144 温泉
ルナスが温泉に手をかざして、温度を確かめている。
「ここ数日は迷宮での日々であるから、体を洗いたい衝動に駆られるな」
「あ、ルナスもそう思う時があるんだな」
「そりゃあそうだろう。リエル、君は私をなんだと思って居るんだ?」
ここ最近のルナスの言動とかを考えると、きれい好きとか女性らしい所とかは意識の外にあるんだけど?
「……」
「おほん、私だって綺麗好きだぞ。毎日体を水で拭くだけよりも水を浴びて体を清めたくもなる」
「まあ僕も綺麗にしたいのは賛成かな。不潔なのって嫌だよね」
シュタインも体を洗うというのは賛成なようだ。
「入浴中に魔物が出てくる可能性とかは……」
「君やクマール、少年の警戒網を抜けて奇襲をここの魔物達は出来るのかね?」
まあ、言ってはなんだけどクマールが俺に掛けてくれているスキルスタックの影響で把握の範囲が大きく広がっている。
万能感と呼ぶのだろうか、見つけられない物は無いのではないかって位には周囲を把握出来ていると錯覚してしまうくらいだ。
もちろん把握なのでファーストスキルに隠密とか潜伏とか持っている相手などには通じないだろうけど、36階にそんな力を宿した魔物はいない。
土の中から出てくる魔物とかも居るけれど、出現の気配がしたら分かる。
「では早速温泉に入ろうではないか!」
「じゃあ俺達は近くの別の温泉に入るな。仕切りがあれば良いんだけど」
俺達の中で女はルナスだけだし、ここは譲って俺とシュタインは他の温泉に入れば良いだろう。
「わー……さすがリエルだね」
何がさすがなのか訳がわからない事をシュタインが言って来たのを無視する。
「ヌマー」
「クマールも洗ってやるからな」
「ヌマ?」
とりあえず何をするのか念話で伝えると、綺麗にするって事は理解してくれたようだ。
うん。明確に意思が伝えられるって便利だな。
「ふ……リエル、君には私と混浴をするという発想はないのかね?」
ルナスは何を聞いてくるのだろうか?
「そういうのは時と場合を考えて欲しいってのが俺の答えかな」
ダンジョン内、人目は無いとしても混浴に喜んで入るほど俺の良心は爛れていない。
そういうのは安全な地上で仲睦まじい恋人同士がやる事だろう。
「まったく……本当、リエルはこの辺りが厳格すぎるのが難点であるな。少年やクマールの目など気にしなくて良いのだぞ?」
いや、別にシュタインとクマールに気を使っている訳じゃないんだけど?
「ヌマ?」
「確かに少年の背格好は女児と錯覚してしまうが男子であるのはわかっているのだ。遠慮などしなくて良い」
「遠慮をすべきなのはルナスの方だって事を自覚して欲しいんだけどね」
明日からは一括一話更新にします。