35 楽しく強くなる
「別に馬鹿にはしてないさ。それに比べたら私は随分と世俗にまみれてしまっていると反省するばかりさ」
死んだフリと勇者の怒りによる最強覚醒に夢中って言いたいのかな?
それだけの力があるのだから良いんじゃないかとは思う。
むしろ楽しく強くなれるというのは理想的な成長と言える。
どれだけ辛くても耐えて耐えてがんばってがんばって汗水たらし、血反吐を吐いたその末に努力が実るのも素晴らしいけど、努力を努力と感じず、人並み外れた鍛錬を楽しく出来るというのもまた素晴らしい事だ。
みんなにとって努力と感じているモノを楽しいと感じているんだからな。
そりゃあ実力だってグングン伸びるだろう。
今のルナスの状況は一種の楽しさからの成長が大きく混ざっている。
「悪い事じゃないと俺は思う。危ないのはもっと刺激を求めて道徳を見失う事だ」
「ああ、そうだな。勇者は身の程を知らない行動をすることも多い。懐かしいな……蛮勇と勇気を履き違えるなとは見習いの頃によく言われた」
勇者とは勇気をもった英雄である職業……その職業の性質上、感情的になりやすいんだろう。
道徳を失う……ルナスの場合は、自らの強さを見せるために仲間を犠牲にしやすいファーストスキル、勇者の怒りを持っている。
死んだフリでそれを発動できる俺が居なかったら、仲間を犠牲に困難な依頼を達成する……味方を消耗品にする戦いもしかねない危うさを抱えている訳だ。
何の因果か俺達はスキルの相性が良く、強靱な力を簡単に使えるようになったに過ぎない。
その強力な力に頼り切り、もっと、もっとと身の程を超えた危険な戦いに身を落とせば、いずれ訪れるのは破滅だ。
道徳を見失ったらそれこそ外道に落ちてしまう。
勇者ドラークやマシュア達のように。
アイツ等を悪い見本として生きていくのが丁度良い。
「まあ、今回の収入は贅沢をする程じゃないってだけだ。この収入が続いたら贅沢をさせてもらうさ」
「うむ、それでリエル。君の贅沢とはどんな事だ?」
「え? そりゃあ酒を飲むとか……美味しい物を食べるとかだろ? 後は料理を作るとか」
なんか俺の話を聞いているとルナスが俺の話を聞きながらニヤニヤと笑っている。
何だよ、その表情は。
「うむ、やはり君は真面目なのが良いな。実に正しい。で、実の所ギャンブルなどはどう思うかね?」
「情報収集の為に嗜みはするけど趣味とか贅沢にはしないな」
色々と仕事をする際の情報収集に酒場で飲みつつ賭博ってのはよく行われる。
俺のセカンドスキルは把握な訳で、カードゲームの類いは勘が働く……それ故に相手の手とかもなんとなく分かってカードゲームで勝って相手から情報を聞き出すなんてのはよくやる。
まあ、格上のスキルを持っている相手には通じなかったり、専用のスキルを弾く加工を施されたカードだと上手く行かないけどさ。
少なくとも遊びの範囲でやるだけだな……趣味にはしないな。




