24 賢者と愚者
「くどい! マシュア、ルセン、何度言わせるつもりだ? 今更遅いと言ってるだろう」
そう言い返したルナスは、次はドラークに何か言うらしい。
「貴様の様な権力に溺れた者が勇者を語るとは笑止千万……非常に不愉快な事を言っているようなので私からも言わせてもらおう。勇者とは勇気を持つ者。どんな困難な任務であろうと達成していけば権力など恐るるに足らん」
それだけの勇気をもらっている、とでも言いたげな表情で俺を見てくるルナス。
ちょっと前の俺だったら凄く感動していた場面なんだけどな……これは勇者の怒りがあるという、ある種の安心感による余裕だ。
しかし勝ち誇った表情のルセンがルナスを指さす。
「ここで戦うのは得策じゃないぞ。ルナス、お前のファーストスキルは底力覚醒かスロースタート! 短期決戦では何も出来まい! 無駄な抵抗はよすんだな」
底力覚醒かスロースタート……?
ああ、それがルセンの分析って事なのか。
実際は勇者の怒りってファーストスキルな訳で……しかし、なんだろうか。この分析の足りなさ。
それともルナスの沈黙というか隠蔽が上手だったというのかな。
自分は間違いなく賢くて、すべてを理解しているって面をしているルセンが……酷く愚かに見えてしまう。
「フッ……」
ルナスが不敵に笑った。
相手には別の意図に取られただろうけど、俺はその笑みの理由がわかる。
そりゃあ相手が事実と掛け離れた答えを言っていたらこんな顔になるよな。
このルナスの表情は事情を知らない人からはクールな美形女勇者としか映らないだろう。
絵にはなるんだよな。
事情さえ知らなければ、だけど。
「降りかかる火の粉は払うまで。これは勇者も何も関係ない。貴殿達が私達の息の根を止めようとするのならば、こちらとて全力で相手をさせてもらい、貴殿達の息の根を止めるまで……どこの世でも栄光は勝者にのみ授けられるのは変わらん」
「あははは、まだそんな事言ってるの? 身の程を理解しなさいよ」
「そうだぞ、ルナス。そこにいるリエルなどという無能を庇った所為でお前は自分の未来を閉じたんだ。本当、呆れて物が言えないな」
「無能か……ルセン、では私も尋ねよう。君は賢者の癖に古文書の解読などをすべてリエルに任せっぱなしだったな。賢者の役目は魔法だけではないと私は思うのだが、どうなんだ?」
「ふ、ふん! そんな雑務は誠に賢い賢者のすることではない」
と図星を突かれたルセンにルナスは嘲笑の表情になる。
しかし、ルナスは続ける。
「ルセン、君は賢さを誇りにしているようだから教えてやろう。賢者と愚者は表裏一体だ。君は単に魔法を沢山使えるから賢者を名乗っているだけにしか見えんぞ」
まあ、確かに。
ファーストスキルの推理も外れているし、解読も出来ない。
ルナスからすれば酷く愚かに見えるだろう。
「なんだとっ!? この凡人がぁああああああああああああああ!」
いや、怒り過ぎだろう。
賢者なんだからもっと冷静になれよ。
どう考えても挑発だろうに。




