39 新規雇用について
というわけで俺は出発準備とばかりに城下町へと出て、荷物袋を新調した。
今まで使っていた荷物袋……バックパックより容量があって軽量化の魔法が施された値が張る品だ。
それと今回の依頼に使うだろうと思われるアースウォールの魔法結晶を、前回の依頼で使わなかった品を下取りに出して安く購入して揃えた。
食料を買い込んで……。
「ところでルナス」
「なんだ?」
「新しく仲間を雇用したりしないのか?」
マシュア達はルナスの目線からしてお荷物という認識になってしまっていたが、今のルナスのポジションならば誘えば頷いてパーティーに所属してくれる人はいるだろう。
「ふむ……影のリーダーである君の提案を、と言いたい所だが、その考え自体は私にもあった。しかし私としては今の段階で新たな仲間を加入させる考えは無い」
「理由は想像できるけど、なんでだ?」
「まず君もわかっていると思うだろうが、私と君のスキルによる現在の状態を維持したい。次にこの組み合わせを出来れば秘匿しておきたい。勇者の怒りを起動できる程の死んだフリが出来る事が国に知られたら君の身に危険が及ぶ可能性がある」
そうなんだよなぁ。
確かに俺自身に危害が及ぶ危険性はあるだろうなぁ……何せマシュア達は俺を謀殺したかった訳だし、ドラークみたいな奴が王宮にはそれこそ渦巻いている位は想像できる。
そんな状況で一流と呼ぶには厳しい俺の死んだフリで勇者の怒りというスキルを犠牲なしで発動出来ると知られたらどうなる?
人間というのは利益だけで動く訳では無い。
自分ではない誰かが得をする事、自身を脅かしかねない相手を排除しようとする考えは絶対にある。
そんな奴らに知られるのは……間違い無く危険だ。
「少なくともこの組み合わせを作動させずとも対処出来るほどの強さ、権威を得てからでも遅くはあるまい」
今の俺達からしたら新しい人員の補充は情報が漏れる危険性があるよな……。
そういう意味ではルナスのさっさと迷宮に行って強くなる、という手段も悪い手ではないのか。
「わかった。それならしょうがないか」
本当はもう少し人員を増やしたいんだけど俺の事を考えてルナスも言ってくれているんだ。
「とはいえ、二人だと持ち帰れる物資が……いや、節約すれば良いか」
先を見据えて迷宮に挑んだ際に持ち帰れる物資がな……ルナスの強さ的により深い階層に挑む事になる。
武具の損耗……魔法でどうにかなるとは言っても何が起こるかわからない。
予備の装備も用意しておいた方が良い。
どちらにしても新しく仲間を加入させるのはもう少し強くなってからでも遅くは無い。
少なくとも俺が不要だなんて糾弾されないような状況に……か。
マシュアとドラーク達は俺に発言する資格が無いとばかりに見下していた。
強さ……才能は力だ。
幾らルナスの勇者の怒りを発動させる事で困難を乗り越えられるとしても俺は俺のまま……死んだフリがファーストスキルの才能無しと判断されるレンジャーでしかない。
今は考古学者と名乗っているけど、きちんと実績や強さを持たなきゃいけないんだ。
まだ成長の余地は残されている。出来る事はあるんだ。
すべてが決まっているわけじゃない。
「ふむ……」
ルナスが俺の同意に頷くけど、なんか反応がおかしいな。
何やら考え込みながら城下町の市場を歩く俺の後ろを付いてくる。
「リエル、仲間は難しいが使役魔はどうだ?」




