148 合体
ルナスが数を減らした中でシュタインがラーヴァゴーレムに俺達を戦わせながら呟く。
まあ、幾ら無敵ゾンビと言っても元々が余り強くない俺達なので二倍くらいの攻撃力を持つと言っても限度がある。
そりゃあ溶岩で構築された魔物を直接殴ってもこっちがダメージを負わないと言ったって俺は近接向きの攻撃スキルを持ってない。クマールは言うまでも無い。
単純にシュタインの掛けた魔法による属性や攻撃付与があるって言ってもな。
『ヌマー』
『そりゃそうだろ。ずっと使えると言ったって俺だぞ?』
「少年の戦い方もここが限界か。確かにリエル達は無敵だが決定打が出せないという事であるのだな」
ルナスがラーヴァゴーレムを豆腐みたいに切り刻んで仕留めて行く。
6倍攻撃力は伊達では無い。
所詮俺とクマールでは更なるパワーアップをしたルナスには追いつけないという事だ。
「ふふふ……そろそろ僕もこの戦い方が使えるようになったはず」
なんか非常に嫌な予感がするんだが?
ただのゾンビじゃなくもっと強力なゾンビとして動かせる魔法とかに手を出す気か?
「行くよ! これが死霊術士の戦い! アンデッドフュージョン!」
『ヌマ!?』
シュタインが魔法を唱えると俺とクマールの体が赤く輝き、闇の塊となって一つにくっつき……そこにはゾンビタヌクマ人間が現われた。
「うーー!?」
ルナスが6倍速で動けるのにも関わらず、クールやハイテンションでは無く、どうしたら良いのかと困惑の表情で幽体離脱状態の俺……はどこにいるのか見えていないだろうけど、棺桶に目を向けて硬直している。
凄い脂汗を流しているのが一目で分かる。
もちろんここが熱いからじゃない。
コレ、本気でヤバくないか? って目を見るだけで分かる。
「グマァアアアアアア!」
雄叫びと共に俺とクマールだった体がラーヴァゴーレムに飛びかかり、力の限り爪を振るって切り裂いて倒して行く。
「やった! ここまでやればさすがに攻撃が通るね! 三倍くらいの攻撃力は確保されているね!」
『ヌ……ヌマ……マママ』
クマールが恐怖で震えている。
ああ、そうだな。俺も怖い。これ……俺達どうなってるんだ?
このまま死んだフリを解除したらどうなるのかまるで想像が出来ない。
そうして恐怖で俺もクマールもルナスでさえも絶句して対応出来ない中……戦闘が終了した。
「ふふふ、どうだい? 僕が足手まといだなんて言わせないよ」
いや、今はそれ所じゃないだろ。
そうして戦闘が終了した後……俺は腕を組んでシュタインに正座をさせる。
「こんな所で正座なんかしたら膝が焼けちゃうんだけど?」
ブスブスと正座させたシュタインの膝から煙が立っているが知ったことでは無い。
それこそ回復魔法でどうにか出来るだろう。
「おい、邪悪なネクロマンサー、なんで俺が正座させているのかわからないのか?」
「全然?」
「まずさっきの魔法はなんだ?」
「なんだってゾンビ同士を融合させてキメラゾンビにする魔法だよ」
「だよって平気でぶちかますな」
どうにか戦闘終了してシュタインが魔法を解除すると俺とクマールは分離していたんだけどな。
心臓に恐ろしく悪かったわ。
「ヌマ!」
クマールも俺に合わせてシュタインに向かって抗議の声を上げてるぞ。
「大丈夫だって、どういった魔法か僕も分かっているから使ったんだよ。リエルとクマール単体じゃ相手を倒すのに時間が掛かると思ったからやってみただけでさ」
「言い訳をしたつもりか、本気でこっちは胆が冷えたんだからな」
「リエル、クマール。僕が君達を二度と利用できない様な真似をすると思っているとしたら心外だよ」
だからといって俺とクマールの体を合体させるとかどんな発想なら出来るんだコイツは……。
なんか精霊をその身に宿すとか一時的に合体するとかそう言った魔法があるとか聞いた事はあるけどぶっつけ本番でこんな真似されたら驚くだろ。
「とにかく、幾ら大丈夫だからと言って俺とクマールを合体とか平然とするな。わかったな?」
「少年。さすがに限度があるぞ」
「ゾンビ同士を合体させる魔法くらいは良いかと思ったんだけどなー……リエル達がそこまで言うなら妥協するよ」
妥協とか若干引っかかる物言いだな。
「クマールも怖かったよな」
「ヌマー」
念話で宥めるとクマールは落ち着きを取り戻した様だ。
ただ、なんかクマールは冷静になった所で体とはいえ俺へ貢献出来るのなら悪い方法では無いのでは? とか考えている。
「クマール。そこまでしなくて良いからな?」
「ヌマ!」
わかったー! ってクマールも理解してくれて鳴いている。
健気なのは良いけどこれは間違っているから認めてはいけない。
「しょうがない。まずはリエルゾンビを強化してワーウルフ化させる魔法の方にしようか」
……シュタインが妥協したと言った舌の根も乾かない内に何かぶっ放している。
「そろそろ使役しているゾンビを合体させる以外に進化させる魔法を上手く使える様になる手応えがあるんだよね」
「ワーウルフとな? それは人狼とは異なるのか?」
「見た目似てるし呼び名も近いからややこしいけどアンデッドにもワーウルフって居るんだよね。死霊術はゾンビを一時的に強力なアンデッドに変貌させる事も出来るからね。習熟出来てきているからやってみると良いと思うんだ」
「ふむ……」
「リエルの体はなんだかんだLvが高いからね。ゾンビ進化が出来る様になっているはずなんだ。僕の腕前がちょっと足りなくてもリエルの体の方が進化して対応するはずだし」
いや、なんでこれからの戦闘方法の模索をそこまでしてるわけ?
というか俺達の体って普通にゾンビとして酷使される以上に酷い運用をされているって分かってるのだろうか?
戦っている内に俺のゾンビとしての部分がワーウルフに進化してしまうとか……悲しくなってくるぞ。
ゾンビというかバーサーカーな体がもっと凶悪な運用をされていく……。
補足となるが、人狼と呼ばれる人種が銀のアクセサリーを着用しているのはアンデッドのワーウルフでは無いという証明をするためらしい。
「つまりリエルの体の方もそろそろ強化されるという事だな」
「うん。死霊術士の研究結果とかにあるんだよね。腐敗しつつ特定の領域まで死体を操るとワーウルフとかに進化って話がさ。まあ魔法で起動させたゾンビじゃなく、闇の力を元に動き始めたゾンビを死霊術で操った話なんだけど」
うん、じゃねえよ……しかも知りたくない情報まで開示するな。
「途中でヴァンパイアまで進化した所まではわかってるよ。そこまで来た所で制御が難しくなって処分したって話なんだけどね。それを一時的に再現した闇の魔法があるんだ」
「ヴァンパイアか……演劇の人気演目にあるぞ? 美青年として人気の役柄でな? 恐怖を見せつつ不思議な魅力があると言われている。少年はゾンビに興味を持ち、少女はヴァンパイアに興味を持つ年代があるとの話だ」
嫌だなそんな話。
俺が子供の頃は記述で読んで厄介な魔物なんだなって認識しかなかったぞ。
「ヴァンパイアのリエル……是非見てみたいものだな」
「いや、何も素敵な状況じゃないからな? そんな状態で日の光とか浴びたらどうなるんだ?」
「無敵ゾンビのリエル達が日光程度でやられるはずないじゃないか」
「どうやら少年のリエル達の体を使った戦法もまだ発展性があるようだな」
「過去の死霊術士の技量を超えて見せるさ。仮に制御が難しくなったとしてもリエル達が死んだフリを解除すれば魔法も解除可能さ。何せ、本当は死んでないのだからね」
ああ、俺達の体はどこまで酷使されるんだろうな。