147 6倍
『ヌマー』
ってクマールがルナス達に声を発しているけれど、ルナス達は聞こえない様だ。
念魔法がある俺じゃないと死んだフリ状態で声は出せないか。
「ふむ……感覚で言うなら6倍と言った所か。リエルが4倍でクマールが2倍分の強化をしてくれるという事だな」
「死んだ仲間の数で力を強めるスキルだけど、人数によって増える倍率はある程度は決まっているらしいからね」
「8倍や16倍を期待したかったがしょうがないな」
どんだけ自身の強化を期待していたんだ、ルナスは。
以前の4倍でも相当だったんだ。
6倍でも十分すぎる性能だろう。
「後はリエル、クマールもだけどちょっと実験するから死んだフリを解除するの待ってね。特にクマールは」
『ヌマ?』
シュタインがそう言ってからクマールの棺桶に向かってホーリーボールを放つ。
ホーリーボールはクマールの棺桶に命中して弾けた。
「うん。クマールの死んだフリで出た棺桶もしっかりと蘇生猶予の無敵状態だね。じゃ、次はクマールに僕の死霊術が掛かるかの検証、上手く行ったら次は戦闘に入るよ」
『はいはい』
「じゃあ……よっと」
シュタインが死霊術をクマールの棺桶に向かって放つ。
すると棺桶の蓋が開いて……俺の時と同じくクマールの体が起き上がった。
「ヌ……グウ……」
虚ろで赤い目をしたクマールの体がシュタインの命令に応じて動き始める。
普段のクマールの様子とは纏う空気がまるで違うな。
大人しいクマールとは違って歯をむき出しにして襲いかかりそうな雰囲気を持っている感じだ。
『ヌマー……』
クマールも自分の体が操作されている姿を見て複雑な心境っぽい声を上げている。
もちろん念話を介しているので声と同じく微妙な気分な様だ。
「うん。上手く死霊術が掛かったね」
シュタインの命令に従ってクマールの体がシュタインとルナスの二人に近づいた。
「ふむ……そうだな」
これ幸いとばかりにルナスが屈んで……クマールの腹に手を回してなで始める。
「あ、ずるい。僕もクマールのお腹なでる」
「リエルにはよく触らせる癖に私と少年には絶対に触らせてくれないからな。この時こそチャンスというものだ」
「わ、さわり心地が良くて張りがあるね。打楽器みたい」
「うむ」
『ヌマ! ヌマァア! ヌマ!』
なんかクマールがここぞとばかりに腹をなでる二人に抗議の声を上げて死んだフリを解除してぐるんと転がって俺の棺桶の方へと一目散に逃げ出した。
「死んだフリを解除されてしまったぞ」
「まあ僕の死霊術は死者に効果がある訳だから死んだフリを解除したら解けてしまうね」
「ヌマァアアア!」
親しき仲にも礼儀ありとばかりにクマールは毛を逆立たせて威嚇して居る。
いや……何をここぞとばかりにしてるんだよお前等は……。
呆れ気味に死んだフリを解除して起き上がる。
「ヌマー」
クマールが俺にすり寄って涙目になっている。
そんなにも腹を二人に撫でられるのは嫌なのか。
念話で聞くと、嫌だって返事が来た。俺以外には触らせたくない大事な所なんだと。
それってタヌクマとしての習性とかそんな部分なのか?
「どさくさに紛れてクマールのお腹に触らない。なんか俺以外に触らせるの本気で嫌なんだと」
「あらま、そこまで嫌な所だったんだ」
「少しくらい良いでは無いかと思うのだがな……しょうがあるまい」
「ヌマー」
とりあえずクマールを宥めつつ確認結果をまとめるとしよう。
「シュタイン達の実験はともかくルナスの方は随分と高威力になったもんだな」
確実に一撃で仕留められる火力となってしまっている。
こりゃあ歯ごたえが無いとルナスは感じても不思議じゃ無い。
6倍の攻撃力で6倍速で動く……どれだけ驚異的な戦闘力かと思うと想像に容易い。
今にして俺達はとんでもない領域に来てしまっている様に思える。
「ふははは。これが君とクマール、そして私の力だ」
「もうそれは聞き飽きる位、耳にしてる」
「ヌマ!」
腹を撫でられて機嫌を損ねていたクマールが誇らしげに鳴いている。
悪いけどコレってあんまり胸を張れるような戦法じゃ無いと思うんだけどな。
「とりあえずクマールの死んだフリはリエルのに限りなく近いというのが分かったね。分かっては居たけど検証は必要でしょ?」
「まあな……」
「ヌマー」
「クマールのお腹、凄く触り心地良かったね」
「リエルが体調管理から毛並みの手入れまでマメにしているからな。クマールはすくすくと育っているという事だろう」
なんかクマールの毛並みチェックって事で話題を逸らそうとして居るけど腹をなで回したのは変わらないからな。
「さーて次は僕の番だね」
「シュタインの場合は単純に俺とクマールの体を操って戦うだけだろ。ルナスほど劇的な変化は無いんじゃ無いか?」
「ふふ、戦力が倍になるというのは僕からしても出来る事が増えて大いに助かるものさ。そもそも僕の死霊術だって成長の可能性を持って居るんだからしっかりと使って行かなきゃね」
結局俺とクマールの体を有効活用して居るだけだろとは思うけどな。
死霊術の成長ね……使えば使うほど俺達の体が機敏に動くとかあるだろうか?
「うむ。では次の戦闘では少年の戦いを見させて貰うとしよう」
「当然さ。ただ、クマールゾンビの戦闘力はどの程度かって所だね。リエルゾンビよりも噛みつきとかはさせやすいのが長所かな?」
まあ……俺が噛みつくよりもクマールの方がその辺りは向いているのは間違い無いか。
問題はクマールの体はそんな大きく無いんだけどな。
「ヌッマ!」
クマールが重たい物を背負いたいと念話で繋いだ意思で答える。
体を鍛えたいのね。まあ、基本付いてきてるだけだったクマールもこれから戦闘に貢献したいって気持ちは分かったけどさ。
しょうがないのでクマールに背負わせているポーチの中の物を少し増やしてあげた。
「そんじゃ次に行くか……この階層は危険な魔物も多いから注意して行こう」
って感じで俺達は36階を調査して回った。
灼熱地帯でもあるけど結構いろんな薬草とか鉱石があるんだなー。
適度の採取しつつ魔物と遭遇、シュタインは俺とクマールのゾンビを使って魔物を攻撃して倒した。
無敵ゾンビだし、攻撃力は二倍な訳で……俺とクマールが普段の状態では絶対に出来ないアクロバットな連携で倒す姿は複雑な気持ちにしてくれる。
ちなみにファイアサラマンダーは文字通り火を吐いたりする魔物なんだけど俺とクマールは物ともせずに倒して行く。
『ヌマー』
クマールは自分の体が遙かに強力な魔物に挑む姿を見て感動に近い感情を持った様だった。
後は俺が念魔法を死んだフリ中に使えるかを少し試した。
近くの石を意思の力で干渉して持ち上げて魔物に向けてぶつけた。
一応少しは効果があるようだし、干渉している最中に死んだフリが解除されるとかは無かった。
「まあ……こんな所だよねー」
ただクマールゾンビの戦闘の貢献度はどの程度かというとちょっと判断に悩む。
ファイアサラマンダーの皮膚をかみ切って離脱とかするけど、俺の体みたいに力の限り殴りつけて仕留めるとかはまだ出来ない感じだ。
「うん。大分僕もリエル達を操作しながら強力な魔物達を倒して大分成長してきたのを実感してきたよ」
「そうか。それは何よりだ」
ルナスも戦闘に参加、戦闘時間を引き延ばすためにルナスは近接攻撃でシュタインの戦う分を残して戦うのを繰り返して答える。
「ラーヴァゴーレムか……ちょっと今のリエル達じゃ攻撃力が足りないね」




