162 サービス精神旺盛
「俺の分を減らして二人の分を増やしても良いと思うんだけど?」
「僕は途中からだし、これだけあれば十分過ぎるよ。リエル達にがんばって貰った所が多いし、驚くほどLvが上がっているからね」
「私も十分稼いでいるぞ?」
「何よりリエルにお金を渡しておけば色々とこれからの事を考えて貯めておいてくれるでしょ?」
「うむ。我らパーティーの財布を担うのが君の仕事であるのだから全く問題無いのだ」
俺への全面の信頼を寄せてくれるのはありがたいけど、それで良いのかね。
「ヌマー」
クマールは使役魔なので俺が世話をすることになっている。
で、クマールの金銭の分け前に関してだけど……言うまでも無く無い。強いて言うなら俺が世話をしているから俺が管理するって事になる。
何か欲しいものがあったら俺が買い与えれば良いだけだ。
「さて……リエル。これからどうするか考えるべきであるな。しばらく休暇を私は予定しているがどうするかね?」
「それで良いんじゃないか」
正直、今回の報酬で得た金銭を細々と使えば数年は食うに困らないだろう。
それくらいの稼ぎは行っている。
そもそも冒険者は常に冒険していると思われがちだけど、依頼を達成して金銭を稼いだらしばらく休むのが一般的だ。
宮仕えになったとは言ってもここはそこまで変わらない。
定められた期間内に仕事を終えれば後は自由に過ごして良いのだ。
「俺はこれから念魔法に関して勉強しないといけないし……」
「魔法使い課の方に聞きに行く感じだね。宮仕えなんだから丁寧に教えてくれるよね」
「フォーススキルが開花したことは報告しているからな」
報告時に専用の係員が俺の状態をチェックしていたので間違い無い。
「フォーススキルが開花したとお聞きしたので確認いたします」
って感じで係員が俺を個室にある魔法陣に立つように指示をしたので言われるがままに立って確認作業をして貰った。
「はい……確かにフォーススキルの発現を確認しました。おめでとうございます。ではリエル様、資料の更新をさせていただきますね」
しっかりとフォーススキルが開花していると係員は判断してくれたので俺の資料が更新される。
これで王宮内でもハズレスキルを所持した無能だなんて思われなくなるだろう。
係員が小声で囁きあっていたっけ。
あの歳でフォーススキルに開花するとか凄いのか逆にハズレスキル過ぎて哀れだったな、とか。
「ふむ……ではしばらく休暇を取ることにするわけだがリエル、暇が出来るのだから約束通り演劇を見に行く話は忘れていないな?」
そういえばそんな話をしていたなぁ。
「ついでに君の家にも遊びに行かせて貰うぞ。せっかくの休暇を楽しもうではないか」
「休みの間中、ルナスに連れ回されそうなんだけど……」
「否定せんぞ! 存分に遊ぶのだ!」
いや、勉強したいってこっちは言ってるじゃないか。一朝一夕で魔法を覚えられたりしないんだからさ。
「程々にな? 訓練校時代にあった課題とか締め切りギリギリにやるみたいな事を俺はしたくない」
「あはは、リエルは真面目だからね。ルナスさんもリエルに絡むのも程々にね。何よりルナスさんだって忙しいでしょ? 勇者なんだし」
「……」
まあ、ルナスは宮仕え勇者って事で王宮内の会議なんかもそろそろ出なきゃいけない。
どれだけ依頼を達成したかとか報告会議もあるし、これからするべき依頼や作戦なんかの交渉も行う立場だ。
他にも色々とやることがあるのでそこまで遊んでいる暇は無いだろう。
「それでもリエル! 私とデートするのだぁ!」
どうして泣き落としをルナスはするのかなー……もっと堂々と言えばこっちだって素直に時間を作るって言うのに。
「わかったから、後でな」
「絶対だぞ。私も良さそうな演目を探しておくのでな!」
「じゃあ僕は色々と報告してルナスさん達は白、ドラーク一味の方に問題があるって報告しに行くね」
それからシュタインがそう答えて報告に行ってしまった。
これで事が収まれば良いんだがな……。
「じゃあ疲れたし……今日は懐かしの我が家に帰るとするか」
家無しで過ごす人もいることはあるけどその場合、よく泊まっている宿屋が住所としてギルドなどで登録することになる。
俺の場合は普段は冒険で滅多に帰る事は無いけど、借りている家というか部屋がある。
月々の家賃を払って借り、何処かで死んで帰って来なければ俺が使っている部屋はそのまま他の冒険者に貸し出される。
そう言った契約で冒険者達は各々住処を確保しているのだ。
宮仕えともなると高給取りなんで自宅を城下町で購入しているなんて者もいるし、文字通り何処かに屋敷を建てていたりもするだろう。
ドラークとかもそうだ。
死んでいる訳だから処分されるだろうけどさ。家庭を持っていたら家族が財産を引き継ぐ。
ドラークの家族構成とかは気にしない事にする。仮に子供とか居たら後味悪いし。
でだ……。
「ヌマー」
ここに来て問題が浮上すると同時に頭の片隅に入れていた事をしておかねばいけない事を俺は理解した。
……大きく育ったクマールを連れてあの使役魔屋に文句を言いに行く事だ。
「よし、あの使役魔屋に行く」
「前に言っていたな。私も同行しよう」
「ヌマ? ヌマ……」
クマールが不安そうに、何をするの? って俺に聞いてくる。
ああ別にお前を返却しようとかそういうことをしに行く訳じゃない。
お前の世話をしっかりするために詳しい話を聞きに行くんだよ。
俺はお前の面倒を見ると決めているし責任はしっかりと取るぞ。
「ヌマー?」
嘘じゃない? とクマールが聞いてくる。
そんな訳ないだろう?
ただ、お前が大きく育った事に関して聞かなきゃ始まらないだろ?
「ヌマ」
わかったとクマールは理解してくれた。
念話で話が出来るって便利だ。
魔物使い系のスキル持ちはこんな感じで魔物と会話しているのだろうか?
という訳で俺はクマールを購入した使役魔屋の所へ行ったのだけど……そこは空き地へと変貌していた。
「無い! あの店主、何処へ行った!」
周辺の店で聞き込みを行った所、しばらく前に店を畳んで移動してしまったという情報を入手した。
「仮店舗と言った様子であったからな。商売を切り上げて他の所へと移ったか……元々異国の者であったようだしな」
東の方にいる魔物だって言っていたし店主もカタコトだったもんな。
行商使役魔店だとは思ってたけど遅かったか……色々と話をするつもりだったが居ないのだからしょうがないと思うほかない。
ついでにタヌクマに関する事を王宮の書庫でわからないか、後で調べるとしよう。
「わー変な魔物ー」
道行く子供がクマールを見つけて近づいてきた。
「ヌマー」
クマールは子供に声を掛けられて大人しくしている。
「わーもふもふー」
「ヌマー」
子供が撫でると他の子供達も集まって来る。
「ふわふわー」
「ヌマァー」
「大人しいー」
「コラ! うちの子供がすいません」
子供の親が子供を注意して俺達に向かって頭を下げる。
「いえいえ、俺の使役魔も大人しいので大丈夫ですよ」
「ヌマ!」
もっと撫でて良いよ! とクマールは笑顔で子供達に鳴いて見せる。
クマール……なんてサービス精神旺盛な奴なんだ。
ルナスの言っていたブロマイドの件、クマールの方が人気になったりしてな、
「わーい!」
子供達が思い思いにクマールをなで回している。
やんちゃな奴が蹴りを入れたりしているが痛くも痒くも無いとばかりにクマールはされるがままになっている。
まあ子供の蹴り程度じゃあ今のクマールのLv的に傷一つ付かない。




