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198 当たり屋


「普段は外食で済ませてるな」


 だって屋台とかで結構食事出来るし、自分でしなくても済む。

 そりゃあ気が向いた時とか作ったりするし勉強中の夜食で作ったりもするけどな。

 最近じゃクマールがハチミツ壺からハチミツを貰ってミルクとハチミツを混ぜてパンに浸して卵を入れて焼いたりするけどさ。


「少し休んでから食べに行こうでは無いか」


「ああ」


「今夜は語り明かすぞー!」


「おー」


 ルナスがベッドに腰掛けて元気に告げ、シュタインがヒシッとクマールの尻尾に抱きついて同意した。


「はぁ……」


「ヌマー……」


 楽しんでくれているのは俺もクマールも悪い気はしないけど、何を楽しんでるのかよく分からないので合わせるしかないよな。

 って感じでその日は随分と遅くまでルナスに絡まれて俺達は過ごした。


「ふむ……少年が悪く無いと言っていたが、確かにこれは中々」


 就寝時間になり、クマールを背もたれに横になる俺と、ベッドに横になりながらクマールの尻尾を抱き枕にするルナス。


「リエルがマメに手入れをしているからか、クマールの尻尾もふわふわであるな」


 まあ……暇な時は手入れを今もしてる。

 体格が大きくなってもクマールは甘えん坊な所はあるからな。


「ヌマヌマ」


 ゆらゆらとクマールの尻尾が揺れながら夜は更けていったのだった。




 一方その頃……魔物使いギルドでの事。


「クマール……確かに王宮内の宮仕え冒険者名簿に記載されていますね」

「そうか……だがアイツは、ただのタヌクマじゃねえぞ」

「そうは申されても書類上ではタヌクマとされていますし、提出された資料もあります。相当育成環境が整っているか……この資料、随分と懇切丁寧に書かれていますね」


 ギルドの職員の野郎が取り寄せた資料を見て唸ってやがる。


「ここまで丁寧に要点をまとめられるなんて……レンジャーにしておくのが非常に惜しい人材ですよ。賢者として認定されるのも納得ですね。機会があればうちも繋がりを持っておきたいですね」

「あぁ!?」


 俺の声に配下の使役魔がゴミのような職員に向けて殺気を放ち、唸り声を上げる。


「し、失礼しました」

「ありゃあただのタヌクマじゃねえ。この俺が一目見てアイツの手に余る魔物だって判断してんだ。わかんねえのかよ!」

「そう言いましても……現在、このクマールの主人が所属する勇者パーティーはミットロハール大迷宮40階層を突破したと言われる期待の新人パーティーですからね。フォーススキルも開花していれば力強くなっているのも当然かと」

「何抜かしてんだ。主人や勇者の方は大した事ねえよ! 嘘に決まってんだろ!」


 遠征から帰って来た俺が言うんだから決まってんだよ。

 俺がどれだけ遠征地で命のやり取りを繰り返してLvアップしてきたのかわかんねえのか?

 内地で甘えた育成しか出来てねえ平凡な魔物使いが客観視出来ている面してんじゃねえぞ!


「良いから俺の言う通りにしろと言ってんだ! 俺を誰だと思ってんだよ!」

「は、はい! 少々お待ちください」


 俺の怒鳴り声で凡夫な職員が敬礼をしてギルドの奥へと駆けて行く。


「くそが!」


 俺は思わずギルドの壁に蹴る。

 あのレンジャー、リエルだったか。

 念のために王宮の登録名簿を確認を取ったら本当に上位レンジャーの資格を持っていやがった。

 だが、それが何だってんだ!


「何が上級レンジャーだこの野郎!」


 レンジャーなんて罠と援護は任せろとか言いながら常に足を引っ張る代表みたいなお荷物じゃねえか!

 そんなもん、開錠持ちの使役魔に任せりゃ大抵どうにかなるだろ!

 レンジャーなんて誰でも就けるような雑魚職の分際であんな強力な魔物を使役してるとか調子に乗ってんじゃねえぞ!


「くそが! なんでレンジャーなんてゴミ職が使役魔の一部の使役を許可してんだ。魔法使いもうぜぇ!」


 使役魔は魔物使いが使うもんでお前等が使えるもんじゃねえんだよ。スキルが大事なのを分かってねえ!

 とりあえずって感じであんな凄い魔物を引き連れやがって! 自慢のつもりかこの野郎!

 お前の身の丈に合った使役魔じゃねえんだよ! 絶対力を引き出せてねえ!

 俺の方があんな奴よりアイツを使いこなせるのは明確じゃねえか!

 適材適所という言葉の意味を分かってねえ!


 俺が遠征に行かされてどんだけ大変だったと思ってんだ。

 宝の持ち腐れだろ!

 国の連中もウゼえ事この上ない!

 あんな宝みたいな使役魔を見て何も疑問に思わねえってのが腹立たしい。

 アイツを素材にすればどれだけの事が出来るかわかんねえのか!

 絶対に手に入れてやる。

 レンジャー資格と魔法使いの資格があるとしても俺……魔物使いの目を誤魔化して逃げる事なんてできないんだからな。


 何の為に七面倒くさい遠征に行って帰って来たと思ってんだ。

 俺の立場を実力を思い知るが良い!


「クマールだったか……お前の能力を最大限引き出せるのは俺であり、誰が真の主人であるかを教えてやる!」


 あの俺にとって最高級素材を手に入れる最大の障害、あってはならない異分子に身の程を叩きこまねばならない。

 お前如きが扱える生き物ではないという事をな!


「魔物使いとしてのスキルを持っていないことを後悔しても今更遅いぞ! リエル! 貴様が自慢げに引き連れている魔物を最大限使いこなせるのは俺だ! ふはははは!」





 ルナスが俺の部屋でお泊まりしてから二日後。


「どうしたリエル? クマール?」


 王宮の訓練場へ行くついでに酒場に来た所でルナスが俺たちを見つけ、首を傾げながら訪ねる。

 どうして首を傾げているのかと言うと……ちょっとした理由があったからだ


「ああ、どうも昨日から妙な連中に絡まれる事が増えてな」


 昨日の昼……ルナスが泊まって帰った後に部屋とアパートの周囲をクマールと一緒に掃除していた所でのことだ。


「ヌマヌマー」


 クマールが頭にバンダナを巻いて箒と尻尾でアパート周辺にあるゴミを掃いて一か所に集めていた。

 大家はクマールが掃除をしてくれる事で助かったからと、クマールにエプロンを渡して着用させていた。


「なんだぁ? この魔物? ご丁寧に人間様の真似事かぁ?」


 と、なんか酔っぱらった冒険者たちが掃除中のクマールに向かって絡んできた。

 俺はその時、部屋の方で掃除していて気付くのに遅れたけれど周囲に張っていた把握で異変を感じ取って部屋から出た。


「おら! なんか言えよ!」

「ヌマ?」


 ゲシっと酔っ払いがクマールを蹴って来た訳だけど、クマールの体躯とLvからしてビクともしない訳で……。


「ヌマーって変な声あげやがって! あぁ!? なんだこの尻尾! フリフリしてんじゃねえよ!」


 と、今度はクマールの尻尾を掴んで力の限り握りしめる。


「ヌマ」


 ウルフとかだったら尻尾を強く掴むなんてことをしたら主人以外だったら振り払って威嚇するくらいの挑発的な行動だ。

 赤の他人であるのなら猶更な訳で。

 で、尻尾を掴まれたクマールだけど冒険者の腕力では痛みを与えるほど強く握りしめる事が出来なかったようで、何? って感じで首を傾げて鳴いているに留まっていた。


「く……この! 何我慢してんだ! 上品な魔物とでも思ってんのか、この不細工が!」


 酔っ払いである冒険者はクマールが蚊ほどにも痛みを感じていない事に不快そうに声を上げる。

 で、クマールに関してなんだけど不細工とか俺達と出会う前にこれでもかと言われ馴れていたので何とも思わず、人間の大人に力の限り握られても痛くもかゆくも無い事に成長を感じていたらしい。

 それほどまでに自分はルナスと俺に育てられたんだなーと。


「おい。俺の使役魔に何してんだ?」


 クマールに絡む酔っ払いらしき冒険者に俺が声をかける。


「こいつが生意気だからお仕置きしてんだよ!」

「……生意気って?」

「見てわかんねえのかよ!」

「ヌマー」

「酔っ払いに俺の使役魔であるクマールがいちゃもんを付けられている光景にしか見えないが?」


 ありのままの事実を俺は酔っ払いに突きつける。

 だって事実だし……と言うかコイツ酔ってる……んだよな?

 把握で確認すると酒は結構飲んでるけど酔っ払いにしてはしっかりしてるような気がする。


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― 新着の感想 ―
[一言] こんな連中ばかり居るこの国がなんとか運営されてるのが凄いなあw
[一言] なるほど、当たりやですね。 次の決着はパーティ戦でやって欲しいですね。 勇者もバカにされたことですし。 今のMAXだとどのくらい強いのですかね。
[一言] 一つだけ。クマールのスキルを見たら、どんな反応をするんだろうと期待しかない。 把握、死んだフリ、積載軽減、スキルスタックこの四つだけだったら、確かに使えるかどうかは分からない。 フィフススキ…
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