていた。
落ちていた吊り橋が名残惜しそうに隣にあるのがなんとももの悲しい。
突貫工事故に俺の把握が認識する所だと強度に問題はあるけれど……まあ、渡るくらいは問題なさそうだ。




