47 賢者な心地
「いや……タックルボア程度なら普通に倒せるでしょ」
少なくともクロスボウを使えば俺でも簡単に倒せる相手だ。
新米冒険者だと結構危ないんだけど、なんだかんだLvがあるから戦える。
「そうは言ってもだな。私も我慢しているのだ」
「我慢って……普通に勝てる相手にしたって楽勝どころか攻撃力過剰になるって。タックルボアがミンチより酷い事になるぞ」
後数十秒で遭遇するタックルボアの行く末が哀れすぎる。
襲ってくるあっちが悪いんだけど、それでもルナスのハイテンションの犠牲になるのもどうなんだ?
「リエル、頼む……ちょっとだけ、ちょっとだけで良いから! そうすればすっきり賢者な心地になれるから!」
「なんで微妙に卑猥そうな言い回しをしてるんだよ」
勇者の怒りハイに夢中のルナスってやっぱり大丈夫なのか不安になってくる。
というか何を言ってるんだ。
何が賢者な心地だよ。
「な? な? クマールにも実践して見せないといけないだろう?」
「ヌマ?」
「ああはいはい……まあ、そういう事にしとくよ」
何でも理由にするなーとは言っても確かにクマールには教えるというか実践で見せないと理解するのは難しいか。
教育をある程度施されていても、わからない事もあるしな。
「クマールが怪我しないように何かあったら守ってくれよ」
「当然だ。むしろクマールにも死んだフリをして貰えば良いだけさ」
なんか悲しくなってきた。
クマール、お前は仲間だぞ。
しっかり覚えてくれよ。
「じゃあやるからな」
「ヌマ?」
俺は死んだフリを使用して棺桶に収まり幽体離脱状態になる。
「ヌマ!?」
突如棺桶に収まった俺を見てクマールが驚きの声を上げる。
「「「ブルヒィ!!」」」
「では行くか」
ほぼ同時にタックルボアが三匹現われて敵意むき出しでルナスに向けて後ろ足を何度も蹴ってから突撃を始める。
「ヌマ……ヌマァアア! ヌマァアア!」
鼻をヒクヒクとさせて何度も俺の棺桶の匂いを嗅いだ後、ゆっすゆっすとばかりにクマールが俺の棺桶を揺すって鳴き続けている。
突然俺が死んだ! とでも思っているのだろうか?
魔物に遭遇したショックで死ぬとか、どんだけ俺はチキンなんだろうな。
「フハハハ! 脆い! 脆すぎるぞぉおお!」
「「ブルヒィイイイ!?」」
って俺がクマールの方に意識を向けている背景でルナスが笑顔でタックルボアに残像を纏いながら突撃し、剣でズバズバと切り捨てていく。
魔法を使えば一発で仕留められるのに、剣で戦っているのは少しでも戦闘時間を長引かせて勇者の怒り状態を楽しむ為だろう。
ごめんな、クマール。
あんなでも俺達の勇者なんだよ。
「ヌマ……ヌマァ!?」
ねえ! この人死んじゃったよぉ!
という感じでクマールがルナスに向かって鳴いている間に戦闘は終了した。




