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199/216

199 雰囲気


「んだとコラ! 舐めてんじゃねえぞ!」


 激昂した酔っ払いが持っていた剣を抜いて滅茶苦茶に剣を振りかぶる。

 随分とお粗末な剣だなー……。


「ヌッマ」


「俺が抑え込むからな」


 尻尾を掴まれていたクマールもサッと尻尾を動かして酔っ払いの手から離れた。


「あ!?」


 何故か酔っ払いがクマールの動きに注意が向いた所で俺が酔っ払いに近づき、手首を捻って抑え込む。


「いたたた! やめ! やめやがれ!」


「絡むのも程々にしてくれ。剣を抜くとか自警団に出されても文句言えないぞ」


「く、くそ!」


 動きが大人しくなったので酔っ払いの手を放し、いつでも相手出来るぞとばかりに睨みと殺気をぶつける。

 これで少しは大人しくなるか?


「チッ! 胸糞わりい! やってられっか!」


 と、酔っ払いは舌打ちしてその場を去って行った。


「災難だったな。クマール。けがはないか?」


「ヌマー」


 痛くもかゆくも無いです。

 と、クマールは答える。

 まあ、Lvって割と無慈悲だよな。それくらい俺達は強くなってしまっている訳なんだけどな。


「それじゃあ掃除を再開するか」


「ヌマ」


 で、それから……どんどん出てくる妙にクマールへと絡んでくる連中。

 手を変え品を変えてだ。

 ガラの悪い悪ふざけの学生共、噛み癖のある使役魔など数えたらきりがない。

 これが俺の把握範囲から離れた所でも起こったそうで大家と掃除したゴミを運んでゴミ捨て場に行くときにも起こったそうだ。

 クマールは大家を守ってその場から離れたけれど、絡む連中はみんな揃ってクマールへと向かってくる。

 で……。


「うわ!」


「ヌマー」


 で、クマールが突然俺の部屋の扉を開けて……現れて驚いた。

 何せ距離が離れてスキルスタックが解除されたとしても周囲に把握を張り巡らせている俺の認識外からクマールがスッと突然部屋の扉から出て来たのだから。


「びっくりした。クマール、潜伏系の魔法とかも使えるのか?」


「ヌマヌマ」


 クマールは手を振って違うと答え、妖の世界を経由して俺の部屋に戻って来たと答えた。

 たまたま空間が開いていたそうだ。


「クマール一人で、しかも証無しで行き来できるのかー」


 どうもクマールは妖の世界への境が見えるようになってきたらしく、場所さえわかれば入り込めるそうだ。

 大妖獣ポンポコンってスキルの性能は凄いな。


「とはいえ、なんか変だな……」


「ヌマ」


 さすがに俺もおかしいとは判断していた訳だけどその日はその後、特にこれと言って絡まれる事は無かった。

 ただ、警戒心は増す訳で、俺とクマールは周囲への把握を広げたまま過ごす羽目にならざるを得ず、翌日は通路の曲がり角の死角に高そうなツボとかおいてあったり、不自然に物がおかれていて通路が狭くてクマールが通りづらい場所が増えた。

 まあ……通路は壁とかに捕まって飛び越えたりした訳だけど。


「で、不自然な歩調でクマールにぶつかって来た奴を締め上げて吐かせようとしたんだけど、ローブで顔を隠した奴に金を渡されてクマールに絡むだけで良いとか言われたとかでさ。犯人を捕まえようにも逃げられてまるでわからん」


「ふむ……それは非常に厄介だな。私たちも色々と因縁を付けられるようになってしまったという事か」


「かもしれない。かといってなぜクマール?」


「ヌマー」


 俺もクマールもルナスも、心当たりを探るしかない。

 なんでクマールな訳? そもそもクマールに絡んでどうするんだ?


「リエルに有り金をカツアゲするために絡むのならわかるが、クマールに絡むのは理解出来んな」


「……なんで俺がカツアゲされるのはわかるんだ?」


 ルナスが確信をもって俺が絡まれるのは納得できる理由に俺が納得したくないので聞く。


「わからないか? 君には何を言っても良いと思わせるような雰囲気がある。だからマシュアやルセンも君を侮っていたのだろう」


 薄々わかっていたけど堂々と言われるとそれはそれで嫌だな。


「なんというのだろうな……育ちが良いというか、坊ちゃんと言うのか……敢えて言うなら世間を知らずに育った貴族の子息みたいと言えば良いのか」


「何の話? もしかしてリエルの印象?」


 ここで一番面倒くさいシュタインがケロッとした表情でやって来た。


「うむ。リエルは素行の悪い冒険者に絡まれそうであると少年も思わんかね?」

「そうだね。リエルって絡まれそうなのは間違いないね」


 ルナスの言葉にシュタインが同意して頷きやがった。


「ただ、リエルって見た目通り温和で我慢強いけど限度を超えると面倒だからねーレンジャーとして勉強してるからその辺りは利用するでしょ」


「そりゃあな。そもそも子供の振りして人をおちょくる旧友の相手をしてたら自然とこうなるだろ」


「おや。言い返されちゃったよ」


「ヌマー」


 主人も苦労してますねってクマールの同情がちょっと悲しい。

 お前も似たようなもんだろ。

 現在進行形で妙に絡まれてるんだから。


「で、リエルの外見でからかう展開?」


「違う。クマールが妙に絡まれて困ってるんだ」


「そりゃあペットは飼い主に似るんじゃない?」


「ヌマ~」


 クマール、照れるな。

 それは照れるようなことじゃない。似るってスキル構成がほぼ同じなんだから似てもいるだろう。

 って本題からずれてる。


「そうじゃなくて、なんでクマールなんだってことだ」


「なんでって、そこまで可能性は無いでしょ。大方、クマールが危険な使役魔であるとか既成事実が欲しかったとかじゃないの?」


 ケロッとした表情でシュタインが言うとほぼ同時だったか。

 俺たちの方へ王宮の職員と……ニヤついた表情をしたヴォザードがやって来て、嫌な予感が確信へと変わってくる。


「宮仕え勇者ルナスパーティー所属リエルさん」


「何?」


 ニヤついて居るようにしか見えないヴォザードへ俺とクマールが不快そうに眉を寄せている所で職員が声を掛けてきた。


「あなたが主人として登録しているクマールに関して危険上位魔獣種である疑惑があります」


「危険上位魔獣種?」


 雰囲気に警戒しつつルナスが小首を傾げて俺とシュタインの方へと尋ねて来る。


「なるほどなるほど。まあ考えたつもりなのかな?」


 シュタインの方は呆れとばかりにため息を吐いて説明を俺に丸投げしてくる。


「文字通り飼育するのに危険なので大層な資格を求められる。本来は人に懐かない危険で大量の死者すら出しかねない猛獣に該当する魔物種のカテゴリー名だ。バジリスクとかゲイザーとかいるだけで周囲に被害を及ぼす魔物が該当する」


「そういう訳だ。つまり上位レンジャーだろうと賢者だろうと使役出来る限界って事なんだよ。分かったか?」


 ヴォザードが鬼の首を取った様に胸を張って言い放つ。

 周囲に災害を振りまく危険な魔物のカテゴリーな訳だけど、その疑惑にクマールが入るとか……。


「ほう……ではどのようにしてクマールに危険上位魔獣種の疑惑が掛かったのかね?」


 ルナスが異議があると職員に鋭い眼光で尋ねる。

 すると職員はルナスの眼光に押されつつも口を開いた。


「被害を受けたと王宮に届けられており、複数の魔物使いから危険な魔物であるとの証言によるものです」


 専門家である魔物使いが危険だと指定する事を皮切りに被害届があるからと言う名目か。

 ヴォザードの方を見ると俺を睨んで居て黙り込んでいる。

 最初に会った時とまるで変わらない態度で本心が透けて見える気がするな。


「ヌマ……」


 クマールも相手の意図が分かっているのか不満そうに鳴く。


「ほう……被害届と。うちのクマールが被害を出したとの話だがどんな被害だったのかね?」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] あれだけやらかしたレンジャーギルドがお詫びとして差し出してきた資格がやっぱり役立たずでしかないってことでいいのでしょうか?
[良い点] よし、次のターンだ! 待ち遠しくて春眠暁を覚えずです!
[一言] 剣で切りかかってきた殺人未遂犯を無罪放免?
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