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18 元仲間達の陰謀

 一方その頃。



「キャアアアアアアアアアッ! 痛い痛い痛いぃいいいい!」


 そんな耳障りな甲高い声を上げたマシュアを見ながら俺は思わずため息を吐いた。

 トラバサミの罠に足を引っかけたらしく、鋭い刃物が足に食い込んでいる。


「お前は何をやっているんだ……」


「ヒール! うるさいわね! ちょっと運が悪かっただけでしょ!」


 俺が罠を解いてやると回復魔法を唱えて傷を塞ぎながらマシュアは怒鳴った。

 はぁ……これだから女は嫌なんだ。

 助けてもらっておいて感謝の一つも無い。

 まるで助けてもらうのが当たり前かの様な態度だ。


「あー! イライラするわ! これもそれもあの男の所為よ!」


 女のヒステリーにはほとほと呆れさせられるが、その意見には同意だった。


 あの小汚い男……リエルは昔から気に入らなかったんだ。

 何か特別な才能がある訳でもない癖にちゃっかりと美味しい所だけはかすめ取っていく意地汚さ。

 俺の周りには、ああいうクズが昔から多かった。


 生まれ持った才能を持ち、賢者である俺に嫉妬する奴は多い。

 これもそれも俺の特別過ぎる才能故の有名税の様なモノだ。

 それに比べてあの男の無能っぷりはなんだ?


 魔力の低さもそうだが、それは俺の様な生まれ持った天才だけが至れる境地だ。

 ならばせめて凡人は凡人らしく、せめて努力して武術でも学べばいいものを、それすら怠っている。

 アイツが宝箱を開ける時の真面目ぶった……様に見えるが、心の奥底では欲望に滾った顔をしているのは明白だ。

 あれを見れば誰もがアイツを嫌いになるだろう。


 賢者の俺を差し置いて古代文字が読める程度で調子に乗っているんだ。

 何が古代文字だ!

 大昔のどこの誰ともわからん胡散臭い輩の残した駄文に何の価値があるんだ。

 我々は今を生きているんだ。


「あの男だけじゃないわ! ルナスったら一体何だってのよ! あの男に不満を持ってないってどういうことよ!」


 マシュアは我々の勇者ルナスへの不満もある様だ。


「何が仲間よ! あんな無能、仲間だった事は一度も無いわよ!」


 当然、俺もそう思っている。

 だが、賢者である俺の知恵を持ってすれば、凡その予想は出来ていた。 


 勇者と言えどルナスも女。

 小娘もいい所だ。

 世の中の事を全く理解出来ず、くだらない感情を抱いてしまったのだろう。

 そう、あの男リエルは小娘の安っぽい恋心を食い物にしていたのだ。


 クソ! だからああいう輩は嫌いなんだ。

 きっと言葉巧みにルナスに近寄り、適当な言葉を並びたてたのだろう。

 でなければあのヒステリーは説明出来ない。

 ああいう風に女が叫ぶ時は大体感情が優先で男が関わっていると相場が決まっているんだ。


 女と来ればすぐにチャラチャラと言いよるリエルも軽蔑するが、そんな輩に簡単に引っかかるルナスにも同様の汚らしさを覚える。

 まったくこの俺が狙っていたというのに……とんだ尻の軽い勇者だ。

 これだから頭の悪い連中は嫌なんだ。


 だが、それでもルナスは勇者だ。

 あの女の戦闘力は侮れない。

 賢者である俺の知恵があったからとはいえ、これまでやってこれた実力は本物だ。

 だからこそリエルの様な小狡い奴を招き寄せてしまうのだが……。

 とはいえ、俺ほどの知恵と英知を持った天才賢者であれば、奴の力の正体を導き出す事など容易い。


「まあ聞けマシュア。あの女の強さの秘密を教えてやろう」


「なによ? くだらない事を言ったら天罰が降り注ぐわよ?」


 ふん、何が天罰だ。

 まるで自分が神の代弁者の様な傲慢な面だな。


「勇者ルナスのファーストスキルについてだ」


「……聞かせなさい」


「ああ、あの女のスキルは底力覚醒かスロースタートのどちらかだ」


 ルナスは確かに優秀な勇者だが、その力が十全に発揮されるには時間が掛かる。

 戦いが長引き、我々が消耗し、危機的状況になり、リエルが死んだフリで棺桶に入って現実逃避を始めた頃、底に眠る力が発揮されるのだろう。

 その力が他の者よりも遥かに高いが故に、これまで多くの困難を辛うじてなんとか出来た。

 これが勇者ルナスが今までなんとかやってこれた理由だ。


「確かに完全状態になったルナスを相手にするのはこの俺でも厳しいかもしれん。だが、種がわかってしまえば簡単だ」


「なるほどね。短期決戦で一気に潰しちゃえば良いって訳ね」


 そうだ。

 時間を掛けずにこちらの最大戦力で攻撃すれば、あんな女、ただの小娘と変わらない。


「フヒヒ……やはり最後に笑うのはここの優れる者という事だ」


 そう言って俺は頭を指さした。

 筋肉が頭に詰まった愚かな戦士や薄汚いレンジャー共にはわからんだろうが、結局は知恵のある者が勝つという事だ。

 子供騙しな昔話の原典ではよくある事だろう。

 勇者という存在は利用価値が無くなったら権力者……知恵ある者……賢者に消される運命にあるのだ。


 作戦は着実に動いている。

 多少計画にズレは生じたが、天才賢者の俺が立てた作戦だ。

 この程度、不測の事態でもなんでもないという事だな。


 リエル、ルナス……俺達に逆らった当然の報いを受けてもらうぞ。


「では、合流地点に急ぐと――グギャアアア! 腕が、腕ガァああああ!?」


 突如壁から針が飛び出して来て、俺の腕に刺さった。


 なんて痛みだ!

 焼ける様に痛い!

 クソ! 針が貫通している!


「何やってんのよ! それで賢者とかお笑いぐさじゃない!」


 ヒス女がこれ幸いに恩着せがましく傷を治す。

 遅いんだよ! もっと迅速に治せ!

 まったく! これだからクズ共のお守りは嫌なんだ!


「うるさい! たまたまだ! こんなミス今までしてないだろ! 偶然だ!」


「つーか自分で治しなさいよ! 私ほどじゃないにしてもアンタも回復魔法使えるでしょ」


「魔物に遭遇した際に戦えるようにパーティー全体の魔力総量を図るのも賢者の勤めだろ! 回復はお前の役目だ! お前はそれしか取り柄が無いだろうが!」


「なんですって! ならさっさと自分で治す事ね」


 くそ! リエルの奴め!

 あの貧乏神が俺達の運を下げているんだ!

 この屈辱、絶対に忘れん!

 必ず同じ目に遭わせてやる!


「良いからさっさと行くわよ。合流地点まで後少しなんだしね」


「くそおおおおお!」


 我々は次の作戦の為に移動を開始した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] よくこんな連中と今までやってきたな?
[良い点] 「フヒヒ……やはり最後に笑うのはここの優れる者という事だ」 このセリフ好きですフヒヒ……
[一言] 一つだけ言うと、自分の事を天才賢者って言うけど、あんたは出来損ないの賢者なんだよ? リエル『が』居たから、今まで何とかなっていたし、勇者のスキルを全く関係ない物と考えている。 実際は、リ…
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