192 市場探索
「つまり俺がクマールを使役する事に関しちゃ、何か文句を言われる筋合いは全く無い資格を所持してるって事だな」
王宮にも一応報告はしてあるしな。
生憎、フィフススキルを習得した事に関しちゃ資料提出はまとめている段階だけどさ。
「ヌマ」
「クマールを危険魔物指定にして連行しようとは……」
「連行して何をするつもりだったのか気になる所だね」
「手柄を独り占めとかかね」
「さてね。どちらにしてもリエルが出世したようにクマールも目を付けられ始めたって事だね。力を持つ故の悩みって奴」
「ヌマー……」
クマールが自分の力は俺達の助けになる為にあるって嘆きつつ鳴いてる。
「魔物使いって使役している魔物にスキルで指示する事が出来るって職業なんだけど、リエルはクマール相手に再現出来ちゃってるもんね」
「まあ……念話でな」
今のこうして話をしているし、普段一緒に居るからよく話し合いをする間柄になってしまっている。
ルナス達が居ない所で息の合った連携も出来る様になったしな。
「さっきの奴が念話か、じゃあコイツ等にも念話出来るわけ?」
俺の手から離れてサクレスの肩に乗ったファルコンと、いつの間にか背中にシュタインが乗っているウルフにサクレスは顔を向ける。
「出来るとは思うけど、下手にやって驚いた拍子に混乱させたら大変だろ?」
「ヌマヌマ」
あ、自分が義兄姉に説明します。
ってクマールが挙手してる。それで良いのか?
というか魔物の言語って共通なのだろうか?
「ヌマー」
この町にいる使役魔達の言葉は出来る様になりました。地方や迷宮ではわからない事も多いです。
って……そういうもんか。
念話って伝えたい考えを双方共有する感じだから言語の違いを無視出来るみたいなんだよな。
相手が受け取ろうとしてくれる意思があるなら便利な力だな。
「リエルの事を慕ってるし、お前が一番大切に育てたんだから驚かないと思うけどな」
「クマールが使役魔繋がりで先に事情を説明するって言ってる」
「へー……意思疎通が完璧に出来てるって凄いな。フォーススキルって」
確かに……それは完全に同意だ。
魔法ってもっと直接的な力の行使のはずだけど俺の念魔法は応用の幅がとても広く感じる。
「ヌマヌマ」
「キューイ」
「バウバウ」
クマールの説明に目に見えてファルコンとウルフの目が輝きだした。
「わかったみたいだな……」
サクレスがやや呆れ気味に使役している二匹へため息を漏らし気味に呟く。
「ちょっと妬いちまうよ」
「あー……」
かなり申し訳ない気持ちを抱きつつ俺はファルコンとウルフへと念話を飛ばす。
「キューイ!」
「ワオーン!」
俺の念話を受けてファルコンとウルフが声を上げた。
お久しぶりです。こうして意思をあなたに伝えられるのを嬉しく思います!
って二匹とも答える。
ああ、久しぶりで俺も再会出来て嬉しいよ。サクレスとは仲良くしてくれよ。
俺の返事にファルコンは片翼を上げて敬礼っぽい感じでポーズを取る。
「キュイ!」
はい! 今は苦楽を共にする主人との冒険が何よりも大事な使命でございます!
「バウ!」
何か今の主人が察する事が出来ないこちらの問題があった際に伝えてくだされば幸いです!
機会があったらもっと話をしたい所存です!
って伝えて来る。
うーん……真面目な感じに育ってくれていて助かる。
「ヌマ!」
主人に似たんですよってクマールは言ってる。
「キュイ」
「バウバウ」
弟分にして正式に仕える使役魔であるお前に任せたぞ! 非常に羨ましい限りだ。
「少し話をしたよ。サクレスに仕えるのが大事な使命なんだとさ」
「そうか、コイツ等に誇れるようなレンジャーであり続けないとな」
「サクレスなら出来るだろ。そもそも俺は意思疎通は出来るけど力を引き出す事は出来ないんだ」
使役魔を従えるレンジャーには力を引き出すスキルが存在する。
例えばファルコンの力を解放して高速で目標に体当たりさせるファルコンストライクって技なんかがそれだ。
スキルに内包された技で、魔法とも異なる技だ。
ルナスのレイブレードは魔法と技の両方の側面があるけど系統は近い。
魔力が無くても使える魔法に近い不思議な力が技だ。
念魔法で変則的に意思疎通は出来ても俺はファルコンもウルフも力を解放させて戦わせられない。
こう言った所がなんとなく把握にも似た感じだな。
「そうなるか……」
「ああ、コイツ等は俺よりもサクレス、お前といた方が力を引き出せるのさ」
「そう言って貰えると嬉しいが……」
「僕もウルフの方は力を引き出そうと思えば出来るね。何より、リエルとクマールの力も引き出せるさ」
……それって俺とクマールの体をゾンビ化させた後、狼男にした奴か?
墓守のスキルってそこまで網羅しているのか。
「ヌマ!」
ここで自分が登場です。自分は主人がいるから力を引き出せます!
ってクマールが胸を叩いてなんか誇ってる。
「レンジャーの中にはクマ系の魔物の力を引き出すスキルもあるからサクレスなら出来る可能性はあるが? 文字通り魔物使いも同様にある訳だし」
「リエル、あまり卑屈になることは良くないぞ?」
ルナスが俺とクマールとの間に入ってくる。
「ヌマ」
自分の力と主人の力を合わせる事で希有な程の死んだフリが出来ます。他の魔物使いなど自分は好ましく思いません。
何より、魔物使いという方々は自分を無価値と判断してきました。今更主人以外の元に行く気など無いです。
タヌクマって死んだフリが上手なのが尊敬の基準にあるみたいだから、クマール目線では俺が凄いって事なんだろう。
クマールも今更遅いと言い始めそうだなー。
「ヌッマ」
テヘって感じでクマールが舌を出している。
今更遅いをルナスから学んでしまったって事か。
「随分と賢いみたいだし、あんまりアイツの言った事なんか気にしないで良いと思うぞ。とりあえず俺は戻った事を報告に行くから、またな」
「ああ」
「王宮で顔を合わせる事もあるだろう。その時はよくしてくれ給え」
「じゃあねー」
「ヌマー」
という訳でサクレスはファルコンとウルフと共に俺達と別れて王宮の方へと行ってしまったのだった。
「さて、それでは私達も本来の目的の為、市場を見て楽しんだ後に君の部屋に泊まりに行こうではないか!」
「今夜は楽しく遊ぼー!」
っとなんともテンションの高い二人と一緒に俺達は市場を巡って店を確認して行く。
「そういえばリエル。ハイロイヤルビークイーンから貰った証で妖の世界に行けるんだっけ。機会があったら僕達も行ってみたいんだけど」
「確かにそうだな。市場探索と言うならそこもみるべきでは無いか?」
「わかった。ちょっと待ってくれ」
俺はハイロイヤルビークイーンから貰った証を取り出して妖の世界への入り口がないか確認してみる。
どうも証に表示される月の満ち欠けと特定の場所から入る事が出来るらしいんだけど……。
「月の様子から察するとまだ行けそうになさそうだなー」
少なくとも空間というか入り口が出来る時間が限られている様で針が全く動く様子がない。
「ヌマ」
と、思ったのだけどクマールが証に手をかざすと針が動き出した。
「……」
「ヌマヌマ」
こっちに気配がありますよってお前……。
「どうしたのだ?」
「クマールが何かした影響で道があるのがわかったみたいだ」
「ほう」
「ちょっとわくわくしてくるね。戻ってこれるならついでに行ってみようよ」
良いのか? っと疑問に思いつつクマールが反応させた証が指し示す方角へと俺達は進んで行く。
すると人通りの少ない路地の一角へと入り込んで行き……路地の中にある建物の扉を指し示した。
パッと見た感じだと民家の勝手口って趣の扉だ。
「ヌマー」
クマールが証に魔力を通すと針から光が放たれて扉を照らした。




