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203 モンスターフュージョン

 しかしヴォザードが使役している魔物たちに向かって援護魔法を施す。


「ハイ・ビーストハウル!」


 さっきよりも密度の高まった使役魔たちが獲物を取り囲むようにクマールの周囲を高速旋回を始める。

 クマールは俺と同じく把握を所持するスキル構成、攻撃を命中させるのに若干の補正を持っているけれど、ヴォザードの使役魔の運動能力次第では超えられてしまう可能性はある。


「まだまだ! この程度でこいつ等と俺を倒せると思うなよ! へへ! 援護の無い使役魔は苦労するなぁ?」


「ヌマァ!」


 また主人を馬鹿にして! 絶対に負けませんから!

 激高したクマールが飛びかかって来たホーンビートルの角を片手で握って力の限り振りかぶりクリムリザードに投げつける。


「ギギ――!?」


「シュガ――!?」


 ザクっと、クリムリザードの体にホーンビートルの角が掠って皮が大きく裂ける。


「チッ! ビーストヒール!」


 即座にヴォザードは自身の魔物の傷の治療を優先し始める。

 が――その隙をクマールは逃さない。

 片手を口元に当てて指を一本立てて、周囲を舞っていた葉っぱすべてに把握を行い……魔力を練り込む。

 ボッ! っと周囲を舞っていた葉っぱすべてが紫色に燃え上がり、鬼火という魔法へと変化する。


「おおー」


「中々絵になるな。クマールも中々の魔法が使えるのだな」


「これは面白い。あまり見た事のない魔法だね」


 シュタイン、ルナス、クリストがそれぞれ感想を述べ、闘技場で観戦している周囲の連中も声を漏らす。


「ヌッマ!」


 行け! っとクマールの命令に合わせて炎の雨……ファイアレインという魔法によく似た鬼火の雨がヴォザードの魔物たちに降り注ぐ。


「ブルフィ!」


 そこにレッドタックルボアが炎を纏いながらよろめいた仲間の二匹を守るように立ちはだかり鬼火の雨を受け止める。

 が、耐えきれず吹き飛ばされる。


「ブ、ブルフィ!」


 吹き飛ばされたヴォザードの魔物たちだが即座に受け身を取って主人の手当てを受けつつ間合いを図っているようだ。


「は! やっぱり俺の見立て通りやるじゃねえか」


 魔物たちの傷を遠隔で治療しながらヴォザードがクマールへ感嘆の声を出す。


「絶対に俺の物にしてやる。そんな奴じゃお前の力を最大限引き出せねえんだからな!」


 と、俺を小ばかにするように指さしてくるぞ。

 おい。挑発じゃなく戦闘に集中しろよ。

 お前……クマール一匹に三匹で押されてるんだぞ。


「ま、この程度でやれるとは思ってなかったからな。遊びはこれくらいにして行くぜ!」


 ぶつぶつとヴォザードが魔法詠唱を始める。


「これが真の主人の力だ! モンスターフュージョン!」


 ヴォザードが魔法を唱えると魔物たちが赤く輝き、光となって一つにくっつき光が弾けるとそこにはレッドホーンカリュドーンという……赤く大きな角を持った巨大なイノシシが姿を現した。


「ブル……フィイイイイイイイォオオオオオオ!」


 その毛皮にはトカゲを連想する皮膚を一部宿し……雄たけびで周囲の空気が振動を起こす。


「リ、リエル。ヴォザードの奴、本気だぞ。アイツ、あれで遠征の時に遠征地で襲ってきた魔物共を返り討ちにしたんだ」


 サクレスの言葉に、ヴォザードが難癖をつけてはいるけど遠征帰りの腕は確かな冒険者であることをマジマジと教えてくれる。


「ォオオオオオオオオ!」


 ドン! っとレッドホーンカリュドーンはクマールの方へ振り向き、地面を強く角で叩きつける。

 すると強い衝撃と共に地面に亀裂が入り、クマールの目の前まで地割れが発生、そこから炎が噴き出した。

 強さを見せつけるための攻撃……だろうな。


「ふむ……」


「まあ……」


「へー」


 ルナス、シュタイン、クリストの三名はヴォザードが作り上げた合体魔物、レッドホーンカリュドーンを見ながら淡々とした声を出す。


「大きくなったな」


「そうだね。一匹になるけどその分強くなる、魔物使いの魔法だね」


「一応報告だとあれでかなりの敵を倒して来たらしいよ、彼」


「ほー……まあ、若いドラゴン辺りなら倒せるだろうな」


「だね。密度も悪くはないのが分かるねー」


「少年も合体魔法が使えたな」


 あまり思い出したくないけどな。

 シュタインは俺とクマールをゾンビ状態で合体させたことがあった。

 その延長線上と言うか同等の魔法って事なんだと改めて認識する。


「どうだ! お前の主人はこんな事、天地がひっくり返っても出来ねえだろ? 魔物ってのは、魔物使いと力を合わせてこんな事が出来るんだぜ!」


「ヌマアアアア!」


 まだ主人を馬鹿にするんですか! 真の主人とかふざけた事を!

 クマールが俺を馬鹿にされて敵に臆さず声を出す。


「ヌマ! ヌマヌマ! ヌマァ!」


 そんなにも自分の力を主人が引き出せないというのなら見せてやります!

 っとクマールがヴォザードを杖で指さして高らかに鳴いた。

 何をする気だ? 俺の力でクマールの力を引き出すってスキルスタックで死んだフリをファーストスキルにするって事か?

 だが、これって実質クマールの力な気がするんだが……。


 死んだフリで何が出来るんだ?

 そりゃあレッドホーンカリュドーンの攻撃を受け止めるとか棺桶状態を防御形態とするなら出来るとは思うけど……決定打には出来ないだろう。

 一体何をするかと思って居るとクマールは自身の尻尾に手を埋めたかと思うと……一枚の紙、葉っぱを変えた奴を取り出した。

 紙の所には何やら文字が刻まれている……この国の文字じゃ無い外国の文字だな。

 なんか家でクマールが巻物の文字を模写していたのは覚えて居る。

 道具の類いか?


「ヌマァ!」


 これが自分と主人が居ないと出来ない戦闘方法です! その恐ろしさを味わいなさい!

 と、クマールは紙を額に着け……死んだフリを行った。

 棺桶がクマールを取り囲み即座に蓋が開いてクマールが起き上がる。

 ……え?


「ヌガァアアアア……!」


 赤い魔力を立ち上らせた顔に札を着けたクマールが雄叫びを上げる。

 紙の文字が赤く光っているけど……。


『ヌマァアアア!』


 ってクマールの魂の叫びが棺桶辺りから聞こえて薄らと姿が見える。

 いや、あの……。

 そっとルナス達の方を見ると、ルナスとクリストがシュタインの方に顔を向けている。

 俺も同意見なんだけどさ。


「なんだ? 笑わせるのも大概にして欲しいもんだなぁあああ! 何にしても喰らえ!」


「フィイイイイイイイォオオオオオオ!」


 レッドホーンカリュドーンが牙を振り上げてクマール目掛けて地割れからの噴出攻撃を仕掛ける。

 クマールはその噴出攻撃を何でも無いとばかりにゆらりゆらりと歩いて受け止めながら前進して行く。


「ヌガァアア……」


「何!? 傷一つ付いてないだと! そんな訳あるか! 行け!」


「オオオオオオ――」


 バシュッとレッドホーンカリュドーンが頭を横に振ると角から風の斬撃が発生してクマールの……体へと飛んで行く。

 その斬撃をクマールの体は先ほどの様に何事も無いとばかりに受け止める。


「はぁああああ!」


 業を煮やしたヴォザードがレッドホーンカリュドーンに突撃を命じ、レッドホーンカリュドーンはクマールの体目掛けて飛びかかり、その巨大な角を振り下ろす。

 衝撃音と共に地響きと土煙が巻き起こる。


「どうだ。何か小細工をしたつもりだろうがこの攻撃を受けてタダで済む……なに!?」


「ヌガァア……ガアアアアアアアアア!」


 ガシっとクマールの体はレッドホーンカリュドーンの角の一撃を受け止め、普段のクマールとはまるで異なる魔物の本能のままに雄叫びを上げている。

 拳を握りしめ力の限りレッドホーンカリュドーンの顔面を引き寄せて蹴り飛ばした。


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― 新着の感想 ―
[一言] テンポが良くて面白い、続きが気になる。
[気になる点] >拳を握りしめ力の限りレッドホーンカリュドーンの顔面を引き寄せて蹴り飛ばした。 蹴り飛ばしたの?殴り飛ばしたじゃなくて? それとも相手の角を掴んでなのかな? [一言] ひとりキョンシー…
[一言] 札で自分自身をゾンビ化して、無敵の動く死体にしたのは理解できるんだけど、 なんでこれがリエルがいないとできない戦いかたなんだろ。 クマールの素の死んだふりではできないけど、 スキル共有でリエ…
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