183 認定書
それから結局解散となった訳だけど二日後に集まって王宮酒場で昼食を取った時の事……。
「はいリエル、王宮経由で届いてたよ」
ポン、っとシュタインが俺に一枚の紙を差し出してきた。
そこにはレンジャーギルド公認の印字とギルド長のサイン付きでこう記されて居た。
リエル=キークファンを上級レンジャーとして認定する。
これからの貴殿の活躍を期待してる。
「これは……」
中級レンジャーじゃ無くて上級レンジャーの認定書だぞこれ。
「僕、超有能! と言いたい所だけど、いやーレンジャーギルドをちょっと小突いたら面白いくらいあっちが反応したんだよね」
どうやらシュタインが何か自身の派閥で暗躍したっぽいな。
試験は中断って事でそのまま帰されて音沙汰が無かったのにいきなりこんな代物を俺に持ってくるってどういうことだよ。
「ここまでの不祥事を起こしちゃった訳だしね。しっかり裏まで握られた手前、リエルに逃げられる位ならこれで許してくれって事じゃない?」
教会所属のシュタインと宮仕え勇者のルナスに見られてしまった訳だしな。
証拠としては十分過ぎる。
「正式に謝罪したいとレンジャーギルドの者から提案があったが、次も似たような事があるかも知れないと保留にしていたのだが、こう出てきたか」
ルナスもここで補足してきた。
俺達のリーダーとして俺自身に危害が無いように守ろうとしてくれていたのか。
「どうする? レンジャーギルドもこの辺りで手打ちにしてほしいって事だと思うよ?」
上級レンジャーと言うのは文字通りの役職のエリートで中級レンジャーの100人に1人なれたら良い方の立場だ。
そんな上級レンジャーとして俺が認められた? 俄には信じがたい状況だ。
そもそも……今回の騒動に対する謝意って事でポンポン許可するものなのか?
「なんか不満そうだね? じゃあもっと強請って特級とかまでもぎ取る?」
「いや……こんな簡単に授けて良いモノなのか? って思ってさ」
仮にも資格だぞ。
能力ではなく、組織の体裁の為に与えて良いんだろうか。
「リエルってやっぱり自分の立場をよくわかってないんだね。ぶっちゃけその上級レンジャーってポジションも宮仕えになってしばらくした段階で取れるモノなんだよ? それだけの実績を既にやってるんだからさ」
「うーん……」
シュタインは相応しい事なんだと説明しているけど今ひとつピンと来ない。
宮使えパーティーのレンジャーなら持っていても不思議じゃないのは事実だけど、俺の場合スキル関連で劣る部分があったからなぁ。
今はルナスとシュタインの影響でかなり強化されているので、強くなった自覚はあるけど。
「そもそもだよ。ルナスさん達とその歳と経験で地方で被害を出したドラゴンを倒した時点で十分に活躍してるわけだし、迷宮の到達階層だって国のトップ帯。そんな人材が下級レンジャーって段階でおかしいんだからさ、今回の主犯が君の申請をもみ消していたのもわかったし」
「うむ。君を無能と最初から決めつけていた者が処分されたのだから当然の結果なのだ」
「ヌマー!」
クマールがおめでとうございます! っと我が事の様に喜んで拍手している。
うーん……これで良いのかなー? 中級レンジャー試験が途中で終わってしまった訳だけど。
「何よりさ、リエル。犯人一味を返り討ちにしたんでしょ? 彼らって暗部でも相当に腕に覚えのある者達なんだ。その連中を一人と一匹で返り討ちにしたんだから妥当な判断だと思うよ」
試験とかするまでもなくね、とシュタインは補足までした。
分類的に連中は上級よりも上位に属するレンジャーや暗殺者なんだとか。
まあ……俺自身も強くはなったなーとは思っているけど、全てルナスとシュタインが迷宮でLvを上げてくれた事に起因する。
フォーススキルが開花した後も大量に迷宮の魔物を倒して回ったな……そういえば。
二人ほどじゃないけど、俺もクマールも強くなって当然か。
スキル構成が大事なのは否定しない。
けどLvも大事である……ってね。
「あ、いたいた。リエルくんだったね。これを見てくれ」
「なんだ?」
ここで城の宮廷魔術師が話をしている俺達の所にやって来て、シュタインの様に一枚の書類を差し出してくる。
リエル=キークファンを中級賢者として認定する。
貴殿の研究と鍛錬で使える魔法の種類が増えた時、上級の許可を約束する事をここに記載する。
と、なんか魔法使いギルドからの認定証が記されていた。
「えっと……」
いきなり何コレ?
というか中級賢者って……確かルセンがやっとコレになったとか自慢してた奴だったはずだよな?
首を傾げながら宮廷魔術師に顔を向ける。
「リエルくん、君がまとめた資料を魔法使いギルドに提出した所、上層部が関心を持ってね。もちろんフォーススキル開花も関わっているだろうけどね」
ルナスやシュタインが提出した方が良いと言うのでまとめたいろんな資料や古文書の解読に関する奴だな。
中にはクマールの成長記録とか迷宮の40階と41階の魔物の生態調査、把握で分かった所を資料にした。
もちろん40階層付近で見つけた魔法系の罠に関する術式を複写した物とか解除方法の考察とか……やったっけ。
「フォーススキルに開花もしているし、この前、模擬試験をさせただろ?」
「あー……」
筆記試験があるって宮廷魔術師が丁寧に俺に模擬試験として書類を渡して書かされたんだよな。
「実はアレは抜き打ちの試験でね。君には多大な知識があることがあの場で評価されていたのだよ」
そんな秘密にしていましたっていきなりここで言われても驚きしか出ないんだが……ほぼ日常というか当然にやって気付かなかったよ。
「最後は実技だったのだけど同日、君が訓練所で魔法の練習をしてる姿を見てもらっていたんだ。使える魔法が国の資料にある初級までしかないのが問題ではあるけど、それでも評価をするのに十分だとこうして中級賢者資格の許可が下りた」
「魔法使いじゃないんだな」
なんでここで賢者なんだろうか?
「リエルくんの使う念魔法には回復魔法なども内包されていて、君が実験で使っていた為だね。何より君の資料には呪いの解除方法が詳細に記載されている。鑑定能力も高い点も加味されているのだと判断するよ」
いろんな魔法が使える可能性が高いのと色々と多芸だからって事で魔法使いギルドが賢者の資格を授けてくれたって事なのか……。
「おめでとう。私も鼻がとても高いよ。是非とも鍛錬を続け、使い手の少ない念魔法に関する資料を国に報告してくれたら嬉しい」
「あ、ありがとうございます」
「後はそうだね……君が連れている使役魔なんだけど、国の訓練場で訓練している者達からの評価が高くなっているね。魔物使いの資質もあるのではないかね?」
えっと……この流れって魔物使いの方からも何かありそうなのか?
「念魔法で意思疎通をしようと思えば出来ますが……」
「なるほど、そこまで明確に会話が出来るのなら使役魔との連携も上手くなるのは当然か。気が向いたら魔物使いの方にも声を掛けると良い」
念魔法の汎用性の高さがここに来て色々と良い方向に働いているって事……なんだろう。
「では失礼させてもらうよ。仲間と楽しい食事を続けてほしい」
そう言って宮廷魔術師は立ち去った。