15 勇者の情景
相手は凶悪なドラゴンだ。
入念に打ち合わせをしてみんなで死力を尽くして戦った……あの戦いは忘れたくても忘れられない。
村を守る防衛戦でもあったし、いろんな機材を持ち込んでの戦闘……ルナスが注意を引きつけて、マシュアが傷を癒やし、ルセンが魔法で援護、俺は攻城戦の道具で遠距離から狙撃をしていた。
数時間に及ぶ激戦だった。
みんなにポーションを投げて援護をしていた俺にドラゴンは狙いを絞って襲ってきて深手を負ってやむなく死んだフリをしたんだ。
「ああ、あのドラゴンか? 君が死んだフリをした直後から鱗がバターのようになってしまってな。簡単に切り裂けた」
はぁ……なんだろう。
さらっと答えるルナスとのあの時の温度差を激しく感じる。
あのドラゴンは雑魚だよ、と言われているのは間違い無い。
いや、実際に雑魚だったんだろうけどさ。
むしろ実情は俺が早期に死んだフリを使わなかったから被害が無駄に拡大した可能性まであるかもしれない。
「ただ、力の限り剣で切り裂いた所為か、あの後剣がポッキリ折れてしまったな」
「そうだったな。あのドラゴンの鱗を使って新しく剣を新調したんだっけ。懐かしいな」
今のルナスが使っている剣はその時の活躍で得たドラゴンの鱗を使って作られた一品だ。
相当の業物だと鍛冶師が言っていた位の品なのだ。
「うむ。だが、これも近々君に譲ることになるだろうな。もう少し深い階層にあのドラゴンの上位種が出てくるに違いない」
俺にくれる宣言をするのは良いんだけど……その剣に並ぶ剣は滅多に無いって話なんだけど?
どうにもルナスの見ている次元が遙か高見過ぎて想像が追いつかない。
これは俺の想像力がまだ足りないって事なんだろう。
けど……俺は本当にルナスに貢献出来ているのだろうか……とても不安になってきた。
いや、役に立ってはいるんだろう。
ただな、俺自身は戦闘が始まった瞬間、死んだフリをしているだけだ。
自分だけ楽をして、怠けている様な気分っていうのかな。
けれど、それが今の俺に求められているスキルで、仕事なんだ。
「これもすべて君がいるからだ。Lvの力は偉大だ。もっとLvを上げたら君でも出来るようになるかもしれないぞ」
「冗談として聞いておくよ」
「そうかね? 私は冗談などとは思っていないぞ。この4倍ほどの強さに追いついた時、私は更に4倍の強さを持っているのだからね」
理屈の上だとそうなんだろうけど……一応ルナスは宮仕えなので冒険者では一流に入るんだぞ?
この一流を超えたら俺達は一体どこに行ってしまうのか。
「そもそもだ。この大迷宮の最下層には一体何があるのか、どんな化け物がいるのか……そんな探究心をリエルは持っていないのかい?」




