201 コイントス
ルナスに次の命令が下りる決定が来ている。
そこでクマールに関して問題があると指摘されてしまっているので任務に連れて行く事は出来なくなる。
で、ヴォザードの方に有利になるかと言えばそうでもない。
国の保護となるので魔物使いギルドに受け渡す事は出来ないのでヴォザードの思い通りにもならない。
それに関わる人が増えれば増える程、ヴォザードは自分の思惑を看破されやすくなる。
「ほう……私としてはクマールを王宮に保護してもらい、任務が終わってからゆっくりと無実を証明しても良いが……その間にリエルとのポイントを稼いでくれる」
「清々しいくらいきっぱり言うな。リエル、お前の所の勇者様って凄いな」
サクレス、感心しないでくれ。
俺としてはこの中で一番頼りにしたいのはお前だから。
シュタインもクリストもルナスも、癖が強すぎる。
「ヌ……ヌマァ!」
え? 自分置いて行かれちゃうんですか? 嫌です。置いていかないでください!
ってクマールが俺を後ろから抱きしめて来る。
クマールが嫌がってるし、できる限り連れて行きたいのは事実だ。
任務で出かける前にこの問題を片付けたい。
「衝突なんて起こってねえって言ってんだろ! この魔物が問題を起こしたってだけなんだからよ」
「残念ながらそれは通らない。こうして意見の衝突が起こり、職員を挟んでいる段階で既に個人間での話し合いやギルド権力でのやりとりの領域は超えているのだよ。諦めたまえ」
ね? とクリストの台詞に職員はコクコクと頷く。
いや……頷くしか出来ないだろ。
「まあ私からすれば決闘などしなくても構わない。しかしその場合、被害者と加害者の双方から十分な証言を収集し、真実を明らかにし、裁く事になる。それで損をするのは一体誰なのか、私にはわからないけれど、ね?」
「く……」
ヴォザードが苦虫をかみつぶした様な悔しげな表情になった。
さすがに面倒な奴が出て来た事を察した様だ。
俺としてはさ……クリスト、お前なら無理矢理こんな難癖消し飛ばせるだろと思うけど、敢えてしないのが実にクリストらしいやり方だ。
類は友を呼ぶと言うべきか。
シュタインや俺の知り合いって感じだよな。
要するに、俺達が因縁を掛けられているとわかっている癖に決闘させようとしているんだ。
腹黒具合はシュタインと同じだ。
「わかってくれたかい? 一番手っ取り早い解決方法なんだよ」
「ルナス、見て分かる通り、クマールは置いて行かれるのは嫌なんだそうだ」
「それならしょうがあるまい。決闘に勝てば良いのだな? 私の強さの前ならばどんな奴だろうと跪く事になるぞ。命があったら物種だな」
まあルナスが本気で戦ったら誰も敵わないと俺も思うぞ。
……死んだフリ戦法が使えるならばだけど。
「ふざけんな! なんでてめぇと勝負しなきゃいけねえんだよ!」
「最近は色々あって力を使っていなかったのでな。宮仕えパーティーに所属している魔物使いとやらが使役している魔物ならば少しは楽しめるかもしれん」
勇者と戦わされそうになって慌てているヴォザードと、久々に勇者の怒りを使う大義名分を得たと考えているルナスが対照的だ。
まあさすがに勇者相手に正攻法で喧嘩を売る気はないらしい。
「決闘内容はどうするんだい?」
「魔物使い式を求める!」
「ふん。決闘はシンプルに両者の力が良いに決まっているではないか!」
と、ルナスとヴォザードのにらみ合いが続く。
「リエル、君の意見はどうかね? 勇者ルナスくんが決闘に出る事を彼は望んでいない。彼は魔物使い式……手持ちの使役魔同士と主人の援護のみの決闘を求めているようだけど」
いきなり出てきて場を仕切りやがって……絶対にこの乗りを楽しんでるだろ。
と、呆れるが……どうしたものかな。
クマールを置いていく訳にはいかない。
かといってクマールをヴォザードに渡すのは以ての他。
しかし、魔物使い式でやるのはヴォザードが有利過ぎるだろう。
「ヌマァアアアア!」
ここでクマールがやる気を見せて両手を挙げて威嚇の声を上げた。
置いてきぼりにされるくらいなら自分が戦います! って叫んでる。
「魔物使い式の場合、対戦相手にクマールが出れるんだよな?」
ここで賞品が決闘に出るわけあるまいとクマールが出られないと、戦わせられる使役魔がいない。
「僕の出番かな? 無敵の使役魔を呼び出してあげよう」
「シュタイン、お前はお呼びじゃない」
お前に任させた場合、俺がゾンビ化して戦う事になるだろ。
できる限り隠せっての。
わかって言ってんだろ。クリストもわかって言ってるな?
「いいぜ。魔物を専門に使いこなす魔物使いこそが、お前の力を最大限引き出せる事を身をもって教えてやる!」
「そう思い通りになどさせるか! 貴様の魔物など私がボコボコにしてくれる!」
「ではここは公平に運でどちらか決めようじゃないか」
と、クリストが国の硬貨を一枚取り出す。
「表が出たら勇者ルナスくんの求める決闘、裏が出たらヴォザードくんの求める決闘だ。こちらが表で、こちらが裏。どうかね?」
「無駄に言い合うよりはマシか。表が出たら私が速攻で喧嘩を売った事を後悔してもらい、私たちに関わる事を金輪際禁ずる」
「わかったぜ。裏が出たら俺が魔物使いとして、正しい事を証明してやるぜ!」
「行くよ」
と、クリストがピーンと指で硬貨を弾いて受け止める。
「では……」
サッと、手を上げたクリストの弾いた硬貨は……裏を見せていた。
「ヌマァアア!」
そんな訳で王宮にある訓練場に隣接された決闘場で俺とクマールはヴォザードが引き連れる魔物達と相対する様ににらみ合う形で立って居た。
魔物使い式の決闘は主人は後方での援護。魔物への直接的な攻撃は禁止……魔法とか遠距離武器での攻撃はダメって奴で、能力を上昇させる補助や傷の治療などは許可される。
まあ、刻一刻と変わる状況下で回復魔法をかけ続けられるかってのはあるけどさ。
傷薬とかを投げつけるのもOKとなっている。
クマールがやる気満々で威嚇の声を上げている。
「ふん、そんな主人じゃお前の力を引き出せない事をその身をもって教えてやる」
「ヌマアアアア!」
また主人の悪口を言いましたね! 絶対に許しません! 主人がいるからこそ出来る戦い方をその身をもってたたき込んでやります!
と、クマールは言い返している。
魔物使いって……魔物の言葉がわかるんだっけ?
意思疎通は出来ると聞いた事があるが、少なくともヴォザードをクマールは思い切り嫌ってるから思い通りにするのは相当難しいぞ。
「俺が勝ったら、魔獣を使役するためのこの首輪を付けて貰うぞ」
ヴォザードが懐から一つの首輪を取り出して見せてくる。
俺とクマールはほぼ脊髄反射でその首輪に把握を掛けて唖然とした。
正確にはクマールはそれがなんであるのかの詳細は分からなかったようだけど、俺が念話で知識を共有することで理解した。
あの首輪は隷属の首輪……危険な魔物等を縛り付ける使役魔の首輪に付けられるタグなんかよりも遙かに強力な……呪いとも言える呪具だ。
拘束を強めると使役する魔物の意識すらも縛り付け、自我の無い人形に出来るという話の代物だ。
魔物使いで無いと使いこなせない道具で、俺は当然使えない。
ちなみにこの隷属の首輪には穴というか問題があって、所持者よりも強い魔物を縛り上げる事は出来ない。
相応に、力が求められる品だそうだ。
前提としてヴォザードは果たしてクマールを抑え込むほどの実力を持っているのか?
という所は気にしないでおこう。
実は凄い腕前の魔物使いなのかもしれない。
何せ遠征から帰還した魔物使いなんだし、魔物使いギルドも相応に評価している宮仕え冒険者であるのは間違いないんだしな。