【書籍化決定】無能扱いされてパーティーから追放された――けど、 なぜか女勇者が「君が必要だ」と言って一緒についてきた!?

二章

152 抗争

「ふむ……そんなに美少女であるのか。これは負けてられないな。美少女は私一人で十分だ」

「……」

　ツッコミは入れずに無視しよう。

「あ、騒ぎを聞きつけて３匹飛んでくる。早いな」

「ギギーー」

　っとハイロイヤルビーの増援が飛んで来たのだけど目視すると同時に脊髄で体が動いて二匹ほど眉間にクロスボウの矢を命中させてしまった。

「ギィイイイ！」

「ギィイイイ！？」

　転げ回りながらも頭に矢が刺さったまま立ち上がって高速で近づいてくるハイロイヤルビー。

「ヒュー……リエルも戦闘向けのスキルが念魔法だけなのに随分動きが良かったね」

「私も驚く速度だったぞ」

「いや、偶然の一致なんだろうけどさ。あの顔、マシュアに似てて……」

　なんで俺が咄嗟に動いてしまったのかというとハイロイヤルビーの内二匹がマシュアによく似た顔をしていた為だ。

「あー確かに言われて見るとなんか似てるね。こりゃあ咄嗟にやっちゃうのはしょうがないね。とはいえ、頭に矢が刺さっても生きてるってタフだねー」

「と、とにかく死んだフリだクマール！」

「ヌマー！」

　俺とクマールが合わせて死んだフリを行い、ルナスの勇者の怒りを作動させる。

「ではここはこの魔法でやるのがノリとして良いだろうな。「「ハイホーリーファイア！」」」

　ノリに合わせなくて良いから！

「「「ギィイイイ！？」」」

　増援としてやってきたハイロイヤルビー達はルナスの魔法を受けて黒焦げになった。

　広範囲の聖なる炎の魔法を受けてあっという間にだ。

　マシュアによく似たロイヤルビーも仕留められて……一安心してしまう。

　ロイヤルビーからしたらとんだとばっちりか。余り深く考えるのはよそう。

「いやーなんとなく程度しか確認出来なかったけど知り合いに顔が似てると怖いね」

「そうだな……」

　本当、不思議な位似ていた。偶然の一致なんだろうけど恐ろしいもんだ。

「ふふ……仮に本人であったとしても私は同様に仕留めてやったぞ。迷宮に囚われてしまった哀れな元仲間達に救済を与えているのだ」

「完全に悪役のそれじゃないか？」

「救済って所がまさにそれっぽいね」

　マシュア達に激しく問題があって身勝手な奴らだからまるで同情したりしないけどさ。

　なんか嫌だなぁ……ロイヤルビーってマシュアによく似た顔つきの奴らが混じってるとか。

　もしかしてマシュアの顔ってよく似た顔なのが居るのだろうか？

「気が強そうな顔つきが似てると思わせちゃうんじゃないかい？」

「私からするとそんなに似ているように見えなかったが……特にリエル達が死んだフリをすると如実だぞ」

「……もしかしたらこの階層から漂う匂いでそう見えて居るのかもしれないな。これが魅了攻撃って事か？」

「男性からすると今まで見た女性と錯覚させる……いや、まさかリエル！　マシュアの外見が好みだとでも言うのか！」

「だからその話題から離れろ！」

　確かにマシュアって顔は良い方だと思ったけど、ルナスの方が顔の良さなら上だろ。

　というかあんな事をされておきながらマシュアが好みとか、俺はどんだけ鋼の精神なんだよ。

「ヌマ？」

　クマールは俺達の話題がよく分からないって顔をしている。

　それで良いんだ。

「よし、リエルが私によく似たハイロイヤルビーを見つけるのを確認せねばならんな」

「激しくどうでも良い検証はしなくて良いからさっさと進んで次の階層を目指すかハイロイヤルビークイーンを仕留めよう！　女王を倒すとハイロイヤルビー達は逃げ回る様になるから、なんか攻撃性が活発化してるみたいだし」

「数が多ければそれだけ戦う機会が増える……ふふふ、まだまだ私たちは戦えるぞー！」

「この階層で得られる武器とかってハイロイヤルビーエリートとか、ハイロイヤルビーナイトが使っているハイロイヤルビーシリーズの武具だったっけ」

「ドラゴン系の武具より性能は劣るけど魔力効果とかが優秀だって聞くな。治療効果を早めてくれたり魔力が大きく増加するとか……」

　手に入ったら良いなって感覚で行くのが良いだろう。

　って感じで俺達はどんどん進んでいく。

「ヌグマアアア！」

　クマールゾンビがハイロイヤルビーラーヴァやハイロイヤルビーを俺の体と力を合わせて蹂躙し、ルナスがハイロイヤルビーナイトを剣で切り伏せて行く。

　上手いこと武器を奪えたら良いのだけど倒した際に武器が砕けてしまう。

　奪えないように仕掛けられて居るのか、魔物にはこう言った仕掛けを施して奪われないようにして居るのが多い。

「ギギィイイ！」

「ヌグマアアア！」

「クマールゾンビがのし掛かりでハイロイヤルビーを押しつぶして仕留める姿は……演劇のか弱き乙女に魔物が無体な事をしているシーンを連想するな」

『ヌマアアアア！』

　心外だ！　っとクマールがルナスに抗議の声を上げている。

『失礼な事を言ってるとクマールが怒ってるぞ』

「そうか、悪いのは少年だ。私は悪く無い」

「僕の所為にしてもねー」

　どうしてこうも緊張感が無いんだろうな……本来は苦戦するはずの階層をルナスが強くてあっさりと進めてしまうのが原因だろうなぁ。

　って所でハチの巣の中に不自然な岩壁を発見した。

　壁を確認すると古代文字。ここは資料にあったな。

「リエル。ここには何が書かれているのだ？」

「熱心な冒険者がここに書かれている事は写して持ってきてるから地上でも分かってる。ハイロイヤルビー達の社会構造関連の調査文献」

「太古も過去もハイロイヤルビーに熱心な者が居たのだな」

「そうだな……」

　人に近い外見をして居るから魅了……今回の場合は攻撃では無く関心って意味で魅了されてしまった過去のスケベな研究者がいたという事だな。

　俺としてはなんとなくマシュア達に顔が似ていると感じるハイロイヤルビーは嫌な意味で印象が悪い。

「ギギーー」

「ん？」

「ヌマ？」

　ふと俺は把握出来る範囲で妙な気配を感じて首を傾げる。

「どうしたのだ？」

「ハイロイヤルビー同士でなんか争ってる」

　そう、把握で感知した範囲なのだがハイロイヤルビー同士で殺し合いをしている。

　反応が減って居るので俺の勘違いじゃないだろう。

　もちろん遭遇したら両者とも俺達の方に攻撃してくるのだけどさ。

「仲違いでもしているって事かい？」

「うーん……ハイロイヤルビーの生態は熱心な研究者がまとめた物があるけど同族内での殺し合いなんてしない厳格な社会体系をして居るそうなんだけどな……」

　どうもおかしい。もちろん研究資料が間違っているなんて事はよくある話なんだけど、それにしたって同族内で争いすぎだろう。

　進めば進むほど抗争しているハイロイヤルビーが増えて行くぞ。

「ヌマー」

　クマールは壁に滴っているハイロイヤルビーのはちみつを舐めてはご機嫌そうに鳴いている。

「ハイロイヤルビー同士の抗争……種族同士の争いか？　いや……この階層からしたってな。そもそも……」

　俺は倒したハイロイヤルビーの死体を確認する。

　マシュアと顔が似ていると感じるハイロイヤルビーと、それ以外のハイロイヤルビー。

　主に気性が荒く攻撃的なのはマシュアに似ていると感じるハイロイヤルビーの方だ。

　把握で深く確認すると……普通のハイロイヤルビーに比べて何かが多く感じる。呪いにも近い感じがするんだけどなんか変な感じだな。

「なあルナス、シュタイン。この二つのハイロイヤルビーなんだけど、こっち……何か無いか？」

「ふむ……」

「ちょっと待って」

　ホイっとシュタインがハイロイヤルビーの死体に手をかざす。

「邪な魔力を感じるね。闇よりも悪意が籠った感じだよ」

「もしやリエルが感じたマシュアに似た顔という感覚はそれなのではないか？」

「かも知れない」

　なるほど、邪な魔力……悪意って所から連想すると確かにマシュアやルセンは悪意で俺を殺そうとしてきた。

　その時の感覚からおかしなハイロイヤルビーの顔をマシュアに似ていると俺は把握してしまったという事か。