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166 演劇


 中級レンジャー試験か。

 まあ所持スキル構成から昇級を認めないのだと思うのにそんな時間は掛からなかった。

 何せルナスが宮仕えになった所で申請しても数日後にお祈り手紙が来たからな。

 ちなみに上級レンジャー試験は挑戦して生きて帰ってきたら、落ちても優秀だって言われる位の難関だ。

 中級にすらなれない俺からしたらどれだけ難しいのか到底想像出来ない。


 まあ……上級レンジャーともなると宮仕え冒険者なら珍しくないんだけどさ。

 ドラーク一行に所属していたレンジャーも上級だっただろう。

 ルナスが秒殺しちゃったけど。


「完全に寄生しているだけだってレンジャーギルドは俺を評価しているんだろうな」


「今の君なら単独でデビルグリフィンすら時間は掛かるが倒せるだろう。それなのに評価されないのはどうなんだね!」


 死んだフリでルナス達を強化しているって秘密を広めるのはそれはそれで厄介であるし、問題とすべきでは無いのは分かっている。

 それでも頑張っているのに最初から俺の努力を見てすらいないのは悲しいものだ。

 デビルグリフィンか……針刺しみたいに針塗れにした記憶が新しい。

 一応グリフィン系の上位モンスターで本来は倒すのは難しいんだ。

 そうは言っても強い魔物を倒す事だけがレンジャーの仕事ではないからな……色々あるんだろう。


「酷い奴らだ! どれだけ君が優秀であるのかまるでわかっておらんな。少年も君のレンジャーとしての技能を高く評価していたではないか。世界中にマシュアやルセンが溢れていて腹立ちが収まらんぞ」


「まあ……さすがにフォーススキルが開花したレンジャーとなれば無視も出来なくなったとは思うけどな」


 手の平を返してくる展開を心の何処かで期待している自分がいて、やや恥ずかしい。


「ヌマ?」


 あ、クマールが俺達が話をしている事に気付いた。

 念話を送ると……。


「ヌマ!」


 主人はとても優秀な方です! 自分はとてもあのように罠の解除は出来ませんし、奇襲は出来ないです! って伝えてくる。

 健気だなぁ……ルナスやシュタインも褒めてくれているけどさ。


「そういえばそろそろ中級の昇級試験が行われる時期だな」


 試験申請が落ちてるから何処で行われるのかすら知らない。


「次の募集期間に申請書を送っておくよ。ルナス、悪かったな」


「君が気にする事ではないさ。腹は立つが私達の関係は変わらないのでな」


 次に申請した際に中級レンジャーの資格は取っておきたいな。


「まあ……念魔法の資料を宮廷魔術師に頼んだらフォーススキル開花を理由に魔法使いの資格を手配してくれるみたいだけどさ」


 評価的にはこっちで通した方が手続きとしては簡単かも知れない。

 転向したって感じで。


「だからある程度は問題無いさ。しっかりと念魔法を習得して見せるさ。かなり希少なスキルだから指摘もしづらいだろう」


「そうか……できる限り早く奴らの認識が改善される事を願うほかない。迷宮でこちらに刃を向けたら迷わず報いを受けさせてやるがな」


 ふふふとルナスが不敵な笑みをしている。


「謀殺する側にはなるなよ? ドラークと同じになるからな?」


「わかっている。勇者とは高潔であらねばならぬのだ」


 どの口が言うんだ? って思う所もあるけど、確かにルナスは高潔さはあるもんな。

 勇者の怒り中毒ではあるけど。

 無くても雄々しい所はあるし。


「それでだな……リエル。前に約束した演劇を見に行く話はどうかね?」


「ん?」


 ちょっと恥ずかしそうにルナスが俺に確認してくる。


「見たい演目あったのか?」


「ああ。君が良ければ見に行きたい所なのだが良いかね?」


 魔法の練習が面白い所ではあるけど、ルナスとの約束だったし気分転換に良いか。


「良いよ。じゃあ、いつ頃行く?」


「夜に劇場で開かれる演目でな。今夜を逃すと次は三日後の夜だな。君はどっちに行きたい?」


「ルナスさえ良ければ今晩が良いかな。ただすぐに決めて良いのか? 人気の演目ならチケットとか取るのが大変だろう?」


「そこはまあ、私だからこそ出来るツテがあるのだ」


 なんか常連のルナス独自のコネクションがあるっぽいな。

 そもそも宮仕えの勇者だし、権力を駆使すれば多少融通は利くか。


「とにかく、今夜であるな。では後で迎えに来るとしよう。クマールはどうするかね?」


「劇場に入れるのか?」


 使役魔を連れての演劇鑑賞とか出来るのか疑問なんだが。


「そこは演劇が趣味の金持ちのマダムなどが居たりする前例のお陰でな。もちろんクマールには留守番をしてもらっても構わんが」


「ヌマ!」


 何処へ行くかは分かりませんが行きます! ってクマールが元気に答えている。

 えーっとだな、演技……物語を役者が行って楽しませてくれる場所へ行くんだ。


「ヌマ? ヌマヌマ」


 演技……死んだフリと同じですね!

 って納得してるけど……まあ、演技と言えば演技か。

 とにかく、そこで演技を大人しく見て楽しむ奴だよ。


「クマールも来るそうだ」


「そうか。君がしっかりと世話をしてるからクマールは大人しいからな。問題はあるまい。それでは今夜、演劇鑑賞とデートをしようではないか!」


 堂々と言い切ったなー……。


「それでは私は色々と着飾り、勝負服に着替えて来るとしよう。時間になったらこの王宮の酒場で合流だぞ」


「わかった」


 ルナスの残念な所にツッコミを入れるはやめておこう。

 俺に演劇の楽しさを教えようとしてくれているんだし、ルナスの趣味を理解するのに良い機会だ。


 さて……俺もこういう場合はスーツとかに着替えれば良いんだけど……その辺りは王宮の衣装関連の人に相談してみるか。

 服の貸し出しとかしてくれるだろう。

 宮仕え冒険者の役得って奴だ。

 一応王宮主催のパーティーなんかで呼ばれたり警護の仕事とかの手伝いなんかをする際に用意して貰ったりするらしい。

 訓練場での訓練でも練習用の胴着とか衣装を用意してくれるし。


 そんな訳でその日の訓練を終え、ルナスと合流する時間に借りたスーツを着て待っていると、赤い派手なドレスを着てルナスが化粧をしてやってくる。


「ヌマー……」


 あ、クマールが言葉を失っている。

 ルナスは元々顔が良いからな。

 普段は薄い化粧程度だけどしっかりと化粧をするとその顔の良さが引き立つ。

 体型もドレスを着ることで強調されて……言ってはなんだけど周囲に居る宮仕えの冒険者達が見蕩れている。


「美しいお嬢さん、あなたの名前は何でしょうか……是非ともお近づきになりたいのですが」


 あ、宮仕え冒険者の誰かがドレス着用のルナスに近づいて声を掛けている。


「勇者ルナスだ。私の顔を忘れたのか愚か者め。貴様の暴言を忘れはせんぞ。生意気な新入りだったか? お呼びじゃないのだろう? ドケ」


 サッとドレスの切れ目から剣をちらつかせて思いっきり殺気をぶつけて横を通り過ぎる。


「え? え? え?」


 なんて言うか……本当、眼中に無いってばかりの反応だな。

 ちょっと可愛そうになってきたけど……こう、ドレス姿のルナスって普段の残念な所が鳴りを潜めて目の保養にはなるよなぁ。

 ドケって言われても悪い気はしてないって顔をしているのが遠くでもわかるぞ。

 ……元々ルナスの顔は良いのだが、気付かなかったのか?

 まあ服装で美少女度合いが割り増ししているのは否定しないけどな。


「待たせたかね?」


「いいや。それより俺の格好、おかしくないか?」


 俺の質問にルナスはクスクスと笑い始める。


「少年がいたら君を姫とからかうぞ。それは私が聞く台詞だ。実に君らしい所だと思うがね」


 そりゃあ劇場とか見に行くことなんて無かったんだからしょうがないだろう。

 精々パーティーに参加するとかが精一杯でそれも随分と久しぶりだ。


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