36 指名依頼
ギャンブルか。
専用のスキルでもあれば違うのかもしれないが、最終的に損するのがわかってしまうというか。
数十回程度なら勝ち続ける事は出来るかもしれない。
けれど、数百回、数千回、と回数が増えれば増える程、敗北の確率が加速度的に上がってしまう。
それが俺のギャンブルに感じる認識だ。
あくまで情報収集の材料でしかないっていうのかな。
そもそもああいう遊びって負ける部分も楽しさの一部なんじゃないかな?
好きな人やハマる人がいるのもわかりはするんだけどさ。
単に俺はハマる程のめり込まなかったってだけだな。
そういえばマシュアはカードゲームが好きだったっけ。
ルセンは決闘賭博やレース賭博が好きだったはず。
前に店で見かけた事があるので間違いない。
「ギャンブルで奴隷落ちするような真似したら本末転倒だろ。そういうルナスは?」
「そうだな。前にも言ったが、私は分の悪い賭けはしない方だよ」
確かにそんな事を言っていたな。
つまりルナスもギャンブルはやらない、と。
まあ勇者が賭博で破産とか何の冗談だって感じだし、それで良いと思う。
つまり俺もルナスも所謂つまらない人間に属するお金の使い方って訳だ。
「さて、報酬の山分けは終わった。早速準備して迷宮に……行きたかったのだがな」
途中から明らかに声のトーンが下がった。
これは何かあったな。
「何かあったのか?」
「うむ……迷宮の深層にある品の調達などの依頼をついでに請けようと思ったのだが、王宮からの指名依頼が来てしまってな」
指名依頼……要するに宮仕えになったパーティーとは切っても切れないお国からの命令で行わねばならない依頼だ。
断る事は出来るけれど相応に審査に響くのでできる限り達成が推奨される。
当然の事ながら報酬は普通の依頼より高額だけど、その分難易度も高い。
宮仕えになった新米勇者のルナスからしたら断るというのはできる限り避けたい案件って感じだな。
下手に断ったらドラークじゃないが他の派閥につけ込まれかねない。
「まあ、迷宮の深層に挑むにはもう少し色々と情報を手に入れてからするつもりだったから、丁度良いんじゃないか?」
33階層以降の魔物の出現情報や地形の情報など、無いと困るモノも多い。
そういった情報を頼りに道具を揃えておくと後で助かる事になるんだ。
「君がそう言ってくれるのはありがたいが、私は早く迷宮に挑みたかったっ……!」
もっと暴れたいって様子のルナス。
気持ちはわかるけどやりたい事だけで宮仕えの勇者はやっていられないって事だ。
これもお役所勤めの苦労って奴だろうなぁ。
「それで、どんな依頼なんだ?」
「ああ……国の辺境で蛮族であるオーガが群れを成して行軍しているから止めて来いとの依頼が来てな。国民に犠牲者が出かねないという話だ」




