145 幼馴染の意見
「ルナスさん、ルナスさん」
ん? なんだ?
……なんかとてつもなくどうでも良さそうな事をシュタインが言いそうな気がする。
「リエルは把握持ちだよ? わざわざ混浴とか覗きとかしなくてもルナスさんの鎧の内側、その裸体を見なくても弄って確認出来るんだよ」
「なんでそうなるんだよ!」
思わずツッコミを入れざるを得ない。
どこをどうしたら把握で相手の体を卑猥な意味で確認出来る事になるんだ。
「なるほど」
「なるほどじゃない。そんな事をした事は無い。シュタイン、心外な事を言うな」
「まあ隠密の僕も服の下に何か隠し持っているとか確認するのはちょっと面倒だけど出来るし、リエルもしていたりするんじゃないの?」
「そりゃあ集中して把握しようとしたら出来る可能性はあるけど、相手が何を持っているのかとか具体的な道具くらいで体の輪郭とかそんな内部まで把握するかよ」
「ふっ……リエル、そんな隠れながら私の裸体を確認しなくても君が望めばいつでも見せてあげるぞ?」
っとここぞとばかりになんか色っぽいポーズを取ろうとしているけど、ルナスはその辺りの理解が低いのか、あまり色っぽく出来ていない。
「はいはい。そんな事はどうでも良いから早めに汗を洗い流してリラックスでもしていてくれ」
「ううむ……少年、どうしたらリエルが興奮するように出来るのだろうな? 幼馴染としての意見を求める」
「ルナスさん、リエルは厳格な聖女って思えば良いんだよ。演劇が好きなんでしょ? そんな聖女に下心丸出しの男キャラが近づいたって靡くかい?」
何言ってんだ、コイツ。
「フッ……甘いぞ少年。それは少し前の王道だ。今は純愛など不貞行為の前段階という見解もあるのだぞ? 業界の玄人ともなるとな、純情な恋愛をしている男女など、二人の想いを引き裂くクズな輩が現れるプロローグでしかないのだ。嫌な時代になったものだな……」
こっちも何を言っているんだ?
そんな玄人、嫌だな……。
厳格な聖女とやらが不貞行為をしちゃダメだろ。
「う~ん、流行って移り変わるものなんだね」
「現実と創作を同一視するつもりはないが、実際にマシュアやルセンの様な今更遅いと言われる者がいるのだ。大切な者、愛する者の身は例え安全な場所でも見守る必要があるという事なのだ」
「なるほどね」
「だから私は常にリエルの周りをウロチョロしているのだ。他の女が間に入る隙など与えるつもりはない。私は今更遅いなどとは言わせんぞ、リエル」
本気で何を言っているんだ。
コイツ等。
「まあ意味は伝わったでしょ?」
「そうだな。我々にとって聖女の様な存在なのは否定出来まい」
「誰が聖女だ誰が」
「え?」
俺を指さすなよ。
というか両手で俺を指さしながら片足上げて変なポーズを取るな。
「ともかく、僕達の眠れる姫にして力の源である聖女リエルだよ」
「よし、次言ったら怒るからな」
「ヌマー」
「さしずめクマールはリエルに付き従う聖獣であるな」
「ヌマ!」
クマールが褒められているとわかったのか嬉しそうな声を出す。
褒めて無いぞ、コイツ等は。
「理由はわかったぞ、少年。強引に攻めるのは良くないという事だな。だが、どうしたらリエルは私の誘いに乗ってくるのかね?」
「演劇の勇者みたいに格好良くしていればいつか自ら付いてきてくれるよ。無理に押したら逆に遠ざかると思うべきかな」
「ふむ……」
ふむ……じゃないとツッコミを入れたいけど絡んだら負けだ。
ここは変化球の嫌みで返してさっさと温泉でゆっくり疲れを落とすのが良いだろう。
「シュタインは女顔だし、ルナスと入っていれば良いんじゃないか? 先に行ってるからな」
「おや、からかっていたらやぶ蛇を突いちゃったみたい。それじゃルナスさん、ごゆっくりー」
って訳で俺達は少し離れた温泉に服を脱いで浸かった。
こういう時に把握があるのは便利だな。どこら辺が熱いかとか分かるし。
クマールのお陰で把握の精度も上がっていて、より理解出来る様になった。
「リエル、石鹸とか持ってる?」
「食器を水場で洗えるようにな。それを使えば良いだろ。ほら手ぬぐい」
と、持ってきた手ぬぐいをシュタインに渡して俺はクマールを洗う。
「ヌマー」
うむ、毛の抜ける量が多いけど新しく生える量も多いな。
健康状態は異常なし。
むしろ元気な位だが、体の密度は上がり気味かな?
新陳代謝が上昇している様だ。
これも急激なレベル上昇による影響だろうか。
ワシャワシャとクマールを泡立てる。
最初は余り泡立たなかったけど、何度か洗っている内に泡立ち始めて綺麗になった。
「よーし、クマール。洗い終わったぞー」
「ヌマー」
「ちょっと熱いけどゆっくり入っててくれ」
「ヌマ!」
念話で意味をしっかりと教えられるのは便利だ。
クマールは俺のお願いを聞いて温泉に浸かってくれている。
その間に俺も体を洗って湯船に入る。
「ふー」
「リエルー」
シュタインが悪ふざけでサラッと髪を靡かせて謎の振り向き美人的なポーズを取る。
「はいはい。まだその遊びをしているのかお前」
小さい頃、シュタインと一緒に水遊びした際にこの悪ふざけをしていた。
目元が隠れ気味だけど女っぽい体格をしているから一緒に水遊びした男友達とかと悪ふざけをしていたんだ。
「一人で沐浴とかしてる所に男性教徒とかがくると間違えて赤面させちゃったりするんだよ。どう? 僕の溢れんばかりの色気」
「初見だと間違うかもな」
俺は男だって知ってるし。
「少年! 遠くで何をしているのだー! リエルに悩殺かー!」
離れた所でルナスがなんかこっちを指さしている。
うわ、ルナスが反応しちゃうんだ。
隙が無いのは事実なのかもしれない。
「シュタインの悪ふざけにわざわざ反応しなくて良いから!」
「ヌマー」
クマールが足の付かない所まで移動して器用に犬かきをして泳いで行く。
泳げるんだなクマール。
「ヌマー」
馬鹿な事ばかりしている二人に注意するのも疲れたし、ここはクマールで癒やされながら羽を伸ばしておこう。
と、俺はしばし入浴をして体力の回復を図る。
「そういえばリエル、君も魔法資質が開花したから分かると思うけど温泉には魔力が宿っているから回復するよ」
「それくらいは冒険者として基礎で知ってる。そもそも魔力を大して消費してない」
まだ開花を自覚してすぐなんだ。
そんな消費もしてないんだぞ。
とは言っても魔力という感覚は不思議な感覚だな。
どんな魔法があるのかを学ばないと上手く習熟するのは難しいか。
スキルを手に入れただけでは難しそうだ。
態々国や組織が学校やギルドを設立しているのは技術を蓄積し、伝えていく為なんだろう。
魔法となると単純に格上の相手と戦えば上がるってだけの代物では無い。
魔力自体は上がるかも知れないし、細かい制御などは出来るけど元々の力の使い方が分からなければ宝の持ち腐れだ。
「まあ、僕も戦闘終了前にルナスさんの回復魔法で魔力が少し回復するからそんな消耗しないんだけどね」
「俺にもこれから掛かるのかね」
「広範囲だから掛かるんじゃない? 考察で考えるとリエルって死んだフリ中とかも魔法が使えるのかな?」
「試してみれば良いだけだな。使った直後は隙だらけで無敵が解除されるとかだと厄介だし……何より魔力が強まった所為で魂の場所がバレて攻撃されるとかもあり得る」
前例が無い状態の死んだフリなんだ。
フォーススキルが出た所為で逆に弱点が出来る可能性だってゼロでは無い。