173 試験参加報告
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「ほう……中級レンジャー試験かね」
「リエルってまだ下級レンジャーだったんだね。宮仕えになった所で中級に嫌でもなってそうだけど」
王宮の訓練場で訓練しながらルナスが来るのを待っていたら運良くシュタインもやってきたので酒場へ移動して話をする。
「申請したけどお祈り手紙が来てたんだよ。それがここに来てな。しかも試験受けろって催促と試験参加の許可状が一緒に来てさ」
「ここに来てレンジャーギルドが目を白黒させて居るんじゃない? レンジャーギルドからしたら無能だって判断していたリエルが宮仕え冒険者として頭角を現している訳だし」
「シュタイン。お前が何かやらかしたんじゃないのか?」
「そっちはまだ水面下に動いている段階でレンジャーギルドの方には漏れているはずないよ」
犯人はシュタインかと思ったけどどうやら違うようだ。
仮に漏れていたとしても動きが早過ぎる気もするしな。
「単純に私達が迷宮の41階層まで行った実績からの判断ではないかね? しかもリエルはフォーススキルが開花したという確かな証拠まで提示しているのだ。なのでここに来てすり寄りをして来ているのだ。今更遅いがな!」
「題して、『無能だと思って認められなかった下級レンジャーが才能を開花! 評価してきたけど今更遅い! 俺は魔法使いになります!』だね!」
本当、ルナス達は今更遅いと言うのが好きだな。
マシュア達に言ったのがそんなに気に入ったのだろうか?
「ヌマ」
クマールはどう思う?
「ヌマ!」
主人が評価されるととても嬉しいです!
うーん……ルナス達の返事よりもクマールの考えの方が俺も良いな。
「で、どうするの? 中級レンジャー試験」
「そこなんだよな……単純にルナス達の仕事の補佐をするって意味なら昇級試験を受けないって手はあるんだけど不参加だとそれはそれで罰則があってな」
参加許可がされたのに不参加した場合、罰金が科されるのは元より冒険者の経歴に傷が付く。
最悪だとギルドからの指示で冒険者からの追放なんて事にもなりかねない。
まあそれは余程の場合だけどさ。
調べたら参加出来ない程のやばい理由があるとかな。
「あちらが不許可をしていたのに今更送ってきて不参加は罰とは舐めきっていないか?」
「確かにそうだね。挙げ句、フォーススキルが開花した魔法使いに転向出来る人材に向かってすること?」
ルナスとシュタインの言い分はもっともだ。
「たぶん、不参加でも罰則は科されないとは思っているけどな。前にルナスが言ってただろ? 他の宮仕え勇者に俺をネタに嫌みを言われたって」
「確かに言ったが……」
俺達のパーティー内だと資格的な立場でクマールを除くと俺が一番下で、ルナスとシュタインと釣り合っていない。
「冒険者の雇用だとパーティーの資格で報酬に差が開くだろ? 現にこの前の依頼の報酬とか……」
「それは……」
ルナスが言葉に迷うように視線を泳がせる。
俺達の最高深度が41階の実績のあるパーティーだけど依頼の報酬金額に俺の資格から割引が掛かっている。
ルナスはそれを承知で引き受けた。
シュタインは依頼の後で加入したので当初の金額からの割り振りとなる。
41階層で持ち帰った品々は付加価値で大きく黒字になったに過ぎない。
今後ルナスが出世して報酬金額が上がっても俺のマイナス分が足を引っ張る。
「それこそ魔法使いギルドに転向すれば良いだけだと僕は思うけど?」
「両方を持てば文句も言われないだろ? 宮仕え勇者の隙を消せる」
ここはスキル構成で取得出来る資格が多ければそれだけ報酬の交渉に踏み込める。
「リエルが希有なスキル所持だって国は評価するから問題無いとは思うけど……僕と同じく表立っては説明し辛いもんね。政治的にも黙っているべきだし」
「両方持っていれば箔が付くってね」
ここは欲深く両方の資格を持っているのが良いと言う結論に至った。
「正式に魔法が使えるレンジャーであればそれだけルナスやシュタインをサポート出来るだろ?」
「今でも十分助かっているがな」
「そうそう」
「だが、君がそうしたいというのなら私は応援するとしよう。存分に君がやりたいようにしてくれ、何せ影のリーダーは君なのだからな」
最後の台詞は気にしない事にしてルナスもシュタインも反対するってつもりは無いようだ。
「ところでその中級試験は何処でやるのかね?」
「僕達も手伝いとか出来る?」
「レンジャー試験に仲間の同行は許可されてないんだよな……」
仲間の力に頼って試験を突破出来てもしっかりとした実力があるとは評価されないって事なんだろう。
あくまで個人の力が求められるのだ。
「そうか……レンジャーとは大変なのだな」
「プリーストとは随分と違うね」
「例外というかレンジャーは使役魔を使って戦うスタイルがあるからクマールは参加させられるんだけどな」
レンジャーはファルコンやウルフを使役して攻撃したりする。
俺の場合だってクマールが敵を引きつけて戦う事が出来るだろう。
「ヌマ!」
お任せ下さい! 主人達から授かった力とこの体で戦って見せます! っとクマールは胸を叩いて鳴く。
……最近ますます人間っぽい動作が板に付いてきたなお前。
今日は訓練場で他の冒険者の組み手相手を俺に頼んで買って出ていた。
俺とも戦闘訓練をして居たし。
何も魔法だけが俺の訓練じゃない。
日に日にクマールの身のこなしが良くなっているのは間違い無い。
体は大きいけどな。
迷宮で得たLvの力で易々とやられる事は無いはずだ。
「何より、ルナス達によって上げて貰った力で中級試験も乗り越えて見せるさ」
「うむ……少々不安であるがわかった」
「僕達が何かしなきゃいけないって事じゃないみたいだし、素直に見送るだけって事だね」
「少年は隠密持ちなのだからリエルと同様に資格を得てはどうだね?」
「え? 嫌だよ面倒臭い。僕は十分な役職を持ってるから良いの」
シュタインの奴……俺の苦労を面倒って。
教会のエリートだからこそなんだろうな……まあ、ここは人それぞれだな。
「リエルの場合、魔法使いの試験はすぐにクリア出来そうだよね」
「古文書が読めるのは元より博識であるからな」
「そっちはこれからがんばれば良いって思うんだ。単純な魔力は高いって色々と教えてくれる宮廷魔術師がお墨付きをくれたからな。とにかく、中級試験を受けるって報告だ」
「承知した。まだ休暇期間であるので存分に試験に挑んで来い。私たちは君が合格してくるのを待っているぞ」
「さすがにレンジャーギルドもすり寄ってくるよね。形骸的な試験になると思うなー」
「そうだと良いな」
それもどうなんだ? って思いはする。
ただ、ちょっとくらい性格悪い方向で考えても悪くはないだろう。
「どちらにしても少年、リエルの中級試験を覗きに行くように画策するぞ」
「本人の目の前で言うなよ」
ルナスらしいとは思うけど、中級試験を覗きに来るとか……程々にしてほしいもんだなぁ。
そんな訳でルナス達に事情を説明して俺はクマールと一緒にレンジャーの中級試験を受けに出かける事になったのだった。
「後は……」
俺はルナス達にハイロイヤルビークイーンから貰った証で別の世界に行ける事を説明した。




