195 美への執着
「クマールも分からないらしい」
「ヌマ」
何があろうと自分は自分です。この命、主人と共にあります。
って忠義を見せられてもな。
「まあ、なんかクマールってリエルが寿命で亡くなってもずっと側にいそうだよね。使役魔の美談にある感じで」
「アレは名作だぞ。だがリエル。クマールはあくまで使役魔であって、そう見つめ合って心で通じ合う恋人では無いのだからな! 勘違いしないように!」
ルナスは一体何を言ってるんだろうな?
クマール、お前は俺の恋人だとルナスに嫉妬され掛かってるぞ?
「ヌマー……」
ですね。主人は主人であって恋人では無いです。
ってクマールも同意している。
「ヌマヌマ」
魂の半身にして本体のような方ですってそれも違うだろ!
「ヌマ?」
まあ、心は共にあるみたいな忠義って事にしておくよ。
「リエルは念話が出来るからね。特にクマールは念話じゃないと話が出来ないから僕たちからすると別の間柄に見えちゃうのかもね」
「クマールは既にタヌクマという魔物から別の存在に昇華していると分析すべきでは無いのか? リエル」
「確かにそうかも知れない。となるとフィフススキルから大妖獣ポンポコンが今のクマールの種族名って事になるのかな?」
人の世では成長することで呼び名が変わる魚とか魔物が居る。
「大妖獣って所で凄く強そうだし、寿命も延びてるかもね」
「ヌマ、ヌマヌマ」
安心してください。とクマールが胸に手を当てて鳴いてる。
何を安心しろと言うんだ?
「ヌマヌマ」
「……俺の死が自分の死すべき時です。死しても何処までも共に行きます。それが自分の使命ですって……」
クマール、なんて忠義が重いんだ……。
「ぐぬぬぬ……私だってリエルと共に居るぞ!」
ルナスもそこで焼き餅を焼かない!
「俺としては俺が何かあったときにクマールが後追いで死なれる方が嫌だけどな。俺はお前の命の責任を取るが、お前が好きに生きる意志まで縛るつもりは無いんだぞ」
後に残された者は自分よりも長生きして欲しいと思うものだろう?
ここで一緒に死のうなんてのは余り建設的じゃ無い。
「ヌマ」
「そうしてリエル亡き後、人間に絶望したクマールは人類の敵になるんだね。分かります」
「コラ! クマールの風聞を下げるような事を言うなっての!」
確かに、今のクマールは言ってはなんだけどルナスのお陰で国内でも上から数える位の高Lvの魔物だと思うけどさ。
「そういえば何処かで一族に忠義を尽くす使役魔の話を聞いた覚えがあるな。ドラゴンなんかも居るそうだぞ」
「あー……そっちの方が俺としては良いな。クマール」
「ヌマ!」
主人が望むのなら自分は、主人の子供に忠義を尽くします!
まだ、そっちの方が美談として良いと思う。
ただ……俺の子孫の心根が腐ったら早めに見切りを付けてくれ。
「クマールが長命であると仮定した話だな。そろそろ次に行こう」
「ヌマ」
なんて感じで雑談しているとハイロイヤルビーが開く店にたどり着いた。
「ふむ……ここはハイロイヤルビーが開く店か」
俺達はみんなハイロイヤルビークイーンから貰った武具を持って居る。
ここで素材を持ち込んで強化を頼めば、強化してくれるだろう。
問題は強化したばかりで、素材もまともに持ってない。
「ギギ」
いらっしゃいませ。と、ハイロイヤルビーが俺の持って居る証を見て一礼する。
それから徐にクマールに視線を向けた。
前回は開花してなかったけど、今のクマールはフィフススキルが開花したもんな。
何かしらの変化があるんだろう。
「ギギギ」
「ヌマヌマ」
何かクマールがハイロイヤルビーと雑談をしている。
魔物繋がりで話が出来るって便利だな……俺も念話で参加出来るけど今はクマール以外は念話を飛ばして居ない。
そもそもこの世界の住人って、魔物……なのか? 境界が分かりづらいな。
「ヌマ」
クマールがどんな話をしていたのか伝えてくる。
お前、そんな事をしていたのか。
「どうしたのだ?」
「クマールが貰ったハチミツ壺に俺が与えた食べ物の一部とかを入れてハイロイヤルビー達の方へ送ったりしていたらしい。人の世の食事を分けて貰ってお礼を言われたそうだ」
お裾分けをクマールはいつの間にかしていたんだな。
ハイロイヤルビーとの交易にハチミツ壺って使えるとか便利だ。
「ギギギ……」
「お礼にハイロイヤルビークイーンから特別な食事の一部を取り出す許可を貰ったらしい。ハイロイヤルビーのロイヤルゼリーだとさ」
「ヌマー……」
ロイヤルゼリーって酸っぱいから好みじゃ無いってクマールの反応が渋めだ。
「ハイロイヤルビーのロイヤルゼリーって凄く高価で取引される奴だよね。寿命が延びるとか美容効果があるとか言われてるよ」
換金目的で取り出すのが無難な運用か?
「ルナスさんがほしがりそうだね。美容効果があるって話だよ」
「美貌を維持するのは女であるからには興味が無いわけではないが、固執するモノでは無いと私は思うぞ。私は年老いた時、素敵な老婆になりたい。いつまでも美に執着するのは姿は良くても心は醜く感じるのでな」
なんともルナスらしい反応だなぁ。
幾ら見た目が良くてもか……確かに貴族の中年女性って美に執着する所あるもんな。
「ルナスさんは美魔女に興味無しっと……年取ったら貴族の女性に嘲笑されそうだね」
「実に下らん。そんな事で笑う者等放っておけ、美貌というのは利用するもので執着するモノでは無い」
「清々しいけど敵を作りそうだから程々にね」
ルナスらしいけど自粛はしてくれないのが分かってる事をシュタインは注意した。
「こっちの世界でも売り物として使えそうだし、何かに使えるかもね」
「しかし……ここまでの道のりだけであるが実に不思議な場所であるのは間違い無い。未知を冒険するという意味で私は心が弾んでいるぞ」
まあな。
幻想的というか町並みだけでも楽しめるのは否定できない。
「この世界は何処まで広がっているのだろうな? この町だけなのか?」
「どうなんだろう……クマール、分かるか?」
「ヌマヌマ」
俺の質問にクマールもよく分からないと返事をしてくる。
そりゃあそうだよな。
「このような世界に関して思うのだが、物語で見るエルフやドワーフも本来はこちらの世界が所属する世界なのではないか? 少年、その辺りの話は知らないか?」
「エルフの先祖は妖精界にいたって伝承は聞いた事あるね。この世界がそうなのかも知れないね」
「迷宮だけが冒険する全てでは無い。機会があったら行きたい所であるな。だが、これを風聞しようとすると行き来が出来なくなりそうだ」
「確かにねー。欲深さは身の破滅を招くってね。魔物の一部もこの世界では知的人種として認めているみたいだし、僕たちの世界とはまた違うんだろうね」
「仮にこちらで何かしらギルド的な制度のある施設がある場合、クマールは人として登録しなければ行けなくなるか」
「現段階で人扱いでも良いと俺は思うけどな」
地上に戻ってから何度俺はタヌクマ人と同居していると思った事か。
責任を持って世話をすると決めた所から家族って認識で世話をしてるけどな。
クマールの知能は相当向上してるから言葉での応答が難しいだけだし。
「ヌマー」
無理に認めなくても主人達と一緒に居れば困らないので問題無いとクマールは意志を伝えてくる。
あの魔物使いを思い出すと制度的にクマールは魔物って扱いなんだけどな。
王宮がクマールに人権を与えるかというと……怪しいな。
例外を認めると歯止めがきかなくなる。




