188 伝統装備
「ヌマ」
ホイっとクマールが無造作に壺をシュタインに差し出している。
その面倒そうな動作は子供達への対応とはまるで違うな。
「わー使役魔は飼い主に似るって位、心の底から面倒だけど付き合ってくれる時のリエルと同じ態度だー」
そりゃあお前と付き合っていたらこんな態度になるのも当然だと思うけどな。
「スキル構成が同じであるからな。リエルとクマールは似たもの同士なのだろう」
いやー……クマールの方が俺よりも健気で真面目だろうと思うけどなー。
俺を馬鹿にする奴らに対して我が事の様に怒ったりしてるし。
「ヌマヌマ」
自分はともかく主人が馬鹿にされたら不快になります。
ってクマールが答える。
そういう所が健気で真面目なんだと思うんだけどな。
「ヌマー」
主人に似ましたって俺はそんな立派な奴じゃないぞ。
「悪ふざけもこれくらいにして、クマールを売っていた使役魔屋があるか探してみよう。もちろん、ついでに色々と見て回る形でな」
こうして俺達は市場を歩いて行く。
当然のことながら件の使役魔屋を見つける事は無かった。
いつ頃から居ないのか分からないけど、またこの辺りで店を開くかは本当に分からないな。
なんて感じで……露店街を進んで行くとアクセサリーを売っている店に差し掛かる。
アクセサリーかー……
俺は店先にあるアクセサリーを把握で確認しつつ顔を近づけて見る。
「アクセサリー類だね」
そういえばルナスは演劇を見に行く際に色々と付けていたっけ。
よく似合っていたなぁ。
「ルナスはこう言うのどう思う?」
「ふむ……迷宮内で見つけた強力な付与効果のあるアクセサリーがあると良いな。物によっては金に糸目を付けん」
なんか想像していたのとはまるで違う脳筋みたいな返事が来たぞ……。
あの時の着飾っていたルナスは何処へ行った?
豪胆すぎるだろ。
「あはは、ルナスさんってやっぱり残念だね」
「何を言っているのだ?」
「リエルはこういうアクセサリーで着飾るのはどう思ってる? って聞いてたのに、性能重視って答えちゃうんだもん」
「何? そうなのか? リエル」
うーん……ここは素直に頷くべきなのかな?
ルナスの為に否定しておくのが良いのか……。
「世の女性は宝石類とか好きな人が多いけどルナスさんはどうなのかリエルは気にしてるんだと思うよ。男性からプレゼントを貰うけど付き合うかはプレゼントの価値で判断するとか貴族の女性だといるし」
「プレゼントならば貰った段階で感謝すべきであって、中身の価値などより込められた思いの質が大事なのではないか? 着飾るだけなら自分でするなり相手と相談するのが無難であろう」
こういう素直な所はルナスの美徳だよな。
「じゃあこう言った邪悪な感じのファッションアクセサリーを貰ってもルナスさんは平気なの?」
とシュタインがドクロを模した木製の首飾りを指さす。
銀製品のもあるよな。こう言った類いの奴。
「何度も言わせるな。相手を思って贈られた物がしっかりと心が籠っているなら無下にはしないぞ。もちろん、私は相手の善意を踏みにじることは好かないので、好まない相手からの贈与は最初から断るがな」
「じゃあリエルが贈ったら着用するんだ?」
「当然であろう。目立つ様に装備も変えてやろうではないか。このアクセサリーの場合はもう少しガラの悪い感じに着飾る形だな」
いや、そのドクロの首飾り基準でファッションを変えようとしないでくれない?
「で、リエルはどんなのが好みなのだ? 教えてくれれば合わせるぞ」
「いや別に……この前の格好が似合ってるなーと思ってたからアクセサリーの選ぶ基準とかどう判断してるのかって思っただけだよ」
「そうかそうか。私のセンスは良いだろう? 私とて着飾る事に余念はないぞ」
温泉とかでの出来事から考えて恥じらいは人より低い気がするけどな。
シュタインの性別を確認とか平然とするし。
もう少し遠慮してくれ。
「もちろん私自身が似合うだろうと意識した物を着用している。ただ、忘れてはいけないのはあくまでアクセサリーは補助的なモノであってメインではない。無駄に着飾るのは自信の無さを証明する事になるのだ。私の価値は装着したアクセサリーであるとな」
なんか真理を突いているような気がする。
「なので私は自身の顔の良さを引き出す事を意識している。化粧もな」
自信があるからさじ加減が的確なんだろうなぁ……。
納得をするしかない。
「いやールナスさんの意見は参考にすべきな貴族の女性とか沢山いるだろうけど、同時に敵を作りそうだね」
「自分の価値を自ら下げるのは良くない、しっかりと明るく人当たりをよくすれば例え顔が並でも人は好感を抱くと私は信じているぞ」
「その割にルナスは残念だけどな」
明るいとも微妙に異なる腹黒な所あるし、黙っていると美形の女勇者なのになー。
「何を言う。私は明るくて人当たりは良いだろう?」
「明るすぎるのは否定しないし俺は良いと思うけど、人当たりはもう少し加減すべきなんじゃないかとも思う」
こう……前向きというかテンションが高いんだ。
人当たりは……敵と判断した相手への容赦がなさ過ぎなんだ。
マシュアやルセンを相手にした時の態度が如実だ。
身勝手な事を言って激怒をしているけど一応被害者って思い込んでいるあの二人を指さして笑いながらずっと泣いているが良いとか言っちゃう所とか。
俺への対応も遠慮が全く無いから聞いてる方が恥ずかしくなるような事を言うし。
「僕からするとルナスさんって女性とは見えないなー。友達としては楽しいんだけどね」
「ぐぬぬ……ふん。少年にどう思われようと知らんな。私はリエルを魅了出来れば十分なのだ」
だからそういうことを堂々とこんな往来で言っちゃう所が問題だって事に気付いて欲しい。
ルナスの恥じらいは一体何処にあるんだろう。
神様なり親なり、何処かに置き忘れてしまったのは間違い無い。
「さて、リエルを着飾るとして……元々リエル自身の外見は良いと思うのでな。演劇を見に行った時の格好で私は問題無いと思うぞ?」
なんか逆に俺を着飾る方向での話になっている。
まあ、男が着飾るってのはなんか違うのは分かる。
下手に金目のアクセサリーを着用すると成金って感じになる。
「そういえばさ。男女関係なく勇者がよく着用している無駄に大きな宝石を付けたサークレットがあるけど、アレって何なの?」
あ、それは俺も気になってた。
勇者って結構な頻度で付けてるから何かしらの理由があるんだろうと思ってる。
こう……他に頭を守る兜を着けていても、オフの時でも付けてる。
賢者とか魔法使いも着用しているけど別の理由があるのだろうか?
割と独特のデザインなんだよな。勇者が付けるサークレットって。
勇者用の店で売ってる代物だ。
「ああ、アレは何でも過去の勇者が付けていたからなのだそうだ。縁起担ぎみたいな物だな」
「へー」
「なるほどな」
ただの縁起担ぎで実用性は除外なのか。
そういう式典用の装備って多いよな。
「戦闘以外で兜を外した際に勇者だと一目で分かる様にしているのが目的でもある」
「ルナスも持ってるの?」
生憎付けているのは見ないけど。
「見習い卒業時に貰ったが趣味じゃないので付けていないぞ」
「それで良いと思う」
「えー僕はルナスさんのサークレット姿も見て見たい気もするけどなー」
「ヌマー?」
クマールはピンと来ないというか話題に入れず見てるだけだな。
「まあ、当面私は付けるつもりはない。義務でもないのでな」
「公的の試合とかでも付けなくて良いのか」
「当然だ。まあ、時々義務化を推進する勢力が出てくるらしいがな。着用を義務づけられたり廃止されたりを時代によって繰り返している。私達は良い時代に生まれたな」
ルナスにサークレットは……ちょっと似合うか判断に悩むな。
なんだかんだで似合う気もするけどさ。




