184 大妖獣
「なんともタイミングが良いモノだな」
「だね。これでリエルは上級レンジャーにして中級賢者って事だね。で、考古学者でサポーターだっけ」
役職多すぎるだろ、俺。
いや、あれもこれも覚えた結果なんだろうけどさ。
「で、どうするの? レンジャーギルドから抜ける? 別にそれでも問題は無いと思うけどね。あっちもダメ元で認定したんだろうし」
「はぁ……」
ルナスじゃ無いけど周囲の手の平返しがここに来てマジマジと実感出来てしまった気がする。
マシュア達が騒いだ頃は死んだフリが特技の無能な奴だってみんなの目が厳しかったけど、ここに来て上級レンジャーだの中級賢者の資格を得てしまった。
今更遅いとかルナス達はよく言うけどな。
「当初の予定通り、これで依頼報酬の割引はされなくなるだろうし……今はこれで良いんじゃ無いか? 次にレンジャーギルドが俺に危害を加える様だったら抜けるって事で」
「良いと思うよ。上級レンジャーとなると色々と面倒な義務や責任なんかも取らないといけないってなるだろうけど、そこでギルドは強く出られないだろうし権力だけ美味しく頂けるんじゃない? もうリエルは選ぶ立場なんだよ」
良いなーとかシュタインが言ってるけど、あんまり嬉しくないんだからな?
「さて……後はクマールの問題であるな」
俺の資格取得に関する問題が一区切り着いたという事でルナスが話題を切り替えてくる。
「リエル、君が研究者としてクマールに関する資料をまとめて提出するとの話だが経過はどうなっているのだ?」
「ああ、あれから色々とクマールと意思疎通を図って出来る事とか色々とまとめた所だ」
俺はフィフススキルが開花したクマールに関する資料をルナス達に差し出す。
「ヌマー」
「クマールがフィフススキル、大妖獣ポンポコンというスキルが開花したので色々と調べてたのだけど、当然のことながら王宮にはそんなスキルの記載は全く無かった」
ここは大前提の話だな。
「前人未踏のフィフススキルであるからな。王宮の研究者もクマールに関して興味津々であろうな」
「まだ資料を提出してないから目は付けられても詰問はされてない。とりあえず二日の範囲で分かった資料を説明するな?」
「うむ」
「まず大妖獣ポンポコンというスキルなんだが、クマールの様子から見てかなり高位な種族スキルだと思う。何せあれからクマールが前よりも増して二足歩行で知能的に動く様になってしまったからな」
「ヌマ!」
クマールが俺の言葉にどうです? っとばかりに胸を張って誇っている。
まあ良いんだけどな。
「身体能力の向上も確認出来て訓練所で訓練している冒険者を相手に肉弾戦をして貰ったんだけど、身のこなしが目に見えて上がって驚かれたな」
今までも想像より機敏に動いていたけど、より明確に早くなった形だ。
身のこなしが軽く飛び跳ねたりバク宙とか壁を走ったりも試していた。
レンジャー関連で身のこなし系のスキル所持者に似た感じの動きと言うべきか。
バックス講師の配下にいた暗部の連中の速さをより速めた動きを巨漢のクマールが出来る様になっている形だ。
「確かにパッと見た感じほぼ全裸の獣人種と言えなくもない感じだよね。遠い異国のって感じで」
「それは最近、クマールと生活してヒシヒシと感じている事だな。俺はタヌクマ人って異国の獣人を使役魔として購入したのかって思うくらいにはな」
「実際どうなのかね?」
ルナスの問いにクマールが否定とばかりに手を横に振る。
「ヌマヌマ」
「地元だとみんな俺達と出会った頃の自分の大きさで且つ、四足生活が基本で威嚇する時とかに二足で爪を構える程度だってクマールは言ってる」
「そうか……その、言ってはなんだが随分とクマールは私達と意思疎通が簡単にできるのだな」
「ヌマー」
クマールは今度は俺を指さした。
「ああ、リエルのお陰って言いたいのね。念魔法で意思疎通した影響かい?」
「ヌマ」
こくりとクマールは頷く。
「意識での会話が成立するのはリエルの便利なスキルであるな」
確かに、念魔法が開花してからクマールを相手に意思疎通はより出来る様になったもんな。
って所でクマールがスキルスタックを再度俺に施した。
「フォーススキルのスキルスタックも成長して何かしら影響があるのかも知れない。要検証って所だ」
「そうであろうな。ただ、君とクマールはスキル的な相性が実に良いのが特徴であるからな、私も少年もそうであるがな」
「フィフススキルは扱い的にはファーストスキルやセカンドスキル、サードスキルのどの辺りに該当するかまでは分かっているのかい?」
「ここもまだ検証中、ただ……少なくともセカンドスキルやサードスキル相当じゃないとは思う。クマールの魔力の出力が高いのは……シュタイン、お前も分かるだろう?」
「まあね」
俺も魔力が開花してからある程度分かるようになって来たのだけど、クマールからあふれ出る魔力はルナスやシュタインに負けて居ない。
力の使い方がまだ馴れない段階でコレなのだ。しっかりと魔力を高めたらどれだけ出せるか分かったものじゃない。
「少なくともファーストスキル相当って事だね。まあ、本来だったらここまで来れるものじゃないんだろうし」
「ハズレと呼ばれ弱いと判断されるスキルを四つも習得した末の開花だからな……相応しいスキルじゃないと報われないだろう」
「ヌマヌマ……」
正直自分は皆さんに強くして貰っただけの未熟者、苦労はしてないので不相応のスキルだと思います。
って……素直に喜べば良いのにな。
「他に分かったのはクマールにも魔力が宿って居て魔法……に該当する力が行使できる様になった。クマールの話だと妖の世界で購入した巻物で使える魔法が少し使える様になったとの話だな」
「ヌマ」
クマールは葉っぱをここで取り出し魔力を込めて手の上で浮かせて見せる。
ちなみにクマールが魔力を集中させると尻尾の毛が逆立つのは分かって居る。
おそらく魔力の循環器官なんだろう。尻尾の魔力密度が凄かった。
「ほう……どんな魔法なのかね?」
「ヌマ」
「昨日の段階で訓練場で練習して分かった基礎の魔法なんだけど、植物の葉っぱを鋭くさせて目標に突き刺さる攻撃魔法だそうだ」
「植物系の魔法使いが所持するリーフショットみたいなものかな?」
土属性の派生にある魔法であるのが植物系の魔法だ。
「触媒に葉っぱを使うって所では同じかも知れないけど、まだ続きがある」
「ヌマ」
クマールが葉っぱを摘まんでから再度離すと葉っぱが燃え上がり紫色の炎へと変貌する。
「ほう……これまた奇妙な魔法であるな」
「葉っぱを触媒に火を作り出す魔法だね。属性としては光でも火でも無く、かといって闇とも違う……リエルの念魔法とも違う変わった魔法だね」
「クマールの話だと鬼火という魔法らしい」
「後はクマールの同族が使って居た幻覚魔法なんかも使える様になったって所だ。何にしてもクマールも勉強中って感じだな」
補足するとハイロイヤルビークイーンに貰った杖も使う事が出来る様になった。
「ヌマヌマ」
「クマールも着実に戦力となっているという事か」
「とりあえず分かって居るのはこんな所。継続して資料を作っていくさ。後でルナスが稽古を付けてあげたら良いんじゃないかな?」
「ふむ……面白そうだ。私の動きについてこれるか試してやろう!」
「ヌマー」
望むところです! っとクマールはやる気を見せている。




