50 世界一の死んだフリ
一応クマールが死んだフリをしている状況なんだけど、ルナスは勇者の怒りが作動していないって事か。
「クマールが加入して時間が経ってないからとかじゃないのか?」
「私も十分調べたのだ。資料によると過去にも死んだフリのスキルを持っていた者はいたらしい」
そうなのか。
考えてみればドラークが倒される前に気づいていたもんな。
つまり過去に死んだフリで起動するかどうかの実験は行われているのか。
「しかし、少なくとも君以外の死んだフリで勇者の怒りが発動した例は資料には無かった」
「発動条件は……棺桶が出てくるとか?」
「いや、人間の死んだフリでは棺桶が出現する」
そうなのか?
魔物の死んだフリはそのままだけど、人間の死んだフリは棺桶が出てくると。
つまり現状の情報だと……セカンドスキルでは勇者の怒りは発動しないって事か。
「ヌマ」
実験終了を察したクマールが死んだフリを終えて起き上がる。
「クマール、リエルの死んだフリはすごいよな? 世界一だよな?」
うおおお……っと死ぬ動作をして俺を指さすルナスにクマールはウンウンと何度も頷いている。
迫真の死ぬ演技って事なのか?
けど、褒められてもうれしくない類の話なんだぞ?
わかってるのか?
世界一死んだフリが上手い男、とか言われて嬉しい奴はいないだろう。
「そうだろうそうだろう。クマール、お前も鍛錬を積み、いずれは私の勇者の怒りを発動させる程の死んだフリを使える様になるんだぞ」
「ヌマ!」
クマールはわかっているのかよくわからないがルナスの言葉に鳴いて応えた。
結局そこに落ち付くのか。
とはいえ、気持ちはくみ取ってあげるべきだな。
「クマールの気持ちは分かったよ。ありがとう」
屈んでクマールの頭と背中を撫でる。
「ヌマ!」
「リエル、私には無いのか?」
「ルナスは十分褒めてるでしょ」
これ以上何を求めると言うのか。
最強を超えて理不尽な位強いのはわかっているよ。
「つれないな、リエルは」
「何を言っているんだか……とにかく進もう」
と俺達は進んでいると崖に掛けられた簡易的な吊り橋……が片方の縄が切れて渡れなくなっていた。
「ちょっと待っててくれ。ロープとクロスボウで行けるようにしてルナスとクマールは渡ろうか」
クロスボウで向こう岸の木に矢を放ち、俺が滑車を使って移動、しっかりとロープを縛ってからルナス達も渡って貰う。
橋の修理って手もあるのだけどこう言った状況だとな……ちなみに使い終わったロープはちょっとした工夫、渡る前の方の結び目を矢で射貫く事で少し短くなるけど回収することが出来る。
「いや、ここは前にもやった通りいつもの戦法で渡ろう」
「ヌマ!」
もはやクマールさえもこのノリに馴染んでしまっている。
言うかなとは思ったけど……いや、俺も出来るんだろうなとは思ったけどさ。
「あのさ……」
「いや、それではあまりにも安直だな。もう少し捻りを入れるぞリエル。私がジャンプして終わりでは芸が無い」




