174 試験勉強
「私と別れた後にそのような事が起こっていたとは……大丈夫だったのかね?」
「特に大きな問題は無かったな」
「結構凄い経験してるんじゃない? 僕も素直に驚く所だよ」
確かにな……文字通りおとぎ話のような出来事に遭遇してしまった訳だし。
ハイロイヤルビークイーンから貰った証を取り出してルナス達に見せる。
「それで、この道具の処遇をどうしようかと思ってさ。俺達しか使えないって話だろ?」
「王宮への献上品としての効果は無いに等しいね。報告をするにしてもややこしい事になりそうだし……ここは僕たちだからこその優位性は維持すべきだと思うな」
「私も同意見だ。しかし……この城下町にも実質ハイロイヤルビー達の店があるという事でもあるのだな」
「上手いこと、そっちの世界の品を持って帰って交易するとかが無難な使い道だね。いやぁ……あの時はこんな事が出来る様になるなんて夢にも思わなかったよ」
厄介事に巻き込まれそうな品なんで出来れば避けたいんだがな。
「あっちの世界でコレを無くしたら戻って来れなくなりそうだから怖いな」
「そこは十分気をつければ良いんじゃ無い? 今度僕たちも行ってみれば良いでしょ。ふふ、役得だね。持ってるお金で買える物を買って行こうかな」
「物語とかだと痛い目を見る話が多いから十分に気をつけた方が良いと思うがな」
適度に使わせて貰う程度が適切って気がする。
「ヌマヌマ」
ん? あっちの世界にも冒険者とか居て依頼とかあるかも?
そうかもしれないな。
「とにかくこう言った変わった道具も迷宮で得られるって事なんだって報告だ」
「うむ。今度機会があったら私たちも一緒に行こうではないか。ふふ……私たちしか出来ない事が増えて楽しいな」
まあ、確かに他の冒険者が味わえない出来事を俺は経験しているんだな。
出世と金銭しか求めていない冒険者よりも……あの出来事を楽しんだ方が冒険者らしいか。
レンジャーを名乗るサポーターだった頃に比べたら大きな進歩だ。
今はレンジャーを名乗る魔法使い兼、考古学者って事になるのか?
……ちょっと肩書きが増えて嬉しい気もする。芸は身を助けるのは本当だなぁ。
サポーターとしての仕事は変わらずしているけどさ。
「今度は僕たちも一緒だよ」
「ああ、中級レンジャー試験を終えたらみんなでまた行ってみよう」
「絶対だぞ。ふふ……未知に挑む好奇心が疼くな。迷宮以外にも謎に迫れるぞ」
「楽しみにしてるね」
なんて感じにルナス達への報告を終えた。
「ヌマ」
中級レンジャー試験までの日程内でクマールと王宮の訓練場で模擬戦闘を行う。
ルナス達との冒険ではもはや死んだフリ要員で大した事はして居ないけど俺とクマールで出来る連携なんかも覚えないといざという時に足を引っ張りかねない。
二本足で立ち上がったクマールとの打ち合いなんかをするのだけど、クマールが訓練場で見ていた兵士達や冒険者の動きを把握で舐めるように確認していたからかかなり動きを模倣出来る様になっていて、肉弾戦の動きが舌を巻くほどだ。
あ、爪とかは出さないで戦っているぞ。
俺も訓練用の木工短剣と模擬専用の殺傷力の無い矢とクロスボウを使って居る。
「おー……中々アイツら良い動きするじゃねえか」
「だな」
と、訓練場での模擬戦闘を兵士達や宮仕え冒険者の戦士とかが感心したように声を出している。
「こういう時はこんな感じで動くのが良くてな?」
「ヌマ!」
そうして模擬戦闘の合間の休憩で兵士達が肉弾戦を主体に動くクマールに助言をしている。
コクコクと言われた事を素直に頷き、動きを真似するクマールに訓練をして居るみんなは悪い気がしないようだ。
「ちゃんとしたスキルが無いのが惜しいがスキル無しでこれだけ出来りゃ十分だな」
「これでスキル構成がハズレなのが惜しい奴だな……」
「ヌマー」
と言った感じでクマールは……なんか俺よりも他の冒険者達と打ち解けてしまっているような気がする。
こんな感じで中級レンジャー試験に備えた訓練を魔法と併用しながら行っている内に数日ほど経過した。
「よし、じゃあそろそろ行くぞ」
「ヌマ!」
俺とクマールは荷物をまとめて中級レンジャー試験の会場を目指して出発する事にした。
中級レンジャー試験は指定された場所に行って、更にそこから移動をするらしい。
試験内容は多岐に渡るし一次試験二次試験と続いていくんだとか……あらかじめ傾向と対策が立てづらい。
死人も出る危険な試験だな。
ただ、過去に中級試験を受けたレンジャーの記した書物とか、王宮内のレンジャーからある程度、試験の経験を聞くことは出来た。
過去の事例だと迷宮の一定階層まで潜って、特定の魔物を倒すとか、国内の危険区域を通り抜けるとかが多い。
その場で班分けされて任務を言い渡されたりして連携なんかも問われるなんかもある。
単純に生徒同士で与えられたアイテムの奪い合いでのポイント戦なんかもあるとか……。
準備を幾らしても上手く突破出来るか分からないって話だ。
今になって不安になってきた……。
けど……俺はルナスとシュタインの顔を思い出す。
うん。コレまでの冒険で宮仕えになった冒険者に肩を並べられる程のLvは稼いだんだ。
きっとやり遂げられる。
何せ俺だけじゃないんだ。ルナス達は参加出来ないけどクマールが居る。
「ヌマ!」
やり遂げましょう! っとクマールが俺に活を入れてくるので頷く。
「よし出発だ」
と、俺は中級レンジャー試験の案内状に記された地図を片手に城下町から出る。
「ヌマ」
クマールが俺の前に回り込んで伏せの姿勢で乗るように提案してくる。
今のクマールなら背中に乗ることも出来るか。
下手な馬車に乗るより小回りが効いて楽に移動できるか……俺もクマールも積載軽減持ってるし。
「じゃあ、乗せて貰うか」
俺はクマールの背中にまたがって乗せて貰う。
「ヌマー!」
行くぞー! っとクマールは鳴いて走り始める。
その歩調は軽く、想定よりも早い行程で地図に記された町へとたどり着いた。
ルナス達の居ない旅だったけど、道中は順調……というか特に何か問題も無く行けたな。
魔物とかも把握で確認して接近される前に倒して行ったし……本当、俺達は強くなったと成長を実感するばかりだ。
クマールから降りて地図を確認。
えっと、地図にある酒場に入って店主に合い言葉を言うのか。
「ヌマヌマ」
トントンと、クマールが地図を見ていた俺の肩を叩く。
「なんだ?」
「ヌマー」
クマールとの念話から俺は把握範囲を広げる。
するとやや離れた所で俺達の様子を覗き見ているルナスとシュタインを捕捉した。
「おいおい……」
二人して隠れ切れているつもりのようだけどルナスは元々隠れるスキルを持って居ない。町の雑踏に紛れて誤魔化そうとしているけど把握対象を絞るとあっさりと確認出来るぞ。
で、シュタインの方はご丁寧に隠密のスキルで隠れているけれど、クマールの把握はファーストスキル相当で、俺もスキルスタックのお陰で感知出来る様になってしまっている。
習熟した差って奴だ。しかもルナス達によって強化して貰った俺達な訳で……シュタインの気配も俺は分かるようになったんだなー。
ただ、シュタインの隠密も中々の物だから他の冒険者じゃ見抜けないと思いたい。
じーっと……俺とクマールはルナスとシュタインがいる方向を凝視し続ける。
「おい少年。気付かれているのではないか?」
「間違い無いね。あの顔は僕達がいるのわかってるよ」
ため息を吐きながら俺達はルナス達の方へと向かう。