185 嫌な二つ名
「よし、リエルの話は大体終わったかね?」
「そうだな。俺の資格問題やクマールの調査はこれくらいかな。より詳細にクマールを調べるなら宮廷魔物使い辺りに調べて貰うのも良いとは思うけど……」
「魔物使いに頼むくらいなら君がまとめても変わらんさ、何せ君は国一番の把握所持者なのだから、クマールの全てを君より知っている者はおらんさ」
「だね。クマールをマメに見ているリエル以上に知る事は無いと僕も思うよ」
「ヌマー」
なんかクマールがルナスとシュタインに煽てられて照れている。
まあ良いか。
「それでルナス、俺とクマールの修練はともかく、そろそろ休暇を終えて次の仕事とかに挑む形になりそうか?」
「ああ、その事なのだがどうも国が幹部を集めて私へ何やら仕事を割り振るそうで待機する事になった。指定依頼が舞い込みそうな所だ」
「これもシュタインが関わって居る感じか?」
「ある意味そうだね。しっかり実績を稼いだし、僕の方の上も後ろ盾はしてくれているよ」
「出来れば迷宮の41階層以降への挑戦をしたい所なのだがな。まだ日数はあるが国主催の宮仕え勇者の祭典、である武道会もある」
宮仕えになった勇者全員が出場する国が主催する大きな大会が存在する。1年に1回ある大会で、その大会目当てに国中の人が集まる。
まだ開催時期は先だけど色々と見据えて行動しないといざって時に出場出来ないなんて事にならないようにしないと行けない。
国が出場要請をした勇者の参加は絶対だもんな。
「ルナスは初登場って事になるんだろうけど意気込みは?」
「当然優勝だ。私が如何に強いかを人々に見せてくれる。もちろん……最強の状態でだぞ」
「……」
「ヌマー」
それってつまり大会の会場で俺とクマールが勇者の怒りの発動範囲内で死んだフリをしなきゃ行けない事になるんだが。
「薬物投与とか事前強化って規約で許可されていたっけ?」
「勇者本人への強化って事なら許可されてるよ。ダメなのは変わり身とか他の味方が試合に乱入する事だね」
結構大雑把なルールなんだな。
俺とクマールが死んだフリをする場所の確保が課題になりそうだ。
「リエルは大変だね。勇者部門はそうだけど仲間も大会があったはずだね。そっちは自由参加だったはずだけど出るのかい?」
「シュタイン、お前は?」
「僕は遠慮させて貰うかなー」
「俺も似たようなもんだな。そこまで目立つ趣味はないし……最強はルナスで良いだろ」
「ふふ……私は最強であるのは譲らんが君達も最強のパーティーであると確信しているぞ」
色々とスキル相性が良いもんな。死んだフリと勇者の怒り、墓守で行けば良いさ。
「ヌマ」
ここでクマールが挙手してルナスを見つめる。
「む? なんだクマール」
「ヌマヌマヌマ」
え? それ俺が言うの?
「俺とクマールが死んだフリをしてルナスを強化するのは良いけど、強化せずとも勝てる相手にまでこの戦法を乱用するのは如何かと……ってクマールは言ってる」
「アレだね。切り札は隠してある的な感じ」
「ははは、私以外分からんだろうさ。どんな時でも私は最強でありたいのだ。必殺技を温存して何になる」
「ヌマー……」
うーん……とクマールは難色を示している。
俺も同意見なんだけどな。
何より風聞とかがあるし……アイツ等、いつも棺桶にいるな? とか指さされるような感じにはなりたくない。
ブロマイドとか作る際にここぞとばかりに二つ名を書かれたりするんだけど、棺桶のリエルとか絶対に避けなければならない。
少なくとも俺は嫌だ。
何にしても武道会はまだ先だからそこまで気にしなくても問題無いか。
「近日中に次の依頼が来るとはなんとももどかしいものだ。せっかく、リエルと同居する家を見繕っている最中だと言うのにな」
そういえばルナスが前に話をしていたっけ。
みんなバラバラに住んでいるけど給金の関係でそろそろ大きな家に引っ越しても良いんじゃないかって感じの話。
「当たり前のようにリエルはクマールと生活してるけど、家の方は大丈夫な感じ?」
「ああ、その辺りはクマールが大人しくて特に問題は無いな。今朝はクマールが家周辺の掃除していたし」
って所で今朝の出来事を思い出した。
クマールがホウキを片手にアパート周辺の掃除をして大家に喜ばれて居たっけ。
当のクマールは自分の体がどれだけの事が出来るのかって確かめるために掃除をして居た訳だけどな。
俺もマメに掃除をする方だから真似してやってたんだけど、体格が大きいクマールがするから早く終わったとか。
「完全に同居人だね」
「ぐぬぬ。ずるいぞクマール。リエルと同居をするのはやはり私だ!」
同居って……まあ、引っ越しのついでに共同生活をするのは今後の生活とかを考えると良いとは思うんだけどな。
「ルナスの趣味が演劇鑑賞なのは知ってるけど、家で何してるんだったっけ?」
家には行く事もあるけど、どうにもルナスって家庭的な面が想像出来ないんだよな。
凜々しいイメージではあるんだけどさ。
武芸者そのままな生活をしてそうというか。
「同居したら掃除洗濯とか家事は全部リエル担当だね」
「ヌマー」
「クマールが掃除をしたがっているから、そこは任せるかな」
洗濯は俺がやるとして……料理は外食で良いと思う。
「少年。お前は来なくて良いぞ。教会の寮にいるが良い」
「えー僕も混ぜてよー教会の寮って面白みが無くてつまらないんだよ」
「俺の家やルナスの家が面白いと思うなよ」
「リエルの家がつまらないのは知ってるよ。めちゃくちゃ整頓されてるだろうし」
わかりきった事を聞くなーって態度のシュタインに激しく文句を言いたい。
そもそも他人の部屋に面白さを求めるのは間違っていると思うぞ。
「そういえば君の部屋に遊びに行くと言っていたな! 今日、遊びに行くぞ!」
「思いついたみたいに俺の部屋に遊びに来られても困るんだけど……」
「良いではないか。それとも何か? ベッドが足りないという気か?」
泊まり確定で乗り込んで来るのか? 町に家があるのに態々俺の部屋に泊まるって……。
「まあ、最近は部屋でもクマールを背もたれに寝る事が増えたからベッドはルナスに開けても良いけど」
「ちょっと待てリエル、君はクマールと一体どんな生活をしているのだね? 場合によっては注意をせねばならんぞ?」
ルナスは何を言っているんだろう?
「ルナスさん。迷宮から帰る途中でリエルってクマールのお腹にもたれ掛って寝てたじゃん。アレを家でやってるだけでしょ。いいなー僕もクマールのお腹に寄りかかったり乗っかって寝てみたいなー。張りがあって寝心地良さそうだよね」
小柄なシュタインは確かにクマールのお腹に乗っても不自然な感じはせずに仲良く寝てる見た目にはなるな。
「ヌマ」
嫌です。っとクマールが珍しくハッキリと拒否する意思を伝えて来たぞ。
シュタインの望みが叶うのは遠そうだ。
「少年、露骨にクマールが顔に皺を寄せているぞ。お腹に触った事をまだ根に持っているようだ」
「あそこまで触り心地が良いのに、ケチだなー」
「市場でたまに会う子供には触らせているけどな」
何やらクマールの基準で触って良い相手と駄目な人が居るっぽい。
触らせる相手の方が少ないのは間違い無い。
「僕と子供とで何が違うのさー」
「少年は確かに見た目少年であるのは否定せんが、きっと少年の邪な気配と魔力からクマールは触らせない様にしているのだろう」
実際はどんな訳なんだろうな?




