177 第二試験
「来たか」
試験官の所に行くと既に6人ほどたどり着いていた。
開けるのは早かったと思ったんだけど妙な連中に絡まれている間に先に行かれてしまった……。
「……」
「なんだ? ちゃんと待機しているんだぞ」
横取りも結果的にOKって試験なんだろうって位は想像するのは容易いか……それでレンジャーとして正しいのか疑問ではあるけど。
「じゃあお前達はバッチを胸につけてこの先の通路を進んで行くように、この先は無数に道が枝分かれした迷路のようになっているが出口は一つだ」
「出口は一つ?」
「ああ、この先には無数の罠が幾重にも張り巡らされていて、魔物も解き放ってある。その中をお前達には進んで貰う」
今度は迷宮の模擬試験って事か?
「その出口に……お前達の持っているバッチを二つ持って来い。そのバッチは一次試験を突破した者が持って居る。後は分かるな?」
……奪って出口に来いって事か。
問題はこの先の迷路がどれくらいの規模があって出口が何処にあるのかわからないという所か。
早めに他の受験生からバッチを奪うのは良いけど、出口を見つけるまで気を抜けないぞ。
しかし……血の気の多い試験だな。
実力主義って事なんだろうけど生死を問わない内容が多すぎる。
ただ……出口にたどり着く前にバッチを奪われたとしても誰かからバッチを二個奪えば良いって事でもあるからやり方次第って事なんだろう。
俺の後にも受験生は増えていたから……第三試験でどれだけふるい落とすかだな。
「一人出発してから3分後に次の者が行け!」
って事で第二試験は始まった。
俺達は通路を進んで行き……先に行った奴を追いかけるのも良いけど、他の受験生も然る者……痕跡を消しながら進むスキル等もあるので追跡系の技能が無いと厳しいだろう。
しかも通路内には無数に罠があるから解除もしていかないと罠を解除している所で追跡者に追いつかれて交戦なんて事になりかねない。
罠を逆に利用して行くくらいもして行かないとダメか。
俺とクマールは把握を張り巡らせて周囲の情報を拾う。
……当然のことながら罠が多いな。
他の受験生を奇襲してバッチを奪う……か、あんまり好ましい方法じゃ無いけど試験突破に必要な事なのだからやるしかない。
武器はハイロイヤルビークイーンから貰った石弓で、麻痺毒の針モードで戦えば良いか。
どちらにしても早めに出口を見つけないとな。
この試験……どれだけ時間が掛かるか分からないが……。
「うーん……俺もシュタインみたいな潜伏系のスキルがあれば奇襲とか受けずに楽に移動出来るんだけどな」
「ヌマ……」
生憎と俺とクマールが出来るのは気配や痕跡をできる限り消す工夫くらいなもんで、事、隠れるとかになると途端に難しくなる。
息を殺すって意味だと死んだフリを行えば気配を消すって事は出来るけど、同時にまともに動けなくなる。
隠れながら移動とかが出来ないのが難点だなぁ。
ま……死んだフリからの奇襲はやれば出来るから手立てとして考えよう。
「クマール。出口はどっちだと思う?」
「ヌマ? ヌマー」
わかりません、ですが移動して見つければ良いと思います。
「そうだな……風が流れる先が出口って考えもあるけど……ここはどうも使えないみたいでな」
下水道を使って作られた迷宮だからなのか、それとも仕掛けが施されているのか換気用の小さな穴があって、そこから空気の入れ替えがされているのだ。
何にしても追っては返り討ちに、出口を見つけて試験を突破しなきゃな。
なんて思いながら進んで居ると……把握でこっちに近づいてくる気配がドンドン増えてくる。
第二試験が始まった時から隠れている奴がいたんだけど、それが増えているのは一体何なんだ?
とりあえず戦いやすそうな罠の少ないやや開けた小部屋みたいな所まで来て俺は振り返る。
「隠れているのはわかっている。俺達に用があるなら出てこい。殺気が漏れっぱなしだぞ」
「ヌマ! ヌマァ!」
気配の主連中に警告の声を掛ける。
が、気配のする連中は俺の声を無視して姿を現す事無く徐々に距離を詰めてくる。
「バレてない、ハッタリだと思って自惚れてるみたいだな。お前達がそんな態度ならこっちにだってやる事がある」
俺は石弓で威嚇射撃を気配の主目掛けて放つ。
すると気配の主は驚いた様な動きをした後、急激に動いて回避し潜伏をやめて姿を現す。
「馬鹿な……お前如きがこの私の潜伏を見抜くだと!」
そこに現われたのは……完全武装をしている見知った相手だった。
同時に俺は眉を寄せる。
何せその相手というのは俺が見習いの頃に講師をしていたバックス講師だったのだ。
このバックス講師、俺のスキル構成がハズレである事からなのかまともにレンジャーとして必要な事を教えてくれる事は無かった。
優秀な生徒には熱心に教えて居る姿を目にはするのだけどスキルが少しでも劣っている生徒にはまともに話をせず、座学の朗読くらいしかしない。
見習い時代の鍵開けの試験で俺が努力して講師が熱心に育てている生徒より先に箱を開けたら「鍵穴が不良品だったんだ。調子に乗るな」と追試を言い渡したっけ。
思えばとにかく俺を下に見ていた人だったな。
そんな人がこんな所で何をしているんだ?
「ありえん! 運が良いだけに過ぎん癖に……」
「……試験の監視をしている試験官でもしてるのか?」
いやだなぁ……この人が試験官をしてるって事は間違い無く俺を不合格とかにするだろ。
それにしたって周囲に妙な気配の連中が何人も潜んでるな。
「なんか否定してるけど気配はしっかりと把握してるぞ。バックス講師。俺に何のようです?」
「ふん。何のようだと? 貴様、私がここに居る事がどういう意味だと思って居るのだ?」
「ん? そりゃあ中級レンジャー試験だから何かあるって事なんじゃ無いか?」
こう……抜き打ちの試験内容みたいな奴だ。そんな試験があっても何の不思議も無い。
「フフフ……フハハハハハ! まだ貴様はそんな事を言っているのか! お気楽な頭をして居る!」
まともに話をするのは数えるくらいしか無いけど不愉快な態度の人だな……。
って所でバックス講師が何か合図を指でした直後、素早く俺の後方から駆け寄って来る気配を察知。
俺は素早く背中に石弓を構えて引き金を引く。
バシュッと高速で針が射出されて接近してくる相手に命中した。
「ぐーー」
振り返ると黒装束を着用した……迷宮の悪霊で見るようなアサシンが倒れていた。
「何!? そんな馬鹿な……ありえん。あってはならん! リエル! 貴様如きがそんな事をしでかしてはならんというのがわからんのか!」
「だから何なんだって言ってるんだ」
俺は痺れて動けないアサシンを踏みつけてバッチを持って居るか把握を行うのだけど……コイツ、バッチを持って居ない。
少なくとも受験生の中で見覚えが無い奴だ。
しかも持っている短剣が随分と切れ味が鋭いし、ご丁寧に猛毒まで塗ってある。
気配を把握出来ていなかったら何をするつもりだったんだ?
バックス講師も態度がおかしいし、試験って事では無いようだ。
「ぐぬぬ……そんなに知りたいのなら教えてやろう!」
なんか嫌な空気を纏いながらバックス講師は殺気を放ちつつ答える。
「もう私の怒りも限度を超えたという事だ! リエル! お前はここで殺す!」
ぞろぞろと周囲に沢山の隠れた奴の気配が囲ってくる。
殺害宣言? 一体何なんだ? 試験……じゃないって事なんだよな?
わからない。
実は抜き打ちでコレが中級レンジャー試験なんだと後で言われても納得してしまう演技にも見えてしまうぞ。
「ハッキリ言ってやろう。無能なお前は調子に乗りすぎたのだ。お前は私たちエリートレンジャーの顔に泥を塗るレンジャーの恥さらしだ。お前如きが宮仕え等と言う一流に名を連ねる事自体が罪! 私の教え子より出世をする、その行為がどれだけ罪深いのかわからないのが愚かなのだ!」




