27 迷宮の闇
死んだフリを解除して俺は起き上がる。
「あっさりと終わったな」
「そうだな。彼らも妙な陰謀を画策しなければこのような末路を辿らずに済んだものを……」
宮仕えになるってこう言った派閥争いというのは常に付きまとう問題なのかも知れない。
降りかかる火の粉を払うってこういうことなんだよな。
俺に死ぬように誘導した彼らだけど、もう話をする機会さえなくなったと思うと虚しさがこみ上げてくる。
「色々あったが彼等の事を考えれば、もう私達は立ち止まる訳にはいかなくなったな」
「そう、だな」
マシュアとルセンがこんな事をしてしまったのも、もっと偉くなりたい、という思いによるものだろうしな。
もっと強くなって、迷宮の深い階層に到達して、国から評価されて、大きな顔をしたい。
そういう欲望を叶えたかったはずだ。
彼等と同じ欲望を抱く事は出来ないけど、敵とはいえ犠牲にしてしまったんだ。
もっと上を目指そう、というルナスの気持ちもわかる。
「それで結局マシュア達を含めてドラーク一行、どうしようか」
「リエル、君も私がどうするかくらいは想像出来るのではないかな?」
まあ、迷宮の闇が覆い隠してくれる。
迷宮の32階層なんて並の冒険者は滅多に足を踏み入れられない危険領域だもんな。
俺達以外、誰もここでの出来事を知る者はいないんだ。
ドラーク一行は迷宮に挑んで行方知れずとなったで済み、俺達を咎める奴等など現われない。
宮仕えパーティーが一つ消えただけだ。
もちろん疑う人間は出てくるかもしれないが、証拠が無いからそれ以上の言及は出来ない。
「マシュア達の方は私が解雇したという事で問題なく済む。何せリーダーは私だったのだからな」
考えて見ればマシュア達は後が無い状況だった訳だ。
俺を謀殺しようとしなければ、こんな事にはと思うと哀れとしか言い様がないな。
後、リーダーは私だったとか過去形で言っているけどさ、今もリーダーだからな?
まさか影のリーダーとかいうアレは本当に発動しているんだろうか。
「多少風聞もあるだろうが、堅実に任務をこなせばそこまで問題は無いだろう……リエル、そろそろ行くか」
「そう……だな」
ちなみにここで彼らの身ぐるみを剥いで持って行くのは得策ではない。
仮に持ち帰った際、彼らの所持品に見覚えのある者がそれを見た時に糾弾する材料になりかねないからだ。
迷宮内で使い捨てるならまだ良いんだけどさ。
そもそもルナスの魔法と斬撃で大半が使い物にならない。
「死後はあの世に行き裁定が下されるという話はあるけど……マシュア、ルセン、お前達が天国に行けることを祈ってる」
正直な本音で言うなら間違い無く冥界行きだろうなとも思うけど、言わずには居られない。
俺を謀殺しようとするわ、企みが失敗したらルナスをドラークの生け贄に捧げて派閥に入り込もうとするわ、と碌な考えをしていなかった。
これで天界に行けたら相当に緩い所だろう。
俺はどこにもないマシュア達の冥福を祈ってルナスの後に続いた。
しかし……神様ってのは俺にどんな意味を込めて死んだフリを授け、ルナスに勇者の怒りを与えたのだろうか……その意味がわかる時が来るのか……。
「そうだ、リエル。私達は間違い無く40階までは余裕で行けるぞ! あの先輩勇者一行が行けたのだからな」




