48 尊敬の眼差し
もちろん、恐ろしい程の強さを見せてタックルボア達を蹂躙して……とても見せられない残骸を作り出したルナスへ、クマールは恐怖の表情で鳴いて知らせている。
怖い相手だけど勇気を振り絞って俺がなぜか死んだ事を伝えようとしているみたいだ。
ううん……見た目は少々不格好だけど性格は良い子だなぁ。
まだ出会ってからそんなに経っていないのに、純粋な気持ちで悲しんでくれている様だ。
その分、この後を考えるとちょっと罪悪感もあるけどさ。
「戦闘終了!」
賢者な心地とやらを味わったのかルナスがすっきりした表情で戻ってくる。
さて、じゃあ死んだフリを解除するか。
パッと死んだフリを解除して起き上がる。
「ヌマ――!?」
ビヨーン! っと死んだフリから起き上がった俺を見て、結構高く飛び上がり、空中で白目をむいて動かなくなった。
凄いジャンプ力だ。
「おっと危ない」
急いで抱き留めて把握で様子を確認。
……死んだフリ状態だな。
驚きすぎて強制発動してしまったようだ。
「ほほう、見事な死んだフリだな」
「ショックで本当に死んだりしないか怖い所だなぁ」
クマールには刺激が強すぎたかなー……。
というか、棺桶は出ないんだな。
「とりあえず意識が戻るまでは抱えて行こうか」
「ああ、では行こう」
そんな訳でクマールを抱きかかえたまま俺達は森の中を進んで行った。
やがてクマールは意識が戻ったのか死んだフリをやめて何度も瞬きを始める。
「ヌ、ヌマ?」
「お? 気がついたか。大丈夫か?」
「ヌマ?」
ペチペチとクマールが俺の顔を前足で触れてくる。
一体どうしたんだ? 俺は生きているぞ?
それから小首を何度も傾げながら……一つの考えに至ったみたいだ。
「ヌマ!」
うわぁ……アンタの死んだフリすげえや! って誰の目でも分かるくらいキラキラした目で見てくる。
いや、何その尊敬する相手を見つけたみたいな眼差し。
使役魔の世話をして初めてそんな目で見られたんだが。
「ヌマ? ヌマ?」
地面に降ろすとぐるぐると俺の足下を回って好奇心の瞳を向けてくる。
主人だししょうがないって感じで付いてきたのが尊敬に変わったというか……気分は悪くないけどさ。
「ヌマ?」
コテンとクマールが死んだフリの動作をして俺をじっと見つめて、再度死んだフリ動作を繰り返している。
「ヌマ……」
「ふむ、リエルの死んだフリは尊敬に値するくらい立派な死んだフリだと思っているのだな。同じスキルを持っているからこそ、リエルの技術の高さに驚いて種族を超越した尊敬の感情を持ったのだろう」




