208 傀儡術
「僧侶は少年で既に席は埋まっているぞ。当然のことながらレンジャー枠はリエルがいるので不要だ。裏読みして少年と同じような死霊術が使えるとしても要らんな。少年も追い出せ」
「いやー……クリストとなると僕もねー。ただ、死霊術とは異なるから役割は被らないよ」
シュタインはクリストが出来る事を知っているって事か。
ただ……なんだろう、激しく知りたくない何かをクリストは持って居るような気がして成らない。
先ほどから俺の危険感知が警報を鳴らし続けて居る。
「むしろ勇者ルナス、私のスキルは君にとっても大いに利益を与える組み合わせだと思うよ?」
「だから何かと私は聞いているのだ。勿体ぶるな」
「そうだね。概念的に言えば……手土産っと茶菓子が無かったね」
パンパンとクリストが手を叩くと温室の奥から動くティーポットとジンジャーブレッドマンクッキーがやってきてテーブルの上に乗っかる。
……。
うん。きっとシュタインの話を聞いて何らかの方法で確保したんだろう。
「回りくどいぞイケメン! はぐらかすな!」
「はぐらかしてないよ? これは、私が魂の探求者のスキルで作り出した人工生命だよ」
「む?」
人工生命作成系統のスキルなのか?
錬金術にはそう言った変わった道具を作れたりするって話は聞いたけれど……クリストはどうやらその系統で相当当たりスキルを引いたみたいだ。
しかも錬金術まで重なっているとなると天才の中の天才って位の勝ち組だぞ。
重複スキルなんて羨ましい事だ。
だけど……なんだろう。未だに俺の危険感知が反応を続けて居る。
絶対に何か裏がある。
できる限り人の善性を信じたい俺もクリストとシュタインを相手となると険しい顔をせざるを得ない。
「つまりイケメンはこう言った代物を作るのが得意と言うことか」
皿の上に乗ったジンジャーマンクッキーを平然と摘まんで囓るルナスがクリストに告げる。
「そうだね」
「だがそうなると今度は役割の面で我等のパーティーに貢献出来るかの問題が解決していないぞ? 変わった道具で色々とその場を解決する頭脳担当になるつもりか? リエルは色々と道具を揃えて持ち運んでいるぞ」
「まあ……調合とか簡単な薬の作り方を教えてくれたのはクリストだし、必要そうな物は俺が持って行くからな」
「いやいや、さすがに出来るのが道具担当だけでは直球過ぎるよ。これはあくまで私の表の技能さ。シュタインが聖職者として神聖な魔法が使えるようにね」
光あれば闇ありってか?
やっぱり何か裏があるとは思って居たけど、あるんだな。
お前等は闇の方が濃すぎるからそっちメインだろうけどな。
「では裏は何なのだ? 人工生命、ゴーレム使いとでも言う気か?」
「私もそう言った魔法が使える。けど……私が所持する魂の探求者は文字通り……魂を司るんだ。その先の禁断の領域に属するんだよ。まずはその説明をするのは人工生命から話さないといけないね」
禁断の領域……錬金術って上位の錬金術師は相当特殊で変わった道具を作り出せたりするらしいからな。
妖精の世界で見たような代物を作り出すことだって出来る可能性は大いにある。
失伝して再現出来ずにいるとかあるらしいけど……。
「文字通り人工生命は人の手で作り出した命、勇者ルナス、このティーポットや君が食べたクッキーの様にね」
「うむ。物に魔法で擬似的な命を与えて動かすものだな。少年の死霊術も系統としては近いか」
「そうだねー僕の魔力で死体に仮初めの命を与えて動かして居るって意味だと系統は近いかもね」
確かに死霊術はルナスの指摘通り死体に命を授けて動かしているって意味だと近いかも知れない。
……よく似たスキルと魔法って事だけどシュタインの方が死体でクリストは物体に命を授けるって事で良いのか?
何か罠がある。
「という前置きはしっかりと理解して居るようだ。でだ。この人工生命なんだけど、当然のことながらしばらくすると効果が切れて徐々に動かなくなる。しっかりと術式を込めれば定められた命令を繰り返す事は出来るけどね。悪く言えば考えて行動はしてくれないんだ」
命に見えるけど定められた範囲でしか活動出来ない仮初めの命であるのは変わらない。
とクリストは続ける。
「これが人工生命……ゴーレムの定義だよ。勇者ルナス、君も魔物で遭遇した事あるだろう? リビングスタチューやガーゴイルなんかがそれだね」
「うむ」
「で、僕が所持する魂の探求者というのはね。文字通り魂を探求する、このスキルの力は……魂を物に吹き込む事が出来る。これが人工生命と大きく違う事なんだよ」
シュタインが自己紹介した時のようにクリストは自らが出来る事を説明した。
「ああリエル、勘違いしてそうだから言うけど名工が魂を込めて素晴らしい武具を作るとか比喩では無く直接的な意味だよ」
「そんな念押ししなくても良いだろ」
「正しく説明しないと勘違いしかねないだろう?」
「つまりなんだ……? 魂を物に吹き込むとは」
あ、ルナスが思考を放棄して聞いてる。
シュタインの時もその辺りの理解を投げて分かった風な顔をしたもんな。
「わかりやすく言うと、死んで体から出た魂を別の物に吹き込んで操る事が出来るって事さ。シュタインが死体を操作するのに長けているとするなら、私は魂を操作するのに長けているって事だね。これを人々は忌を込めて傀儡術と言うんだ」
うへ……やっぱりえげつないスキルだった。
なんで俺の友人は後ろ暗いスキルの持ち主ばかりなんだよ。
……ルナスも含めてなのが悲しい所か。
「ふむ……では仕留めた魔物や死者の魂などを使えば良いのでは無いか?」
「うん。それなんだけどね。シュタインの死霊術と同じく問題があるんだ。魂というのは鮮度があってね。物に込めると徐々に劣化してしまうんだよね。悪霊とかを生け捕りにして人形に詰めたりすると面白い傀儡になるんだけどさ」
あ……なんか昔、冒険で見たような気がする。
マリオネットとか呪いの人形とかそう言った曰くが付いたヤバイ類いの人形だ。
正直に言えば、反社会勢力に属している人間が使っているイメージが強いのは事実だよな。
「貴様のような奴がいたずらにアレを作るのか?」
ルナスも心当たりがあるようでクリストに聞いてる。
「呪いの人形は勝手に魂が宿って魔物化するものもあるね」
全ての怪しい人形はクリストが作ったとかでは無いって言うのは当然だ。
さすがのクリストもそこまでの影響力を持っては居ないはず。
「私は強引に物に込めるって意味だと否定しないよ。話は戻るけど結局色々と劣化してそう言った人形になったりすり抜けて魂が霧散してしまう。聖職者は成仏って言うけどね」
「あまり長時間の運用は出来ないという事だな。しかも魂が無ければ活用出来ないと」
「そういうこと。それで私は思ったんだよね。『ああ、永久的に使える魂で傀儡術が使いたいのにな』とね」
……終わったな。
ずっと使える新鮮な死体があれば良いのになって思っていたシュタインみたいな――。
「ヌマ――」
「おっと、リエルとクマールくん。何処へ行こうと言うのかな?」
俺とクマールは感じて居た嫌な予感の正体が判明したので急いでその場から離脱しようとした所でクリストに呼び止められる。
「死んだ直後の新鮮な魂というのは死んだ直後の体と同じく強固なんだ。本来は対魔でも干渉出来ない領域なんだけどね。半生き霊なんだよ」
「ああ、なるほど。リエルとクマールが死んだフリをする事で私が強化され、少年が両名の体を死霊術でアンデッドとして使役し、イケメンがリエルとクマールの魂に傀儡術を施すのだな」
とうとう俺達は体だけでは飽き足らず、魂まで何かに使われる羽目になりそうだぞ。
なんだろう……魔物の中には骨まで使えて何処も無駄にならないと言われたりするのがいるけど、俺達は何処までルナス達に酷使されるのだろうか?
もしかして俺は前世か何かで悪い事でもしたのか?