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194 不思議道具


「ヌマ! ……ヌ、ヌマ~」


 ここは任せてください! ってクマールが意思を伝えてきて、非常に羨ましそうな顔で口に指を当てて涎を垂らしつつルナスのクッキーを凝視して見せる。


「む?」


 その圧をルナスは請けてジンジャーブレッドマンクッキーを一枚差し出し、クマールは受け取るのだけど残り二枚もクマ-ルは欲しいとばかりに凝視し、涎を啜って飲み込み、再度涎を垂らして見せる。


「クマール、幾ら美味しそうだと言ってもこれはリエルと少年のだぞ」


「だ、大丈夫だよ。僕の分をクマールに上げて良いよ。ほしがる者に上げるのも大事でしょ」


「あ、ああ。クマールはお腹が減っているみたいだし、俺の分もやってくれ」


「そうか? 君達がそう言うのならクマールに食べさせるとしよう」


 こうして俺達の連携は上手く行って、ジンジャーブレッドマンクッキーが三枚クマールの手に渡った。


「ヌッマ!」


 クマールが勢いを付けて三枚のジンジャーブレッドマンクッキーをボリボリと平らげて完食する。

 すまないクマール、お前に要らぬ罪を重ねさせてしまった。

 助かった……かなりブラックな食べ物を食べずに済んだ。


「ふむ……クマールが食いしん坊な所為で二人が食べられずになってしまったな。ではもう一度買ってくるか」


 シュタインの顔が青ざめる。

 ルナス! もっと空気を読んでくれ! いや、読めたらこんな謎の攻防は発生しないのか?

 ハッキリと言わないと理解はしてくれない様な気がする。


「いや、大丈夫だよ。他の店に行こうよ」


「そうそう! クッキーよりも別の物を見るべきだろ」


「一体何を焦っているのだ?」


「いや……さっきも言ったけどどう見ても生きてるように見えるクッキーを食べるのはどうかとな」


「なんだそんな事を気にしていたのか? 魔物を捌いて料理するのと大して違わんではないか、クッキー型の魔物だから食べる。そんな感じであろう? な? クマール」


 クマールが自分側だと思うルナスの感性……尊い自己犠牲がこれではどうしようもない。

 勇者だからこその強靱なメンタルと言うのか?

 レンジャーの訓練とかで普段は食べない物を食べる訓練とかあるけど……ある意味、ルナスは俺とは別の真面目に勉学に励んでいるとも言えるかも知れない。

 ……所詮はクッキーではないかって考えか。


「むしろ私としてはそこの店のスープの方が食べ難いと思うのだが?」


 ルナスの指さした大鍋で煮られているスープを確認すると……鍋の中で目玉が浮かんでいる。

 何の目玉かは分からないけど、確かにあっちの方が食べる勇気が要る。

 それに比べたら動くジンジャーブレッドマンクッキー位は屁でも無いか。


「何でゲテモノばかり見てるのかなー……ほら、あっちには普通のパスタ料理の店とかあるじゃないか。なんか妙に太くて白いパスタで、茶色で透明なスープに入っていて棒で摘まんで食べるみたいだけど」


 確かにまだこっちの方が食べられそうな感じだ。


「アレって俺達の世界の方の市場でも見た事あるぞ」


「そうだっけ? とにかくさ、食べ物じゃなくていろんな市場を見ようって話でしょ」


 他にも蒸し料理とか見覚えのあるっぽい料理が並んでいる。


「確かにそうだな。では……おお、妙にカラフルなケーキが売られているぞ。リエル、アレはどうかね?」


 怪しく光るカラフルなケーキが並んでいるケーキショップをルナスが指さしている。

 大丈夫なのか?


「ヌマ」


 クマールがここで腕をクロスさせる。


「ルナス、そこの店はダメだそうだ。毒が混じってるらしい」


「そうか……しかしなぜ毒が混じっているのだ?」


「平気な連中が客にいるんじゃないか?」


「うーむ……実に不思議な場所であるな。わからない事が多い」


「不思議なのはルナスさんだと思うけどね」


 シュタインは冷や汗を流しつつ場に馴染むルナスへと皮肉を言った。


「食べ物は程々に他の店を見よう」


 って事で俺達は食べ物屋から離れて出店を確認する。

 城下町では見ない様なデザインの服が展示されている店に差し掛かる。


「ほう……こちらの世界ではこのような衣服が売られているのだな」


 で、目立つ所に二着のズボンが高額で売り出されている様だ。


「これ、なんで高いんだろ?」


「お客さん、このズボンはな、こうやるもんなんだ」


 と、店員がズボンのポケットからクッキーを取り出して見せる。

 先ほどのクッキーを思い出してしまうけど気にしないようにしよう。

 で、ポケットの中に何も入っていないのを確認するように俺達に見せた後、外からパンパンと叩いてポケットに手を入れるとクッキーが出てきた。

 なんか手品みたいだな。


「こっちが周囲の魔力でクッキーを作るズボンで、あっちが履いた者の生命力を消費するけど金貨を生み出すズボンだ。お客さん、買うか?」


 王宮や錬金術師に土産に持って行ったら小躍りしそうな代物が当たり前の様に売り出されている。

 ただ……漂う危険物な気配。

 クッキーの方は良いとして金貨は身の破滅を招くのが目に見えている。


「ふむ……悪いが興味無いな」


 ルナスがここでお断りの返事をする。


「そりゃ残念」


「時間を取らせてしまったな。すまない」


 と断って足早にその場から離れる。


「結構人の気を惹きそうな商品だったのに誘惑されずにあっさりと引き下がったね」


「私は物語の理解は深いつもりだぞ? あそこまで怪しすぎる品を持ち帰って幸せになりましたがない事くらいは知っている」


 なんともメタい考察な事で……ルナスらしいのかな?

 ただ、誘惑に乗らないのは素直に凄いと思う。

 決断の早さはやっぱり勇者だよなー。

 ……ジンジャーブレッドマンクッキーを購入して平然としていたのは気にしない事にしよう。


「何より、少年も分かっているだろう? 私たちにとって金銭は楽しい冒険で容易く稼げる物で、あのような生命を削ってまで得る物ではない」


「まあねーちょっと楽して稼げるなら良いかもとは思うけど生命力、寿命を代価に支払うんだったら勘弁して欲しいよ。僕、エルフの血が流れてるからみんなより長生きするけどね」


 シュタインの祖母だったかがエルフだもんな……だから年齢の割にシュタインって見た目少年なんだし。

 長生きしても寿命を削ってまで金銭はいらないか。


「贅沢は好きだけど、働かずに稼ぐってああ言うのとは違うよね」


「そうだな」


 楽して稼ぐにしてももっと頭を使えばあんな道具は頼らなくて良い。


「うむ……ふと気付いたのだが、クマールの寿命はどの程度なのだ?」


「ヌマ?」


 俺達の視線がクマールへと集中する。

 確かにそうだな。


「出逢った頃の計算からすると犬型使役魔換算で15から20年くらいな印象だったけど……」


 使役魔の寿命ってLvを上げると伸びると言われている。


「ベアー系の魔物を飼育した資料だと30年以上生きるとの話だな」


 今のクマールのサイズからするとベアー系に該当するが、タヌクマって魔物はどちらでもない。


「タヌクマって魔物がどれくらいの寿命なのかにもよるな」


「なんとなくだけどクマールってもっと長生きしそうだよね」


「サクレスが言ってたタヌクマの伝承にある年老いたタヌクマの話とかがあるもんな。クマールの地元で一番の高齢のタヌクマってどんなんだった?」


「ヌマー……」


 クマールは腕を組んで眉を寄せながら唸るように鳴いた後に答える。

 年老いて居るのは覚えて居るけど年齢は知らない。

 そもそも生贄として大した事を教えられなかったからわかんないと……。


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