153 蜂の女王
「どちらにしてもハイロイヤルビーには二種類、種類が分かれているのかも知れないな」
把握で確認出来る魔物名と何か違いがあるのかも知れない。
「何にしても私たちは進むだけであるな。ヌシを倒せばハイロイヤルビー達は逃げ惑うのだろう? 私としては遭遇する敵を全て屠ってより強さを得たい所であるがな」
ルナスからすると出てくる魔物は等しく倒すべき敵って所か……。
まあ結局降りかかる火の粉は全て払って行くに越した事はないんだけどさ。
って感じで進んで行くと大きな気配を感知した。
言うまでも無くハイロイヤルビー達が無数に警護して居る。
「あ、ハイロイヤルビークイーンらしき気配を見つけた」
「では行こうではないか! 足早に倒して行くぞー」
「暴れるぞー」
っとルナスとシュタインは押せ押せでドンドン進んで行く。
本当、この二人、あっという間に仲良くなったよな。
もちろん俺とクマールが死んだフリをしているので勇者の怒りを発動させた強化状態だ。
切り伏せたり魔法で仕留めたり、俺とクマールのワーウルフゾンビ状態での殲滅だったりと手段は様々だ。
そうして厳重な警備の中、俺達は進んで行くのだけどひっきりなしにハイロイヤルビーが襲って……いや、クイーンを守るために来ているのか。
襲撃者はこっちだな。
しかし……まるで動く気配が無いな。
まあ、資料によると女王……クイーン故に悠々と自らの巣……階層の玉座に鎮座しているって話ではあるんだけどさ。
「ギィイイ!?」
「よーし! ここにクイーンがいるのだな! 早速私たちの相手をして貰おうでは無いか! 無数のハイロイヤルビー達を屠ってきたぞ!」
ハイロイヤルビーの取り巻き、ハイロイヤルビーガードをルナスとシュタインは倒して、クイーンの間に乗り込む。
「ギィ……ギィ……」
そこにあった光景は、驚くべき物だった。
なんと人間の倍ほどの大きさをして居るハイロイヤルビークイーンがぐったりした様子で玉座の前で横になり、配下のハイロイヤルビー達に介抱されている姿だった。
一体どうなっているんだ?
「ギィイイイ!」
クイーンの間にやってきた侵入者を追い出すためにハイロイヤルビーの親衛隊であるガード達が敵意を見せてこちらとの間合いを図っている。
「なんか随分と弱ってない?」
「そうだな。何か忙しい所に来てしまったようだな」
把握でハイロイヤルビークイーンの様子を確認。
うん……ハチ型の巨人って感じの姿で顔は言ってはなんだけどとんでもなく美人。研究者が魅了されるのもうなずける位顔が整ってるのが目を閉じて居ても分かる。
えっと……人間みたいな所の腹ではなく尻尾の様な針のある腹の部分に大きな刺し傷があって、胸にも刺し傷と切り傷、羽は一部欠けており文字通り瀕死状態となっている。
傷の部分にシュタインが教えてくれた邪な魔力がかなり宿っている。
「どうする? ここぞとばかりにとどめを刺して行くかい?」
シュタインが現実的な提案をしている。
確かに、何かしらの要因で弱って居る大物の魔物は仕留めるチャンスであるのは間違い無い。
仮にドラゴンが負傷して弱っているのを見つけた冒険者がいたら逃す者は居ないだろう。
「悪いが私達はリエルのお陰で力に満ちあふれている。強者の余裕として万全の状態のヌシと私は戦いたいのだ。だからうけとれぇえええ!」
「ギィイイイ!」
ルナスがここぞとばかりに回復魔法をハイロイヤルビークイーンに向かって掛ける。
なんて言うかこういう所はルナスらしいというか男らしくて良いと俺は思う。
強いからこそ目に見えて弱って居る相手のとどめを刺すのではなく、戦う意思が芽生えるようにするって感じで。
「ギギ……ギィ……ギィ……イイイ」
ルナスの広範囲高威力の回復魔法をハイロイヤルビークイーンは受けてみるみる傷が塞がって行き、邪な魔力が吹き飛んで傷も浄化されて行く。
そうして瀕死だったハイロイヤルビークイーンの呼吸は静かになり、ゆっくりと閉じて居た目を開いて体を起こし、こちらを見つめてきた。
「傷も治ったな。さあ、私たちの圧倒的な強さの前に屠られるが良い」
手当をしてから殺すとかどうなんだ? とは思う所が無いわけでは無いけど弱って居る所にとどめを刺すより後味が良いという所がある。
一見むちゃくちゃに感じる所が無いわけじゃ無いけど、俺もこれを否定はしない。
「……」
が、ハイロイヤルビークイーンはこちらに対して敵意をまるで向ける事無く、軽く手を上げて取り巻きのハイロイヤルビー達を引かせる。
そのまま静かにこちらを見つめているだけだ。
「ギギ」
そこにチャンスとみたかのように邪な力を宿したハイロイヤルビーがハイロイヤルビークイーンに向けて飛んで来て攻撃を仕掛けようとする。
「ギイ!」
それは許さないとばかりにハイロイヤルビークイーンの取り巻きが突撃して戦う。
「おい。無視をせずにこっちと戦うのだ。相手をされないのはむなしいものなのだぞ!」
「ルナスさん落ち着いて。まあ魔物とはいえ回復魔法を掛けられたら戦意が削がれちゃってるんじゃない? 瀕死だった訳だし」
「ではどうしたら良いのだ?」
とりあえず流れ矢に注意すれば死んだフリを解除しても大丈夫そうだな。
っと俺は死んだフリを解除する。
「リエル、どうしたら良いのだ?」
「ボスが敵意無くこっちを見てるしなー……しかもなんか指揮系統か何か異変が起こっているみたいだ。たぶん、あの傷は邪なハイロイヤルビーにつけられていたって事なんじゃない?」
「状況から見てそうだろうね。ここまで強引に乗り込んで来たのに襲ってこないとは寛大な女王様って奴かな?」
「とどめを刺しても後味が悪い。かといって回復してもコレでは対応に困るではないか」
うーん……。
「ヌマー」
クマールも死んだフリを解除して同様に困ったと鳴く。
その間にも邪な気配を宿したハイロイヤルビーは、同族のハイロイヤルビーに倒され、鎮圧される。
把握で感知出来る範囲内で、未だにハイロイヤルビー達の抗争が続いている訳で……。
どうしたものかとクマールへと視線を向けた所で、ふと気付いた。
クマールに念話が届いた様にハイロイヤルビークイーンに念話をすることが出来ないだろうか?
俺はハイロイヤルビークイーンに向かって念話を飛ばしてみる。
相手がこっちと会話をする気が無ければ弾かれてしまう行為だし、おかしな事をして居ると思われてしまう可能性は大いにあるけどそれならそれで割り切れるだろう。
するとハイロイヤルビークイーンは俺の念話に対しても抵抗の意思を見せない。
スッと俺の飛ばした念を察して意識を伝えてくる。
瀕死の重傷状態で侵入者の俺達にここまでこられた所だったけれど、傷の治療と厄介な呪詛を解除して貰った。
死ぬ身だった故に、今回は戦うつもりもなく討たれても良いという返事が来てしまった。
「今、ハイロイヤルビークイーンに念話を飛ばしたんだけどな。やっぱり戦う気は無いみたいだ。首が欲しいならそのまま討たれる覚悟までしてる」
「リエルの念話ってクマールにも効果あったけど結構便利だね」
確かにな。会話しようと思えば出来るとなると使い道が色々と出てくる。
言葉が通じない異国の相手でも話が出来るんじゃ無いか?
「なんとも面倒な……私は全快した貴様の全力を圧倒的な力でねじ伏せたいのだぞ!」
ルナスが建前などを気にせずぶっ放している。
もう少し本音を出さずに言えないのだろうか?
まあ、ルナスらしいと言えばらしいのかもしれないけどな。
……とりあえず俺はルナスがなんて言っているのかハイロイヤルビークイーンに念話で伝えたがクスクス笑われてしまったぞ。
「何がおかしい!」
「好意的に受け取ってくれているから、ちょっと落ち着けって。もしかしたら戦ってくれるかも知れないだろ?」
「そうか……ではリエル。奴にやる気を出させるのだ!」




