156 恋に敏感
「ギィイイイィイイイ!?」
っと増援として駆けつけようと部屋に入ってきた邪なハイロイヤルビー達はクイーンが秒殺された事を理解して戦意を喪失、逃げようと……せずに頭をみんな抑えて、なぜか頭部が爆発して絶命した。
クイーンと生命が繋がっていたのか?
どちらにしても殲滅出来たから良いのかも知れない。
「ふ……こんなモノだな」
「いやー清々しい程、あっという間に倒せたね」
『相手が相手だからしょうがないけど、あっちからしたら間違い無く理不尽だろうな』
「ルナスさんも浄化の炎を使っていたけど念のために僕も浄化をここに施しておくよ」
と、シュタインはハイロイヤルビークイーンの亡骸のある周囲に浄化を施して邪な力を払う。
ルナスの強力な炎でかなり消し飛んでしまっているんだけどさ。
ハチの巣の邪悪な感じも大分緩和したような気もするけどその前にルナスの炎が強すぎて山火事が起こった後よりも酷い状態になってるぞ。
こう……全てが焼けるのでは無く溶けているというか……。
で、俺とクマールは死んだフリを解除して起き上がる。
「まだまだ私達は行けそうだぞ!」
「一応ルナスの一度に出せるフルコンボが全部決まったって事だから相当強かったんだな……このハイロイヤルビークイーン」
「そうだな。私の勘だが治療した方よりも相当強いのではないか? それでリエル、このハイロイヤルビークイーンの亡骸から何か採取するモノはあるのかね?」
「ここまでボロボロにしちゃうとな……報告用のサンプル採取はしておいた方が良いとは思う」
覚えている範囲でハイロイヤルビークイーンの変種をスケッチに起こしながらハイロイヤルビークイーンの一部を採取する。
毒袋発見。
こういう所は何かに使えるだろうし、牙とかも使い道はあるか。
体液も……武器や防具に使えると聞いた。
組み立てた途端呪いが発生しそうだけど、とりあえず確保しておこう。
「ハチミツが一部残ってるな……邪な密度が高いけど……クマール、欲しいか?」
「ヌマヌマ」
要らないとクマールが手を振って顔を逸らしている。
食べれるハチミツと食べれないハチミツの区別は付くようだ。
「そこにハチミツがあるから飲むのではないか?」
「ヌマー……」
違う違うとルナスの謎の質問にクマールは拒否するとばかりに鳴いて首を横に振る。
そんな毒キノコでも平気で食べるようなキノコマニアみたいな話をされてもな。
「ギギギ……」
「おや? 新手かと思ったら」
声と羽音に振り返ると同盟を結んだハイロイヤルビークイーンの配下であるハイロイヤルビーエリートやガード達が降りたって周囲を見渡しながら俺達に敬礼して頭を垂れる。
「口ほどにも無いとはこの事だな。とはいえ、そちらのクイーンと戦えなかった鬱憤は多少晴れたぞ」
ルナスがなんか傲慢な事を言っている所で俺が念話で倒した事を伝えると、ハイロイヤルビーエリート達がクイーンへと報告をし、手助けしてくれた俺達へ礼をクイーンがするだろうから来て欲しいと頼まれてしまった。
「ルナス、あっちのクイーンが礼をしたいってさ」
「私達は先を急ぎたいぞ? そちらのやる気が無かっただけなのでな」
お礼に興味無しのルナスの態度は……まあ、本音を言わなかったらカッコいいかも知れない。
ブレイブオーガの時と同じくさ。
まあ、ルナスの意見を尊重してお礼は気にしなくて良いからと念話を飛ばす。
「ギギ! ギ!」
するとハイロイヤルビーエリートがどうか来て下さい! と懇願してきた。
じゃないと自分達が女王に怒られてしまいますって……魔物であるけど律儀だな。
マシュアとルセンは律儀な魔物の爪の垢でも飲んで心根を治してもらいたいな……どこの誰が言ったか馬鹿は死んでも治らないを地で行ってたし。
「む……そこのハイロイヤルビーエリート! 私のリエルが如何に魅力的であるとしてもそれは見逃せないぞ!」
「ルナスは何を言ってるんだよ!」
「ヌマー」
どうしてそこで俺が誘惑されている様に受け取れるのかね。
「そもそも活躍したのはルナスだろうが、こういう時に誘惑されるのはむしろルナスだろ」
「ん? 少年。リエルは一体何を言っているのだ? まるでわからんのだが」
「わー。ルナスさん自覚無いって逆に凄いね」
そういう所が残念というか嫌みにも受け取れる所なんだけどな。
ルナスの中では恐ろしく強く雄々しい女勇者に女性が惚れないと思って居るのだろう。
演劇とか物語でそういう話があるような気がするのだが、まるで意識して居ない所は鈍感と言えるのか?
「ルナスも下手をすると鈍感の可能性ありって事だな」
ここぞとばかりに仕返ししてやろうっと。
「鈍感? 私の何処が鈍感だというのだ! むしろ恋に敏感だぞ! 私はリエル一筋だからな! 他のしがらみなどいらん!」
よく分からないけど切り捨ててやるって態度だ。
そういう所もある意味、好かれそう。
「ルナスの逸話とか後年に語られたら雄々しい美形の女勇者の冒険って感じで女性人気が多そうだな」
「だね。今でも書き起こしたら人気出るんじゃない? 黙っていたら顔は良いし」
「そ、そうか? 私も女性達の夢になるのはやぶさかではないぞ? 勇者はカッコいいからな」
「で、俺はモブで逸話ではまるで語られない位のポジションだな」
周囲の認識というか死んだフリ以外の貢献がな……地味というかゾンビだし。
「そんな物語にしようものなら私は書き直しを要求するぞ。私たちの大事なリエルなんだからな」
「ルナスさん。きっとルナスさん達が死んだ頃に語られる物語となると、リエルは女に性別が変わってるんじゃ無い? 聖なる乙女で勇者を覚醒させる鍵ってポジションで」
うぐ……なんだろう。
おとぎ話とか話の構成を考えるとあり得る話だから怖い。
「少年はエルフの血が混じっているから寿命は長そうだな。妙な改変が掛かったら書き直しを要求させるのだぞ。私が求めるのは男のリエルとのラブロマンスなのだから」
堂々とラブロマンスを望んでるなんて言う女勇者と文字通りラブロマンスって出来るんだろうか?
激しく難しい気がする。
ルナスが残念な方向で。
「こんなお願いされるなんて僕も驚きだね」
「ともかくそこのハイロイヤルビーエリート! リエルはやらんぞ!」
「そうじゃなくて、クイーンが俺達にお礼を渡せないと配下のハイロイヤルビーエリート達が怒られるから困るんだとさ」
「あれだけ配下を僕達が仕留めちゃったのに、こっちのクイーンを倒したらお礼をくれるなんて器が大きいね。さすがはクイーンって事かな?」
「ふむ……さすがに知った事では無いと断っては悪いか……」
さすがのルナスもお願いは断れないか。
ここでいらん、勝手に罰されているが良いとか言ったら酷いなと思ったから良かった。
マシュアやルセン相手の言葉の切れ味からしたら言いかねないと思ってた。
「それに正体を現して攻撃してきたら返り討ちに出来る……良いだろう」
……どこまでもルナスはルナスだった。
「貰えるモノは貰って良いんじゃない? とりあえず行ってみようよ」
「ヌマー」
「まあ、これも数奇な依頼って思えば良いんじゃないか?」
「うむ……では案内してくれ」
「ギギ!」
って事で俺達は来た道を戻り、ハイロイヤルビークイーンの元へと戻ってきた。
ハイロイヤルビークイーンは俺達が相手のハイロイヤルビークイーンを倒した事を喜び笑顔で褒め称えてくれる。
あ、もちろん俺の念話に対して答えてくれたんだけどな。
どうやら俺達を歓迎して色々と食事とか泊まって貰っても良いような考えをして居たけれど先を急いでいるようだしとこっちの目的も察してくれていた。




