146 ファイアサラマンダー
「色々と考えているんだね」
「まあな。ただ、この念魔法だけど今の範囲でも出来る応用はある」
「それはどんな?」
「罠とかを宝箱に仕掛けられていても内部を把握で確認して念魔法で仕掛けを解除出来る。中身を手を使わずに解けるのは便利だ」
「実にレンジャーらしい考えだね。やっぱりリエルは真面目にレンジャーしてたんだね」
そりゃあ見習い時代はそうやって色々とやってきたんだ。
「まあ、問題は魔法反応型の宝箱とかだけど、今度は魔力が俺自身にあるからそれはそれで解除しやすい」
「どっちにしてもリエルからすると良いスキルを授かったね。回復魔法も使えたら良いね」
「……まあ、あったら便利なのは否定しないさ」
「今のリエルなら大手を振って家に帰れるんじゃない?」
シュタインの奴は本当、聞きづらい事をずけずけと入ってくるなー。
「恥さらしって追い出されたんだ。冒険者として宮仕えパーティーに入ったって程度じゃなんとも思われないだろうさ」
「まー……そうかもね。ただ、村の人達はリエルの事を随分と慕ってたよ。前に一度立ち寄った際にみんなリエルの事を話していたよ」
「ルナスもシュタインも言ってただろ? 今更遅い話さ」
ここでちょっと言い返してやろう。
俺の授かったスキル構成を知った際の人々の目を俺はきっと忘れないだろう。
「ヌマ?」
「クマールは気にしなくて良いぞ。今の俺からしたらどうでもいい話さ」
なんだかんだ似たもの同士だからな。
クマール、俺は絶対にお前を見捨てたりしないぞ?
「ヌマ……」
ぶくぶくとクマールは湯船に口を沈めてぶくぶくと声を漏らす。
どうしたんだ?
「そっか……まあリエルの自由だからね。それじゃ僕も湯船に入って疲れを取ろうかな」
なんて感じで俺達は入浴を終えて体の汚れを落としたのだった。
「さて、汗を洗い流した訳だが野営地を決め、36階を少々探索しようか。ついでに言おう。一人温泉は寂しかったぞ」
入浴後にルナスがこれから野営をするまでの予定を言いながら愚痴を追加する。
「リエル、ボッチ温泉など楽しくないのだ。混浴をしようではないか」
「ちゃんと隠す物を隠して不必要なボディタッチや誘惑をしないのなら良いかもな」
「うむ! 絶対だぞ! 二度風呂を私はするからな!」
どんな宣言だ?
「それでリエル、36階って奥へ行くと結構熱い階層だけど準備はしているのかい?」
「ある程度はな。ファイアジュエルドラゴン対策の品も多少は用意してる」
火山帯みたいな高温地域であるので冷却効果のある防熱の魔法結晶を用意してある。
「準備万端だね。ただ、余りにも熱かったらルナスさんに氷の魔法を勇者の怒り状態で使って貰えば良さそうだよね」
「氷結洞窟地帯でも似たような話をしただろ……それ」
「まあね」
「ふふ、地形を変えるのも悪くは無い」
「悪く無い、じゃないだろ。まあ……目当ての魔物を倒すのが目的でこの辺りの特産品が目的じゃないから悪くは無いけど程々にな」
「それでこの辺りってどんな魔物が出るんだっけ?」
「ドラゴン系やリザード系の魔物が多いな。誰が言ったか竜の巣。ついでにここで色々と素材を集めて持ち帰れば一気に装備の質が上げられるって所だよ」
他にラーヴァゴーレムとかもマグマから出てくるらしい。
炎熱の魔法罠という威力の高い火柱を吹き上げる罠も時々あるから解除が面倒な所だ。
「ちなみに良質な鉱石なんかも得られるから土産にするのには良い階層だ」
「ふーん……こりゃあちょっと厳しいけど持ち帰れる物資を考えて僕が死霊術で手頃なサイズの魔物を荷物持ちとして帰りは連れ歩くのも良いかもしれないね」
「……そうだな。シュタインが死霊術で手頃なサイズの魔物を操って荷物持ちにすれば相当の物資を持っては行けるかも知れないな。お前が死霊術士ってバレるが」
色々と隠しておきたいんだろう。
死霊術での荷物運びは程々に俺に任せろ。クマールはそこまで荷物を持てない。
精々重たい荷物袋に乗っかって軽減してくれるだけでも良い。
「そこなんだよねー僕たちで持ち帰れる物資の量には限界があるからねーやっぱ難しいか」
「ヌマ!」
クマールが任せろと鳴いている。荷物持ちってプライドがあるっぽい。
体を鍛えたいってクマールは思っているようだ。
持たせているポーチにもう少し重たい物を入れたら満足してくれるかな?
「もっと深い階層で良い物資が手に入るのでは無いか?」
「少なくとも40階層までの中で一つ頭抜けた階層って事だ。だから41階層前後で良い素材が無ければここで稼いで帰るのが良いだろうって話」
「そうか……41階も似たように良い品があれば良いな」
「そうだな」
「ならばできる限り早くファイアジュエルドラゴンを見つけて仕留め、次の階層に行くのが良いという事か?」
「一応な。37階に行く道を見つけないと行けないけど」
「分かった。さて……それではリエル、クマール。待望の時間だぞ」
やっぱり期待していたんだな。死んだフリ二つの勇者の怒りを。
「はいはい」
「僕も僕もー」
「シュタインは次な。一緒に行動されるとルナスも強さの判断がしづらいだろ?」
「うむ」
って事で俺達は野営地から進んで行き、魔物の数を把握する。
「えっと、ファイアサラマンダーが3体この先に居る。ちょっと熱源に近いな……ここで既にマグマがあるのか」
把握で確認出来る範囲の状況がまざまざと分かる。
遠くなのに分かるってよく考えたら魔法みたいだな。改めて感じる把握の奥の深さ……これがクマールの感じる世界なんだな。
「このまま進んで行って……3分後にファイアサラマンダーを目視で確認出来るよ」
「そうか……では見えたら頼むぞ」
「了解。クマールも俺の死んだフリに合わせてやるぞ」
「ヌマ!」
そんな訳で移動した所、ファイアサラマンダーが三匹集まってマグマの近くで暖を取っている……というかマグマの片隅で休んでいる感じか。
「じゃあ行くよ」
俺はクマールに合図を送って死んだフリ状態になる。
するとクマールも合わせて死んだフリをして棺桶が二つ並んだ。
「おお……前よりも力が更に漲る……では行くぞ! コールドボルト!」
手始めにとぶっ放したルナスのコールドボルト……高密度の濃縮された氷の塊が高速でファイアサラマンダーの群れに飛んで行き通り過ぎて背後のマグマ地帯を氷結地帯へと変貌させてしまった。
ファイアサラマンダー達はこっちの攻撃に気付いてフッと顔を向けた状態で凍り付いてしまっていた。
即死で完全に氷像と化している。
「ふむ……どうやら私は強くなりすぎてしまったようだぞ。一撃で倒してしまってよくわからん」
「瞬殺ってなると相手の特性とか調べようがないもんね」
「暴れ足りんぞー!」
と、残像を宿しながらルナスが八つ当たりとばかりに凍り付かせたファイアサラマンダー達に向かって近づいて剣で切り裂いて戻ってきて剣を鞘に収める。
チン! っと音がすると同時にファイアサラマンダー達の氷像は切り刻まれて氷で作られた家へと変貌してしまった。
謎の芸当をしている。
『勇者の怒りで遊ぶな!』
「お! リエルの声が頭に聞こえてくるな。やはり死んだフリ状態でも意思を伝えられる様になったのだな」
あ、声が届くようになったんだったっけ。
明確に意識すればルナスやシュタインに指示を出せる様になったのか。
って思いながら同じく死んだフリ状態のクマールを見る。
『ヌマー』
あ、クマールも棺桶の上で浮いている様に俺には見える様になったようだ。
手を振るとクマールが俺に片手を上げて答えてくれる。
幽体離脱仲間だな。




