155 変異クイーン
「ハイロイヤルビーの死体操作とかしても良いんだけどやっぱりリエルとクマールほどの頑丈さが無いからなー……もっと墓守のスキルを習熟したいね」
と、ルナス達が倒したロイヤルビー達を前に各々言い放つ。
増援も続々とやってきていて……俺の把握範囲にやっと相手側のハイロイヤルビークイーンを察知した。
警備網が重傷を負っていた側よりも厚くてどんどん増援が来る状況だな。
ルナス達の方は戦いがいがあるって感じで嬉々として戦っているんだけどさ。
それと……邪な気配が強まってて、周囲の壁にあるハチミツの色合いが悪い。
『ヌマ』
クマールが周囲のハチミツに対して減退する意識を向けている。どうも口に合わないのが分かって居る様子だ。
『墓守のスキルを習熟すると何が出来るようになるんだ? 俺とクマールを合体させて更なる力を出すとかだったら許可しないぞ』
「違うよ。死体操作するのが難しい魔物とかを使役するんだよ。ドラゴンとか、それこそここのヌシであるハイロイヤルビークイーンとかをさ」
ドラゴンゾンビ……死したドラゴンの死体が動き出すアンデッドの中でも上位に位置する厄介な魔物だ。
他にもスカルドラゴンとかも同様か。
確かに死霊術士として強力な存在となるとその辺りが物語の悪役として驚異的な存在となり得る。
『シュタイン。お前が強くなっていくとさ……文字通りさ、ルナスが見てる演劇の悪役に育ちそうだな』
「否定はしないけど僕、長いものに巻かれる主義だしリエルとルナスさんを相手にどれだけ強力なゾンビを使役しても勝てる見込み無いなー」
「そうかね? 私たちと敵対した際、リエルとクマールの体を操って攻撃してきそうだと私は想定しているが?」
確かに……シュタインじゃ無いけど俺達の勇者の怒り戦術の隙に思えてしまう。
「んー……それは難しいかな。何せリエルとクマールが死んだフリを解除したら死霊術は解除されちゃうし、再使用したとしてどれだけ早く魔法を使って操ろうとしてもそれまでの間にルナスさんの魔法や高速攻撃で仕留められちゃうよ」
ルナスの広範囲高威力の魔法の前じゃ無数の死者を使役して襲ってきても即座に殲滅されるだろうし離れた所で死霊術を使っていたとしたら周囲のゾンビを殲滅された後に居場所を特定して広範囲攻撃であぶり出されるか。
よく考えると隙はそこまで無いんだなー。
「まあ、この先の階層じゃリッチやネクロマンサーとか出てくる所もあるだろうから想定しておいても良いんじゃない?」
なるほど……心構えはしておかないと行けないか。
こういう知識があるのと無いのとでは対応出来る速度が変わるもんな。
「ま、大きなドラゴンの死体を操るってのも面白そうって話だよ。制御出来ずにそのまま返り討ちとか死霊術士の末路に多いしね。それが出来る僕、格好良くない?」
『堂々と宣言出来はしないだろ?』
「まあねー」
「無駄話はそれくらいにして、リエル……この先で良いのか?」
「ああ」
「ではクマールの為に少々気を使って加減していたのだが、一気に道を切り開かせて貰うぞ」
『ヌマー』
ルナスが手を前に出して群がってくる敵対するハイロイヤルビー達へ向けて魔法を唱える。
クマールの為に気を使う……?
ハチミツの為か?
この階層だとかなりあるからその程度は気にしなくて良いだろう。
そうだよな? クマール。
『ヌマー』
クマールもそもそも自分のものでは無いので遠慮せずに攻撃しろと答えてくれる。
あれば欲しいし好きだけどその所為で困るくらいなら攻撃を良しとする考えは良いと思うぞ。
「ハイホーリーファイア!」
「ギィイイーー」
ルナスの聖なる業火が敵対するハイロイヤルビー達を焼き尽くし俺達に道を開かせる。
もちろん炎の威力が高い所為で周囲のハチの巣は焦げ、ハチミツも焼け焦げてしまった。
俺とクマールは死んだフリを解除して急いで進むルナス達の後を追う。
「さてさて、最初に出会ったハイロイヤルビークイーンと同じくあっちの様子を確認して会話をしてから戦えたら良いんだけどな。余計な事に首を突っ込んでいるような気もしなくも無いし」
「リエルは律儀だねー。レンジャーって時代によってはシーフとか言われたりしてたって言うのに」
「ああ、ならず者で泥棒という奴だな。リエルの態度からするとまるで繋がらんが」
「真面目だからねー」
「そこまで真面目ってほどじゃない。好き好んで酒は飲まなくても付き合いでギャンブルとか情報収集でやるし」
「情報収集目的で稼ぎや快楽目的でやらないのが実にリエルだね」
「ともかく、相手のハイロイヤルビークイーンとご対面だ」
と、開けた道を進んで俺達はもう一匹のハイロイヤルビークイーンとご対面をする。
「シャゲェエエエエ……」
「おおう。これは想像とは随分と違う魔物だな。同じ魔物とはまるで思えん姿をして居る」
ルナスが驚きの表情で言い放つ。
そこに居たのは人型とはまるで遠い……卵管が大きく肥大した腹部に動きは鈍重そうだ。
頭部は人に似た頭髪を持った、巨大なハチの化け物だった。
所々が人っぽい部位が見えるのだけど顔は人型とはまるで遠く、ハチに近く凶悪な牙がびっしり生えており、手とかも非常に鋭い。
人っぽい所を探すのが困難な……完全に魔物って感じだ。
ボコボコと定期的に卵管から卵を排出し、そこからハイロイヤルビーラーヴァが殻を破って現われる。
「ギギーー!!」
で、俺達と同盟を結んだ方のハイロイヤルビーが捕らえられており、ハイロイヤルビーラーヴァの餌にされていたり……卵を産み付けられて腹を食い破られてそこから新たなハイロイヤルビーが湧き出している。
吐き気を催す光景だ。
ラーヴァとハイロイヤルビーを混ぜて巨大化させてハチの部分を増したような化け物……これに念話が通じるか怪しいとは思いつつ一応念話を試みる。
「シャゲエエエエ!」
が、こちらのハイロイヤルビークイーンは俺の会話したい意思は弾いて最初からこちらを殺せと配下の邪な力を宿したハイロイヤルビーに命じている。
「こっちの話を最初から聞くつもりは無いってさ」
「うむ……私達が戦う邪悪な魔物とはこのような奴を指すのだ。ここまでやらかす奴ならば躊躇いなど不要であるな」
「そうだね。気持ちよくこちらのハイロイヤルビークイーンには退場してもらおうか」
「ヌマー」
ルナス達の言うことに同意だ。
こっちは倒しても何の後ろめたさは無い。
って訳でいつも通り俺とクマールは死んだフリを行う。
「私の圧倒的強さをその目に焼き付け消し飛ぶが良い! 「「「「「ハイホーリーファイア!」」」」「「レイブレード!」」」
手始めの牽制に放ったハイホーリーファイアが四方八方から毒針等を各々無数に飛ばしてくるハイロイヤルビークイーンとその周囲に集まっている邪なハイロイヤルビー達を焼き焦がし消し炭へと変えて行く。
やり過ぎにしか思えないのだけどハイロイヤルビークイーンは強固な結界の上に鎮座していたようでバキンバキンと結界を二枚破壊され、3度目のハイホーリーファイアで炎が届いたのだけど体液を噴射して炎を中和、念入りに放った4発目でダメ押しの炎が全身を焼く。
そこから極太の光の剣が振り下ろされて縦一線、横一線の十字にハイロイヤルビークイーンは切り裂かれて絶命した。
もちろん邪なハイロイヤルビークイーンは……驚愕の表情で切り裂かれていたと俺は感じる。
なんかの冗談? みたいな顔でもあったのかも知れない。
ここまでの道中で化け物みたいに強いルナスの情報くらいは配下から入らなかったんだろうか?
……逃げられる前に仕留めてはいたけど断末魔や配下の絶命くらいは感知していただろうに。
こっちの念話を拒否しなきゃ……と思うのは俺の傲慢だな。




