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216 新生

 更に一方その頃……。


「ギャアアアアアアアアア! ちょっと何するのよぉおおおお!」


 耳障りで甲高い絶叫を聞きながら俺は何度目になるか数えるのも忘れるほどのため息を吐いた。


「いい加減身の程を弁えるのだ……まったく……」


 俺と同じくため息を吐くのはベビーデーモンと呼ばれる下級悪魔だ。

 名前はなんと自己紹介していたか……とにかく今はヒステリーが相変わらず身勝手な事をして主人に罰を与えられて居る。

 バチバチと全身に電撃を浴びせられて仰け反っている光景だ。

 ここに来て何度目の光景か。


「何度言えば気が済むのだ。反省しないのならば貴様など容易く滅する事が出来る事を理解しろ!」


「は、はいいいい……! も、申し訳ありませんでした」


 絞り出すようにヒステリーこと、マシュアは黒焦げで倒れ伏したまま反省の言葉を紡ぐ。


「ルセン、マシュア。貴様達に新しい任務を授ける。これからお前達は人間界に赴き、同盟を組んで居る妖精の前線基地へと行き……とある作戦に参加して貰う」


「は!」


 俺の名前はルセン、マシュアと共に迷宮内でルナスによって殺された後、霊魂となって現世に止まっていたのだが、謎のプリーストの妙な力でドーピングされたリエルによって魂ごと霧散させられ、あの世へと行く事になったと思っていたが……。


 俺達の崇高な魂を悪魔達は見出し霧散してあの世に行こうとしていた魂を集め、魔界で悪魔として新生する事が認められたのだ!

 度重なる不幸があるとしても見ているモノはいるという事だ!

 俺達を見出して召し抱えてくれた至高にして究極のお方の為に働く……という名目で第二の生を得られた!


 魔族新生! 魔界で俺は出世する!


 フヒヒヒ……悪魔として復活だが、凡庸で凡骨なリエルでは到底不可能で希有な才能を俺達は持って居るという事に他ならない。

 究極にして至高、他の追随を許さない俺を見出すとは悪魔共も見る目がある。

 例え死ぬことがあろうと天才というのは蘇るという事だ!


 フヒヒヒヒヒ!

 何せ悪魔共は就任数日で俺達の事を認めてくれたのだからな。

 他者は力で屈服させ、出し抜き奪う為に存在する……よくよく考えて見れば俺達は人間では無く悪魔として生きることが向いていたのだろう。


「それではコレより、俺達は任務に向かいます」


 とりあえず今は上司である悪魔に向けて形式的なセリフで返してマシュアを引き摺って下がる。

 まったく、このヒステリーは今日もヒステリックに騒ぎ、悪魔共と喧嘩をして罰せられたのだ。

 今日はなんで騒いでいたのだったか……ああ、むしゃくしゃしていたから喧嘩を売ったんだったか。


 人間だった頃には中級プリーストにして宮仕えだったのよ。

 その私の鬱憤を解消させる誉れある制裁を受けるのだから感謝なさいと暴れていたそうだ。

 この女は悪魔になっても相変わらず騒がしい奴だ。


「キイイイイ! あの野郎! 私に罰を与えるのはどういうことよ! 私は選ばれた存在なのよ!」


「まだ言っているのだ……お前等の反省の無さは悪魔の中でも筋金入りなのだ……まったく、どこの馬鹿がこんな奴を拾って来たのやら……邪悪な魂だからってもう少し選べなのだ」


 俺達の補佐として任命されたベビーデーモンがブツブツと呟いているがマシュアは全く耳に入れていない。


「騒ぐのはそれくらいにして任務に赴くぞ」


「チッ! 分かったわよ。とはいえ……フフフ、まさかこんな形で人間界に舞い戻る事が出来るとはね」


 気持ちを切り替えたのか所々に焦げのあるマシュアが反省など何処拭く風とばかりに不敵に笑う。


「人間界に戻ったらまずあのクソ無能を庇う邪悪勇者の息の根を止めに行かなきゃ行けないわ!」


 颯爽とマシュアは霊魂だった頃の事を持ち出して拳を握って魔力を放ちつつ言い放つ。


「そんな任務は受けてないのだ。命令の範囲内から出るとまた罰が下るのだ」


「なんですって! 任務の最優先は勇者とあの無能とエリート面の愚鈍な聖職者の抹殺でしょうが!」


「我輩にそんな事を言っても知らないのだ。どんな人物かは耳タコだけどそいつらのいる地域とはお前等の話からして違うと思うのだ」


 く……勝手な行動は許可されていないというのは腹立たしいものだ。

 悪魔として新生した俺達の力は人間だった頃とは比べものにならん程に極まっている。

 勇者とはいえ人間であるルナスや、あの無能……聖職者が勝てる次元ではない!

 何やら妙な強化魔法の使い手の様だが……後になって思えばおそらく無能……リエルではなく背後にいた聖職者がリエルに途方もない一時的な強化魔法を使って居たに違いない。

 それは霊魂となったモノにだけ効果があり、相性があまりにも悪かった所為で俺達はよりにもよって無能によって返り討ちにあったのだろう。

 まさかターンアンデッドを人に付与する魔法があるとは知らなかった。噂に聞く光魔法を武器に付与する魔法の応用か。

 冷静になれば賢者であるこの俺が見抜けない小細工ではない!

 間違ってもクソ雑魚勇者が言っていた無能ことリエルのスキルでは無いし、奴が原因とした何らかの作用ではない。

 奴は間違い無くお荷物の無能だ!


「ふ……そんな騒がんでも良いでは無いか」


「なんでよ! 妙な事を言ったら神に変わって私が罰を下してやるわよ」


 この女、悪魔になっても神等と言う言葉を使っている。

 悪魔共の話だと話の概要から邪神を信仰しているのだろうと分析していたな。


「よく考えろ。これから俺達が向かう前線基地という所は妖精と同盟を組んだ前線基地、相手は人間共だ。そこには勇者共が派遣されてこちらに挑んで来る。そいつらを次々と返り討ちにして行けば……やがて奴らも派遣されてくるはずだ」


 そう、俺達が魔族として新生して他の追随を許さない強大な力を宿したのだ。

 あの時の俺達のようなあやふやな存在ではなく魔族! 悪魔として上位の存在だ。

 悪魔四天王の座に着くのだって時間の問題だ! フヒヒヒヒ!


「フフフ……そうだったわね! 私たちの強さの前に勇者共なんて雑魚も同然よ!」


「そうだ! 勇者と人間共を血祭りに上げ、俺達は力を増して行くのだ! さすれば魔王の座にだって手が届く」


「あはははははは! 私が人間共に罰を与える神に至るのも時間の問題よ!」


「……身の程知らずも甚だしいのだ。一体どこから自信が沸いてくるのか実に疑問なのだ。人間とはこんな奴らばかりなのだ?」


 確かに我々は肉体を失い、霊体としての体も失ったが悪魔となった。

 我々は悪魔として魔の力を高めて更なる力を得た!

 今までと同じと思わないで貰おう!


 リエル!


 次に会ったときこそ、今度こそお前の最後だ!

 お前との因縁! 終わらせてくれる!


「フヒヒヒヒヒ――ぐわぁあああああ!?」


「あははははは――きゃああああああ!?」


「「ひ、光に焼かれる! 溶ける! 浄化される! ぎゃあああああああああ!?」」


 突如発生した地面を走る魔方陣に体が光で払われ掛ける。

 な、なんて苦しさだ! 全身がやけるうううううう!?


「なに対魔の罠を踏んでいるのだ……」


 ベビーデーモンがサッサと魔方陣を壊して解除する。


「お前等何やってるのだ」


「うるさい! さっさと治せ!」


「そうよそうよ! 私たちを誰と心得てるのよ!」


「我が輩より下級のくせに態度だけは上級悪魔なのだ……」


 グチグチとうるさい下級悪魔が偉そうに!

 マシュアもそうだが、どいつもこいつも腹立たしい!


「くそ! リエルめ! こんな事になったのは全てアイツのせいだ!」


「そうよそうよ! 私たちの不幸は全部アイツの所為よ! 絶対に殺してやるわ! この類い希なる存在となった私に頭を垂れて命乞いをするだけの価値しかないアイツに報いを受けさせてやるんだから!」


「我々をここまでコケにしてくれたのだからな。何を言おうと今更遅い! 人間なんてどうでもいいから魔族を全力でやっていく!」


「絶対に八つ当たりだと思うのだ。こんな奴らに目を付けられた奴の顔を見て見たいのだ」


 リエル! 俺達の前で無様に命乞いをするがいい!

 フヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!


 と、俺達は任務へと出たのだった。

二章完です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ん?妖精?あれ、それって、リエル達はクイーンのペンダントがあるから、妖精達は敵対が出来ないんじゃ…。 妖精は、ペンダントにより敵対出来ず、悪魔に関しても、リエル達には勝てない。更には、フォ…
[一言] 相手の手にジョーカーがあると安心するなぁw
[一言] なんか引率悪魔の方がマトモで仲良くなれそうなの草生えますねぇ……
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