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197 触媒石


「なんとダイナミックな拒絶であるな」


「く……非常に寝やすそうな生きてるベッドが目の前にあるのにここまで拒絶されるなんて」


「そんな羨ましがるようなもんじゃないだろ。そもそもお前は寝る頃に帰る予定だ」


「ヌマヌマ」


 シュタインが歯ぎしりしてる所をクマールと俺が呆れる。


「出来ない事が悔しいの」


「勝手に触った所為だろ……」


 ゾンビ中にこれみよがしに触ったのが原因だ。


「毛布とか積んで簡易ベッドくらいは作れるぞ?」


 本当に俺の部屋に泊まるならだけどさ。


「リエル、ベッドを私に貸してくれると言うが、私もそこまで甘えるつもりは無いぞ」


 ルナスが俺のベッドに腰掛けて流し目をした。

 何その態度。


「同じベッドで寝ようではないか。じゃないと帰らない少年が寝ているクマールに抱きつく攻防に巻き込まれるぞ」


 露骨に俺と一緒に寝る事を誘ってくるなー……シュタインとクマールが居るのにそんな寝方出来るかっての。

 泊まるならルナスの家の方がまだ広いだろうに、俺の部屋に泊まりたいと言ってこれって……。

 二人が自由すぎて寝づらい夜になりそうだ。


「却下。シュタインもあんまりクマールを弄ろうとするなら寝る前に追い出すぞ」


「ちぇー、じゃあ代わりにクマールの尻尾を借りようかな。帰る前の抱き枕にするくらいは良いでしょ」


「ヌマー……」


 それくらいならとクマールも妥協するように頭を掻きながら了承する。

 クマールの尻尾、腹とは別の意味でふわふわだもんな。

 魔力が循環する箇所らしいけどシュタインに抱きつかれても大丈夫っぽい。


「しかし相変わらず君の部屋は色々と整理整頓されていて……おや? これは何だね? 魔法結晶とは異なるな」


 ルナスが机においてあるこぶし大の石を持ち上げて尋ねる。


「触媒石じゃない? なんか見慣れない力が内包されてるみたいだけど」


「む?」


 触媒石……高威力の魔法を使う際に術者が事前に自身の魔力を凝縮させて精製させる結晶の事だ。

 この触媒石があるのと無いのとではいざという時の魔法の発動や魔力の消費に大きな差が開く。

 と……言われている。

 魔法結晶は事前に内包された魔法を魔力を持たない者でも発動出来る様にした道具で、見た目は確かに似てるかも知れない。

 で、ルナスが持ち上げた触媒石の色は緑色で中を確認すると時々黒い何かが顔を覗かせる。


「触媒石とな。なるほど、これがそれなのか」


「ヌマ」


 クマールがここで挙手する。


「クマールが練習で作った奴だよ。何かの魔法を使う際に使用するらしい」


 生成するのにかなりの魔力を消費するらしく、こう言った特に戦うような状況じゃないときに作る物なんだとか。


「なるほど、これはクマールの魔力を凝縮した代物なのか」


「クマールの魔力玉だね」


 ……なんかシュタインの言い方が非常に気になるけど気にしない様にしよう。


「ルナスさんは触媒石は作らないの?」


「それを言ったら君もでは無いか?」


「一応持ってるよ? 上位結界魔法とか、高等神聖魔法に使うのは分かってるからねー」


 聖職者に必要な魔法群だな。


「勇者の授業や魔法学では求められない代物であるからな……」


「職業の特徴かー……」


「君の念魔法はどうなのかね?」


「持ってるのが初級までだからなんとも言えないけど特に触媒石を求められるような物は無いな」


 上位魔法とかで使うのかは分からないけどさ。


「たださ、触媒石ってそう珍しいもんじゃないはずだよね。中級以上の魔法職は持って居るのが割と普通のはずなんだけど……君達の元仲間は?」


 ここでふと、マシュアとルセンが俺達の脳裏に浮かんでくる。

 あの二人……準備って概念がすっぽり抜けていたのは間違い無い。

 聖職者のマシュアは触媒石が必要な強力な神聖魔法は使うことは無かったし、尋ねた際にそんな魔法に頼るより連射出来る魔法があるからこっちで十分とか言ってた。

 ただ、シュタインは死霊術ってアドバンテージがあって、更に援護として神聖魔法も使ってくれる訳で……。

 ルセンに至っては触媒石を補助道具みたいな物で不要だと豪語していたっけ。

 触媒石があると詠唱がかなり短縮出来るって聞いて居たけど……実際の賢者は違うんだな……と思ったな。


「ヌマー?」


 俺とルナスはシュタインとクマールから顔を逸らす。


「本当、彼らってどこら辺が一流だったのか疑問だね。一流二人におんぶに抱っこして貰って居たのが分からなかった愚か者なんでしょ」


「あまり死者に鞭打つ事はな……」


「あそこまでコケにされてるのにリエルは相変わらず優しいね」


 これを優しいと言うべきなのか?


「ちなみに触媒石は外に凝縮させた魔力の塊だからね。いざって時、微弱だけど魔力回復にも一応使えるよ。生憎僕たちの場合はリエルとルナスさんが居れば魔力切れは縁が無いけどね」


 よくよく考えると死んだフリと勇者の怒りの組み合わせは凄いよな。

 魔力回復効果もあるから継続戦闘もお手の物な訳だし。


「とにかく、これがクマールの触媒石という事で良いのだな」


 ルナスは手に取ったクマールの触媒石を元あった所に戻した。


「結構狭い部屋だけどリエルとクマールで割と問題無く過ごせて居るっぽいね」


「まあな。クマールも大家の指示通りに静かに過ごしているよ」


「ヌマ」


 最近じゃアパートの掃除とかしてて大家に気に入られても来てる。


「何か他に面白いものはないのかねー」


 ガサゴソとルナスが人の部屋にある品を漁り始めたぞ。

 そんな珍妙な品があったらルナスと分け前の段階で話したりしてる。

 冒険の準備とかまだしてないしな。


「そういえばリエル。前々から思って居たのだが、君の薬学と調合知識はレンジャーギルドの見習い時代に学んだ物なのかね?」


「ああ、そこら辺はある程度はな。毒物とかの扱いや罠の使い方も習ったよ」


「ふむ……確か呪いの解除方法は少年から教わったのだったな」


「そうそう。僕が教えたよ。ただリエル、レンジャー見習いになる前から錬金術は囓ってたよね」


 うわ……ここでシュタインの奴、露骨に知ってる事を聞いて来るなー。


「そりゃあ昔な」


「魔法道具類はそこそこねーあっちの世界じゃ変わった物があったけど、こっちの世界でもあるものの見分けくらいは出来るよね?」


「むむ……また私だけのけ者か? クマール、お前は何か知ってるか?」


 俺とシュタインの攻防を察してルナスがクマールに尋ねる。

 クマールは知らないと頭を横に振り、ルナスと一緒に好奇心に満ちた目を向けて来る。

 幼少時に見聞きした経験からどんな品なのかとか聞いたりする事はあるだろ。

 把握なんてスキル持ってるから仕組みへの理解も深まる。

 あまり難しい物は理解するのが大変だけどな。

 浅く広いのが把握だしな。


「ルナスの方こそ、ジンジャーブレッドマンクッキーを食べる際に錬金術師の話をしてたじゃないか」


「私の地元に錬金術師のご近所さんが居てな。色々と見させて貰ったのだ。不思議な品もあればただの料理、薬などもあったな」


「似たようなもんだよ。把握は物の変化をわかりやすくなるから少しだけ囓る事が出来ただけだ」


「そうか……」


 そこまで詮索するような話じゃ無いと判断したようでルナスは納得してくれた様だ。


「ヌマ?」


 クマ-ルの方は……お前の方が不思議な事への理解は深いだろ。

 あっちの世界はお前が頼りなんだし。


「ヌマー」


 大妖獣ポンポコンが不思議な道具を作っても何の不思議もないぞ。

 何かあるんじゃないか?


「ヌマ!」


 ありますよーとクマールが巻物を広げて俺に見せようとするけど、なんて書いてあるのか俺には分からない。

 葉っぱを……紙へと変化させて何か魔法効果を宿す……感じかな?

 スキルの習熟が進んで居ないので解読はまだ出来ていないけど近々読めそうらしい。


「さて、リエルの部屋へ訪問をしたし……何か食べ物を作らないのかな?」


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― 新着の感想 ―
[良い点] それぞれのバックボーンと現在が繋がってきた これからどんな展開があるんだろうか たのしみ。
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