157 クイーンの礼
「それで何をくれるのだ?」
「ギギー」
ハイロイヤルビークイーンは手を叩くと、ハイロイヤルビー達がぞろぞろと……色々と武器や道具を俺達の前に運んでくる。
えっと、俺が翻訳すれば良いか。
まずはお守りかな? 迷宮で見つかった道具とか資料に無い代物だ。 えっと……。
「これはハイロイヤルビーの信頼の証。それを持って居れば何処でもハイロイヤルビーまでのハチの魔物は攻撃して来なくなるし頼みをすれば力になってくれるってさ」
「ほう……このような代物があるのだな。つまりコレを持って居ればこの階層ではまず安全という事か」
「そうなるだろうね。恩人って扱いなんだってさ。匂いで分かるとか。これは女王が代替わりしても効果があるらしい」
なんか凄い代物だな。これって王宮の熱意ある研究者が手にしたら喜びで裸踊りしそうな代物だろ。
「私としては戦っても良いのだが……貰えるのなら貰って置こう」
って所で俺に手渡されてしまった。
ルナスは要らないというのをわかっていたっぽい。
「ほ、ほう……」
ルナスの頬が引きつってるぞ。クイーンもクスクスと意地悪く笑ってる。絶対分かってやってるだろ。
俺に手渡したハイロイヤルビーが恐怖で震えてるぞ。
クイーンは他にもこの証には効果があるけど、それはお楽しみとか答えられてしまった。
妖精にも効果がある?
まあ……物語とかの妖精って背中に昆虫の羽が生えている者が多いけど……ハイロイヤルビーって妖精でもあるのか?
「で、次はハイロイヤルビー達の名工が作り出した剣、ビークイーンセイバーだってさ」
ハチの模様を柄に装飾された剣……だな。
「悪いが私はドラゴン素材の剣を所持して居るので切れ味はこちらに敵わんだろ?」
ルナスの言葉をクイーンに伝えると笑顔で答えられる。
「強力な麻痺や様々な毒を魔力を込める事で生成する剣で、素材さえあればドラゴン素材なども組み込んで打ち直してくれるってさ」
「今使っている剣よりも攻撃性能があがりそうだな……少々リエルに修理してもらいたかった所であるし」
と、ルナスが剣を出して見せてくる。
まあ……ルナスの強力な魔法を込めた力に剣が過負荷を受けて刃こぼれし始めている。
いい加減限界が近いか。そう言った意味で今貰った剣を強化して貰えば問題ないか。
「ギギ」
え? そうなの?
「先ほど渡したお守りには迷宮外の地上にいるハイロイヤルビーの居場所も分かるからそこでも頼めば打ち直しをしてくれるって……なんか地上の人の居ない奥地とかでハイロイヤルビーの生息地域とかあってそことハイロイヤルビーしか通れない道が繋がっているんだってさ」
なんか色々と新情報が目白押しになってないか? 研究者が俺に詰め寄ってきそうな話しだぞ。
王宮に報告したくなくなってきた。
「地上でもアクセスに問題なく武器強化をしてくれるって何から何までって感じだね」
って感じでルナスに始まり、俺、シュタイン、クマールにそれぞれ武器をクイーンは渡してくれた。
俺は持って居たクロスボウから……大きな石弓……みたいだけどなんか違う。
矢じゃなくて針を飛ばす石弓みたい?
あ、クイーンが教えてくれる。
矢が魔法の力で毒針に変換され、引き金を引くと自動装填される石弓……結構便利だな。
ルナスが貰った剣と同じく頼めば打ち直しもしてくれるし攻撃性能も引き上げられるのか。
まあ、矢というか針の方が大事なんだろうけど……あ、他に粘着質のある蜜を魔力を消費して放てる様になっている。
一定時間すると消える……魔法武器なんだな。
「僕の方は杖だね。持つだけで結構分かる。回復魔法の性能がかなり上がるし、魔弾の形を誘導性の高いハチにする力を持ってるね」
シュタインは察するのが早いな。説明しなくても良いのか。
その杖がなぜかクマールにも渡されている。
「クマールの場合、爪とか似合いそうなものなんだけど……」
「ヌマ?」
まあ、わがままを言っても始まらないか。
で、クマールは……なんか壺を貰った。
「ギギ」
「ヌマー!」
あ、クマールの目がこれでもかってキラキラして居る。
その壺はハイロイヤルビー達の巣の貯蔵庫と繋がっていてハチミツが徐々に湧き出る壺らしい。
わー……実質永遠に湧き出るハチミツ壺か。
クマールがハチミツを食べ過ぎないように注意させないとな。
「ギギ」
あとは……と、クイーンが命令するとハイロイヤルビー達が頭を垂れる。
それから……。
「えっと、ルナス。お礼にハイロイヤルビーを一匹生涯のお供、使役魔として授けるから好きな奴を選べって……」
「一番いらん者を私達に授けようとしているな! させん! させんぞ! リエルを誘惑する使役魔などいらん!」
王宮や過去の研究者がガッツポーズして欲しがりそうな報酬にルナスが激昂している。
あの強さの使役魔とか、能力的に美味しいんだけどな。
はぁ……俺はクイーンにルナスが嫌がるので配下は結構です、と説明しておく。
仮に貰ってもルナスが嫌がるし、王宮に提出した際に預けたハイロイヤルビー……本来従順に使役魔にするのは魔物使いでも出来ないだろうと思われる存在がどうなるかはあまり良い想像が出来ない。
っとこちらの事情を説明するとクイーンはクスクスと笑ってる。
それは失礼って調子だ。
「ヌマ! ヌマァ!」
なんかクマールも抗議してるし……飼い主の愛情を取られるのが嫌で焼き餅か?
クイーンは俺の言い分を聞いて頷いてくれたのでハイロイヤルビー達は頭を垂れるのをやめる。
どうやら褒美はコレで終わりっぽい。
「なんか色々と引っかかったけど……ありがとうございます」
めちゃくちゃ色々とお礼をもらっちゃったぞ。
魔物のヌシから色々と貰うって演劇になるような物語みたいだ。
「では俺達は次の階層を目指しているんで……」
って所でクイーンがこの階層の現在のマップを教えてくれた。
ふむふむ……じゃあ40階はすぐに行けるな。
「礼を言うぞ。さらばだ」
「ありがとうー」
「ヌマー」
「ではー」
って感じで俺達はハイロイヤルビー達に見送られて40階へとたどり着いたのだった。
40階層は山岳地域……高低差が激しい場所で出てくる魔物は空を飛んでいる魔物が多い。
崖から落ちたら痛いじゃ済まない危険な場所でサンダーワイバーンとか、デビルグリフィン等との戦闘を強いられる。
「いやー驚くほどあっさり40階に来れたね」
「まあ、恐ろしい程の速度で来ているのは否定しない」
40階層に来れる冒険者は滅多にいない。それだけ険しい冒険を強いられる階層にまで俺達は来ている。
宮仕えになった辺り……32階層でグレーターデーモンでヒーヒー言っていたのがもはや遙か遠い事に感じられる。
ちなみにグレーターデーモンを苦も無く倒せる冒険者であったとしても34階を卒無く突破出来るのには相当の鍛錬を積まねばならないと……本来は言われているんだ。
35階は対人みたいな事をする危険階層で、36階層はドラゴン系の巣窟……39階層はドラゴンとは別の数と状態異常の恐怖との戦いがあって、そこを突破して40階層に到達出来るなんて宮仕えの勇者パーティーでも数える位しか居ないだろう。
「正直、まだまだ私は力を出し切れておらんぞ。戦えば戦うほど成長の伸びに迷宮の難易度が追いついて居ないのだからな」
「ルナスはな……」
俺とクマールの死んだフリが重複して勇者の怒りを強めている所為で圧勝してしまっているんだ。
39階のハイロイヤルビークイーンの変異体を秒殺してしまったんだからどれだけ強いのかわかりきっている。
秒殺はしたけどあのハイロイヤルビークイーンの変異体……36階層のファイアジュエルドラゴンよりも単純に強いだろうな。
それだけルナスの猛攻を耐えきって敗れた訳だし。




